#63 社長は百合
すっかり正月も過ぎてしまいいつも通りの日常が戻ってきた。結衣も冬休みが終わり、今は学校に行っている。
そんな中俺はカフェで一人の女と対峙している。その女は秋葉美麗、俺がお世話になっている会社の社長だ。この人には大きな恩がある、その為度々無茶振りをされるが断ることが出来ない。さらにこの女はそれを最大限に活用してくるのだ。
「蒼崎君、例の件はどうなってるかな?」
秋葉社長は目の前にある巨大なイチゴパフェを頬張りながら聞いてくる。大人なのだからせめて食べながら喋るのはやめて頂きたい。
「問題ありませんよ、新衣装も新しい子の衣装も完成してます。見ますか?」
俺はバッグからiPadを取り出して社長に見せるか提案する。しかし社長は残念そうな顔をした。
「今見てしまったら楽しみが減ってしまうだろ?それは当日に見るさ」
「そうですか。あ、一応本人には既に見せてありますので」
「ああ、構わないよ。反応はどうだった?」
「喜んでましたよ」
そう言うと社長は嬉しそうにしながらうんうんと頷いていた。口の周りについているクリームがいい感じに面白さを出している。
「……そういえばどうやって二人に見せたんだい?君は彼女達のアドレスとかは知らないだろ?かといってDMは開いてないだろうし……」
あ〜そういえば社長には言ってなかったな。その彼女達が隣に住んでるなんて、まあ思うわけないか。
「彼女たち隣に住んでるんですよ。うちの」
「え……マジ?」
あまりの驚きに社長は口へ運んでいたイチゴをスプーンから落とした。それをすぐに拾って頬張ると喉に詰まらせて咽せていた。この人の喉は子供なのか?
「はい、結構前からいますよ」
俺がそう言うと社長はマジか〜と言いながら何故かニコニコしていた。気持ち悪!
「そういえば娘ちゃんとはうまく行ってるのかい?」
「ああ、大丈夫ですよ。もう可愛すぎて心臓が持ちませんよ」
もうね、ほんっとに可愛いのよ!テレビに出てるモデルさんよりもぜっったいに結衣の方が可愛い。
「今度また会わせてくないか?」
「嫌ですよ、あなた何しでかすかわかんないですもん」
「え〜良いじゃないか」
この人百合好きだからなぁ、前回はなんとかできたけど結衣と直接会わせたら結衣に何するかわかんないから絶対にしたくないな。
「ダメですよ」
「ちぇっ!これだから過保護の親バカは……」
「なんと言おうと合わせませんからね!」
「はいはい、会いませんよ〜だ」
◆
「さて、そろそろお開きにしよっか。話したいことは話し終わったしね」
「そうですね、そろそろ結衣が帰ってくる時間なのでおやつも用意してあげないといけないので」
もうそろそろ結衣が帰ってくる時間だし、俺がいなかったら結衣も悲しむだろうからな。
「じゃあ車呼ぶから待っててね」
「はい」
今回の唯一の懸念点は社長の送迎だって事なんだよなぁ。最悪タイミングが悪いと俺達の帰宅と結衣が鉢合わせて社長が暴走しそうだしな。
そして俺の予想は的中してしまった。家に帰ってきて車を降りると遠くから結衣と楓ちゃんが歩いてきているのが見えた。もちろん社長はめっちゃウキウキしていた、糞が。
「あっお姉ちゃーん!ただいまー!」
俺がいることに気づいた結衣が俺に向かって駆けてくる。う〜ん可愛い!
「おかえり〜学校どうだった?楽しかった?」
「うん!久しぶりに友達に会えて嬉しかった!」
「そっか〜良かったね。それじゃあお姉ちゃんもう少しお話あるから先に家に入っててね」
「そうなの?わかった!」
俺はそう言いながら結衣に家の鍵を渡して結衣を社長に見せないようにしながら向かわせる。絶対にあの変態に天使を見せてたまるか!
そして結衣を見せないように家に送り終えて社長のところに戻った。
「まったく、帰ってきてたんだから挨拶くらいしても良かったんじゃないかい?」
「そうですか、じゃあ次の機会のお楽しみですね」
「え〜無いじゃん」
「ほら、さっさと帰って下さい。おやつ用意しないといけないんで」
「ちぇっわかったよ」
俺がさっさと帰るように促すと社長は渋々帰って行った。
よし、やっと帰ってくれたよ。あ〜疲れた、あの人といるのめっちゃ疲れるんだよなぁ……早く癒されに行こ。
「お姉ちゃんおかえり!」
「ただいま〜お腹すいたでしょ?今おやつ用意するね」
家に帰ると結衣は机で宿題をしていたけど俺を見るなりすぐに寄ってきた。はぁ可愛いな、結衣がいなかったら今俺どうなってたんだろう………考えたくも無いな。
「うん!今日のおやつ何?」
「今日は〜栗羊羹買ってきたんだ〜」
「やった!じゃあお茶入れてくるね!」
結衣はそう言うと台所に行きお茶の用意をし始めた。お正月に家に帰ったあとくらいからよくお茶とかコーヒーの用意をしてくれるようになったんだよな。一体何を吹き込まれたのやら、まあ嬉しいから何でも良いんだけどね。
「はいお姉ちゃん!」
俺が着替えて戻ってくると結衣が緑茶を持ってきてくれた。はぁ〜〜癒しだぁ。
「それじゃあ羊羹切ってくるね」
「お姉ちゃん結衣のおっきくして!」
結衣が珍しく沢山欲しいと言ってきた。いつもは俺が多くする?と聞いても「太っちゃうからいい」とか「お腹すいてないからいいや」とか言ってたのに。
「え〜お腹すいてるの?」
「うん!」
俺が羊羹を切り分けてお皿に分けると結衣がお皿を持ってピューっと走って行った。そんなに楽しみんしてたのか〜今度も買って来よっかな!
机に戻っておやつを食べ始めていると結衣がジーッとこっちを見ていた……凄く気になるんだけど。
「結衣どうしたの?」
「それ、美味しい?」
結衣は俺が飲んでる緑茶を指差しながら言う。結衣がこっちに来てすぐの頃結衣が飲んでみたいって言ったから飲ませてみたんだけど……あんまり好きな味じゃなかったみたいでもう飲みたいとは言ってこなかったんだよね。けど俺の家族はみんな緑茶大好きだから結構飲んでたし、未空ちゃんとかも飲んでたから飲みたくなったのかな?
「飲んでみる?」
「……うん」
俺がコップを渡すと結衣は恐る恐るコップを口に運び飲み始めた。そして……
「ふふっやっぱり苦かった?」
「う、うん」
「そんなに無理して飲まなくても良いんだよ。ほら、麦茶飲みな」
俺は冷蔵庫から麦茶の入ったコップを結衣に渡すとすぐに飲み始めた。
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