#83 春休み突入
「お姉ちゃんただいまー!春休みだよー!!」
終業式を終えた結衣の家に帰ってきての第一声がこれだった。小学校は春休みに入り俺は………繁忙期になった。この時期になると会社でも新年に向けて新しい広告だったりの依頼が殺到するのだ。それには新衣装などの依頼も来るし、会社に出向くことも増える。
「お姉ちゃん、春休み嬉しくないの?」
俺のグデーっとした様子を見た結衣が心配そうに声をかけてくれる。
あぁ、結衣が心配してくれるだけで癒される。もうずっと俺の近くにいて欲しい。
「結衣と午前中も一緒にいれるから嬉しいよ〜」
「結衣もお姉ちゃんとずっと一緒だから楽しみだよ!」
あぁ、こんなに良い笑顔をしてくれているのにあんまりかまってあげられない事で胸が締め付けられる。なるべく早く仕事を終わらせて結衣と一緒に遊べる時間を確保しないとなぁ。
「結衣、春休みどこに行きたいか考えておいて」
「うん!楽しみにしてるね!」
こうして事前に宣言をしておく事で未来の自分の猶予を無くして効率を上げる作戦だ。こうでもしないと俺はどんどん先延ばしにするからな。
〈ピピピッ!〉
んあ?電話?珍しいなこんなお昼時に。
「はい、神崎です」
『姉ちゃん俺だよ!俺おr』
〈ピッ〉
まったく、俺に弟はいないし。しかも今どきオレオレ詐欺に引っかかるやつなんているのかよ。こんなゴミのせいで10秒時間を無駄にしてしまった、早く仕事に戻らねば。
〈ピピピッ!〉
………また懲りもせずにオレオレ詐欺をするつもりなのか?そしたらこいつのメンタル強靭すぎるだろ。ん〜どうしたものか……あっ良い事考えた!
「結衣〜ちょっと電話出てくれるー?」
「わかったー!」
ふふっ結衣に出させる事で相手を混乱させる作戦だ。
さあ相手はどう出る?
「はい!神崎です!」
………さあどうなる!!
「……はい、今代わりますね!お姉ちゃんアキバさんって人から電話だよー!」
あれ、今度はちゃんとした人……いや、ロリコンからか。俺の考えすぎだったのか?
「はい、神崎です」
『おっ今度はちゃんと出てくれたな』
うん?今度は………て事はさっきのオレオレ詐欺はこいつのせいか!!
まったく、一回目から素直に言ってくれてば切ったりしなかったのに。
「何の用ですか」
『あ〜実は、その、一緒に旅行にいk』
「行きません」
『早くない!?私まだ最後まで言ってないんだけど!』
絶対にやだ。だって………まだ結衣には行ってないけど夏休みは絶対に二人きりで旅行に行くって決めてたもん!!それを、こんな変態と一緒にするなんて死んでもイヤだね。
「私たちにも“予定”というものがあるんですよ」
『ん〜それならしょうがないなぁ』
さっさと諦めてくれ、俺は仕事で忙しいのだよ。
「じゃあ私は忙しいので切りますね」
『ちょっとm』
〈ピッ〉
よし、これで邪魔者は消えたな。これでやっと仕事に専念できるよ。
さてと、なるべく一週間以内には終わらせたいな。じゃないと結衣に春休みが終わっちゃうしせっかくの時間が無駄になっちゃうからな。
「お姉ちゃんどんな電話だったの?」
電話を切ったのを確認した結衣が聞いてきた。
「ん〜間違い電話だったから大丈夫だよ」
「そうだったんだ〜」
「結衣、これからお姉ちゃんは超絶ウルトラスーパーハイパー集中モードに入るから夜ご飯の時間になったら教えてね!」
「なんか凄そう……頑張ってねお姉ちゃん!」
よ〜し!頑張るぞー!!
〜〜5時間後〜〜
う………疲れた。もう何もしたくない、けどまだまだ仕事は残ってる。あ〜旅行の足しにしたいからってこんなに引き受けるんじゃなかった。あ〜もう何もやりたくない。
「お姉ちゃん、ご飯作ったよ!」
「結衣〜!お姉ちゃん疲れたよ〜!」
俺はあまりの疲労でメンタルがやられそうになったため結衣に抱きついた。そして結衣は俺のことを優しく包み込んでくれて「頑張ったね〜偉いよ〜」と慰めてくれた。あぁもうこれだけで仕事を頑張ったって思える。
「ほらっそう思ってね今日はお姉ちゃんの好きな麻婆豆腐だよ!」
「結衣〜ありがとう〜!愛してるよ!!」
「お、お姉ちゃん!?む〜いきなりそんな事言われると恥ずかしいじゃん!」
俺が愛していると伝えると結衣は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにした。
自分から言うのは良いのに人から言われるのには弱いのか。ふふっ可愛らしいな。
「も〜!何笑ってるの!!早くごはん食べるよ!」
ふふっ拗ねちゃった。こういうところは来てからも成長はしてないなぁ。けど、いつかはこういうのも無くなっちゃうんだよな。寂しいなぁ。
「結衣」
「なに?」
「先の話になるんだけど、夏休みに二人きりで旅行行こっか!」
「ほんとっ!?やったー!」
良かった、喜んでくれた。
あとは、俺の問題を解決させれば………
「ねぇねぇどこ行くの!!」
「そうね〜候補が二つあって一つは沖縄で海とかに行こうと思ってて、もう一つは京都・大阪に行こうと思ってるんだけど」
「京都が良い!!」
お〜即答だなぁ。俺はこれ考えるのに2週間はかかったんだけどな。
「じゃあ京都・大阪にしよっか!」
「うん!………そういえば、なんで夏休みなの?」
「………」
………やっぱり気になるよな。
けど、これは言っても………良いのか?結衣はこれを聞いてどう思うんだろうか。ひょっとしたら俺のことを嫌いになるかもしれない。けど、いつまでも隠しておく訳にもいかない………
「お姉ちゃん?」
「結衣、この話は食べ終わってからにしよっか」
「?わかった」
そして、ご飯を食べ終わって結衣と向かいあっていた。
◆◆◆
「これからお姉ちゃんは結衣にずっと隠してた事を言うね」
「うん……」
「結衣はお姉ちゃんが男の子ってことは知ってるでしょ」
「うん」
「お姉ちゃんね、性別を変えようと思ってたの」
「え……?」
「びっくりしたよね、けどねお姉ちゃんはずっと考えてたの。結衣は女の子で俺は男、けど戸籍上は女になっている。もう良い加減にこれを終わらせようって」
「けど、ずっと決心がつかなかった。だって生活に一切支障が無かったから」
「けど、結衣が来てから大きく変わった。このままじゃダメだって思った」
「だからこの二度とない機会で変わろうと思ったの」
「………」
「結衣は、これを聞いてどう思った?」
「結衣は………良いと思うよ!!だってお姉ちゃんからほんとのお姉ちゃんになるんでしょ!そしたら女の子同士いろんなお話ができるじゃん!」
「……結衣はお姉ちゃんの性別が変わっても嫌いにならない?今までみたく一緒にいてくれる?甘えてくれる?」
「あたりまえじゃん!だって結衣は“お姉ちゃん”が大好きなんだよ!!」
「そっか、そうだよね…………ありがとう!」
◆◆◆
「お姉ちゃんはいつから本当のお姉ちゃんになるの?」
「んっとね〜来週に手術を受けて、それから少しの間は病院で安静にしなきゃいけないから……結衣が会えるのは再来週くらいからかな」
「そっか、じゃあ楽しみにしてるね!」
「あっその間は未空ちゃん達の家にお泊まりだから」
「えっ?そうなの?」
「うん、だって1週間も空くわけだし流石に家に置いてくわけにはいかないからね」
「わかった!」
まぁもっと細かく説明すると俺は「性同一性障害」っていう病気?障害?でずっと性転換手術を受けた方がいいって言われてたんだけどさっき言った通り支障は無かったのよ。
けど、結衣が来てから大きく変わった。結衣のちゃんとした“お姉ちゃん”になりたいと思った。それでやっと決心したんだよね。
よし、結衣にも伝えたしあとは手術を受けるだけだね。
ふふっ結衣は変わった俺を見てどんな反応をするか今から楽しみだなぁ。
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