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冒険者は一期一会  作者: 烏川 ハル


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1/3

前編

   

「ギギッ……!」

 目の前のモンスターは、必死の形相で僕の剣を受け止めていた。

 こんな小さな体のどこにこれほどの力が秘められているのだろう。驚くほどの怪力であり、むしろ僕の方が押し負けそうな勢いだった。

 騎士ナイトゴブリンでもなければ、鎧衣アーマーゴブリンでもなかった。武器は小型ナイフひとつ、防具はゴブリン帽と布の腰巻きだけという、最下級のゴブリンなのに……。

 いくら僕が駆け出しの冒険者とはいえ、こんなゴブリン一匹に苦戦するとは情けない!


 ちょうど、そんな考えが頭に浮かんだ時。

 僕とゴブリンが戦う森の中を、一陣の風が吹き抜ける。周りの木々がざわめくようにも感じられたが……。

 正確には『風』ではなかった。風のような素早さで、駆け抜けた者がいたのだ。

 真っ黒な金属鎧を身に纏い、柄の青いブロードソードを手にしている。彼も冒険者なのだろう。

 僕が彼を視認するのと、ゴブリンが力を失って崩れ落ちるのは、ほぼ同時だった。

 続いて、倒れたゴブリンの背中に大きな刀傷があることに気づく。この一太刀が致命傷だったらしい。つまり、背後から急襲されて、振り返る暇もなくバッサリ()られたのだ。


 状況を理解した僕に対して、漆黒の冒険者が話しかけてくる。

「悪かったな、獲物を横取りする形になって」

「いえいえ、横取りだなんて……。おかげで助かりました」

 彼だってわかっているはずだ。あのままでは僕は危なかった、と。「獲物を横取り」というつもりはなく、純粋に好意で助けてくれたのだ。

 小さく頷きながら、彼は周囲の緑を見回す。

「この森は初心者向けのダンジョンだが、それでもダンジョンである以上、いつどこからモンスターが出てくるかわからない。たとえ格下のモンスターでも油断はするなよ」

「はい!」

 気持ちが引き締まる思いで、僕は反射的に、元気よく返事していた。

 その様子がおかしかったらしく、彼は軽く笑いながら言葉を続ける。

「初心者のうちは一人でダンジョンに入るのでなく、仲間を(つの)って、パーティーを組んだ方がいいだろうな。それじゃ、頑張れよ!」

 この場に僕を一人残して、彼は立ち去ろうとしていた。

 パーティー結成を推奨しておきながら、自分が仲間になろうとか、森を出るまで一緒に行動しようとかは言わない。そこまで甘くないのが先輩冒険者の厳しさなのだろう。

 それはわかった上で、このまま別れるのは少し名残惜しく感じた。

「ありがとうございました。あの、お名前は……?」

「俺はアトラス。『疾風のアトラス』と呼ばれている」

 二つ名を口にする時だけ、少し照れたような表情を浮かべて、

「いずれ、また出会う機会もあるだろう。冒険者なんて、出会いと別れの繰り返しだからな。じゃあ、またな!」

 そう言い残すと、彼は森の奥へと消えていく。


「あれが『疾風のアトラス』か……」

 後ろ姿を見送りながら、思わず僕は呟いていた。

 そもそも『〇〇の』というような二つ名付きで呼ばれるのは、かなりの腕前の冒険者のみ。中でも『疾風のアトラス』は、Sランクと噂されるほどで、僕でも名前を知っているような有名人だった。

「すごいなあ。いつかは僕も、あんなふうになりたい……」

 しかし、それは遠い憧れに過ぎない。

 今の僕は、まだまだ駆け出しであり、彼に言われた通り、一人でこの森を彷徨(さまよ)うのも危険なレベルだった。

「うん、無理はしないでおこう!」

 今日はもう切り上げることにして、僕は森の出口へ向かうのだった。

   

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