中編
「えっ、『疾風のアトラス』が亡くなった!?」
冒険者組合の食堂で驚くべき噂を耳にしたのは、それから数日後だった。
「ああ、東の洞窟で殺られた、って話だ」
「巨人ゴブリンが複数住み着いたから退治してほしい。そんな依頼を受けて……。返り討ちにあったらしいぜ」
巨人ゴブリンといえば、人間の数倍という巨躯を誇るモンスターであり、ゴブリン系モンスターの中でも最強の部類に入る。それが『複数』ともなれば、いくら『疾風のアトラス』とはいえ、一人で立ち向かうのは無謀だった。
だから他の冒険者パーティーと一緒に、臨時のチームを結成して赴いたのだが……。
モンスターの方も仲間連れだった。祭司ゴブリンが、参謀役として加わっていたのだ。
祭司ゴブリンは、体も小さく非力だけれど、頭だけは回るといわれている。そんなモンスターが二匹の巨人ゴブリンを上手く操る格好であり、『疾風のアトラス』たちは苦戦。改めて出直すつもりで、早々と撤退を決意した。
他の冒険者たちを先に逃して、『疾風のアトラス』が殿を引き受けたのだが……。洞窟の横道からさらに一匹、伏兵として配置されていた巨人ゴブリンが参戦。『疾風のアトラス』は、挟み撃ちをくらってしまう。既に仲間とは離れた状態であり、さすがの『疾風のアトラス』でも、どうしようもなかったという。
「その件があって、洞窟の脅威度も跳ね上がってな。かなりの大人数の討伐チームを編成しよう、って話になってるぜ。どうだい、お前も志願してみるか?」
水を向けられたが、僕は大人しく断った。
本当は僕自身の手で、その祭司ゴブリンたちを倒したい。いわば『疾風のアトラス』の仇討ちだ。
そんな気持ちもあったけれど、明らかに分不相応だから駄目だとわかっていた。自分の身の丈にあった冒険をするべき、というのが、『疾風のアトラス』との出会いから教えられたことだった。
たった一度の、別れを兼ねた出会いだったけれど。