#93 【悲報】結衣に彼女ができた・後編
はぁ………なんであんな事言っちゃったんだろう。結衣だってもう5年生なんだから好きな子くらいできたって不思議じゃない、なのに……。
けど、結衣だって悪いと思う。だって結衣が「結衣はお姉ちゃんと付き合うの!」って言ったんだよ!?
言ってくれた時はすごく嬉しかった。こんな可愛い子が私なんかと付き合うって言ってくれたんだもん。だから私は結衣が付き合うに相応しい歳まで我慢してようと思ってたのに、それなのに結衣は帰ってきたらいきなり「彼女ができた!」なんて言ってくるんだもん!
はぁ……馬鹿みたい。子供の言ってることを勝手に信じて、勝手に勘違いして、こうやって部屋に引き篭もる。子供の言った言葉なんて当てにならないのに。
………ちょっとだけ寝よう。
◇ ◇ ◇
………なんか焦げてるような匂いがするような。ちょっと待って!? 焦げてるってどういう事!? 急いで部屋を出て確認しようとしてドアノブに手をかけてドアを開けようとした。けど、ドアが開くことは無かった。
時計を見ると6時を指していた。いつもだったらちょうど夜ご飯を食べてる時間だ。という事はきっと結衣がなにか夜ご飯を食べようとしてのかもしれない。そう考えると部屋に行く気になれなかった。あんなことを言った手前何事も無かったように顔を合わせる程の勇気は俺には無かった。
モヤモヤする。俺のことを好きだと言ってくれたのにそのことを忘れて普通に過ごしている結衣のことが気に入らない。私だけが本気になってたのかな、そっか、そうだよね。結衣は頭が良くて空気が読める、だからきっと私のことを好きと言ってくれたのも空気を読んだからだ。うん、そうに違いない。
なんか余計にモヤモヤする。ちょっと誰かと電話とかしようかな。
なんて考えているといつもじゃ考えられない人から電話が来た。
「どうしたの? 夢未ちゃん」
「んーん、今葵お姉ちゃんは何をしてるのかなぁ〜って気になったから」
「何をしてるかって? そりゃあ………仕事だよ、仕事」
「………」
「夢未ちゃん?」
何故か夢未ちゃんが急に黙り込んでしまった。いったいどうしたんだろう。
「本当にお仕事してるの?」
「してるよ」
「じゃあ……結衣ちゃんに替わって?」
「え………」
「お仕事してるんでしょ? だったら私と電話してたら集中できないから結衣ちゃんに替わってって言ったの。出来るでしょ?」
「……………」
俺はその要望に応えることが出来なかった。当たり前だ、何も言わずに部屋に篭っちゃったんだから。それなのにこんな事のために部屋を出て結衣に電話を渡すことなんて出来るはずがない。
「はぁ……そんなんじゃ本当に結衣ちゃんに嫌われちゃうよ? いいの?」
「………どういう事」
「簡単だよっ! 結衣ちゃんと喧嘩したんでしょ」
「ーー! どうしてそれを!?」
「さっきね、結衣ちゃんから連絡があったの。お姉ちゃんと喧嘩しちゃったて、葵お姉ちゃん何があったの?」
結衣………。
「言いたくない………」
「はぁ、嫉妬しちゃったんでしょ、結衣の彼女に」
「…………」
「無言は肯定って捉えるわよ。はぁ、葵お姉ちゃんは結衣ちゃんが約束を破って好きな人を作ると思ってるの?」
「…………わかんない」
「あのねぇ、今までどんだけ結衣ちゃんと一緒にいたの? 結衣ちゃんはそんな事はしないってわかってるでしょ」
「………」
「話しかけづらいのもわかるよ、だって私もお姉ちゃんと喧嘩した時はそうだもん。けど、ここは人生の先輩として先に動いてあげるべきなんじゃないの? 葵お姉ちゃんは結衣ちゃんのこと大好きなんじゃないの?」
「………好き…………世界で一番、誰よりも愛してる」
「じゃあ心を決めて行って来なよ! じゃないと本当にその彼女の物になっちゃうよ!」
「ヤダ! そんなの絶対嫌だ! 結衣は私のお嫁さんだもん!!」
「ーー! じゃあ行ってきなさい、その気持ちをガツンと結衣ちゃんに伝えれば良いのよ!!」
「………わかった、行ってくる!」
「頑張ってね!」
俺はそう言って電話を切った。
ふぅ、夢未ちゃんのおかげでスッキリしたかも。よし! ここでずっとクヨクヨしてても何も変わらない、だったら行ってやんよ!
そして今度こそドアノブを強く握ってドアを開けた。
◇
ドアを開けてキッチンにいるであろう結衣に気づかれないようにゆっくりキッチンに向かった。そして壁の陰に隠れてそっとキッチンを見ると結衣がホットケーキを作っていた。隣には失敗したのか焦げてたり、形が歪なホットケーキが大量に積み上げられていた。
「あっ! また失敗しちゃった………」
そう言う結衣は作りかけのホットケーキを皿に移すとまた作り始めた。そしてそれを何回か見たところで遂に我慢の限界が来た。
「結衣! 今!」
「えっ? お姉ちゃん!?」
「早くひっくり返す! 焦げちゃうでしょ!!」
「は、はい!」
私がそう言うと結衣は「どうしてここに?」と言う顔をしたけどすぐにフライパンに視線を戻した。
「なんでフライ返し一個でやってるの!?」
「え……だって、お姉ちゃんいつも一個でやってるから………」
なぜか結衣は一個のフライ返しでホットケーキをひっくり返そうとしていたのだ。そりゃ失敗しまくるわ、私だって一個で出来るようになったのはつい最近なんだから結衣が一個で出来るわけがない。
「お姉ちゃんは慣れてるから! 結衣は慣れてないんだから二個使いなさい」
そう言って結衣にもう一つのフライ返しを渡した。
すると結衣は一発でひっくり返すことが出来ていた。まったく、最初から二つでやってれば良いものの。………私が一個でやってたからか。
「やった! ありがとうお姉ちゃん!!」
「ーー! べ、別に結衣にためじゃないんだから!」
急にありがとうと言われて咄嗟に顔を逸らしてしまった。そして恥ずかしくなって自分の部屋に戻ろうと後ろを向いて歩き出そうとしたところで結衣にネグリジェの裾を引っ張られた。
「待って!」
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