#59 初詣
結衣達の勝負を終わらせて家に帰るとお昼ご飯が用意されていた。
「おかえりさない。どっちが勝ったのかしら?ってその顔を見れば聞くまでもないわね」
さっそく母さんが二人に勝敗を聞いてきたが、結衣の顔と夢未ちゃんの顔を見ればまあ聞く必要は無いな。結衣は満面の笑み、夢未ちゃんは恨めしそうな顔をしながら俺の方を睨んでいる。
「疲れたでしょ?お風呂沸かしてあるから入ってきなさい。そしたら夜ご飯にしましょう」
母さんはそう言うと台所に戻って行った。
結衣はなぜか夢未ちゃんの方を見ながらニコニコしている。それを見た夢未ちゃんは「うぅ、もう結衣ちゃんと入れないなんて……」と嘆いていた。
「それじゃあ夢未お姉ちゃん、一緒に入ろっ!」
「へ、良いの?」
「うん!もちろん未空お姉ちゃんもね!」
「結衣ちゃ〜ん!」
結衣が夢未ちゃんも一緒に入ろうと言うと夢未ちゃんは泣き出して結衣に飛びついていた。
「わっ何で夢未お姉ちゃん泣いてるの?」
「だって、だってぇ〜!」
「夢未!行くよ!」
「ちょっとお姉ちゃん!?」
その姿に呆れたのか未空ちゃんが夢未ちゃんを結衣から引き剥がしてお風呂に連れて行った。
「結衣ちゃん私たちは先入ってるから〜」
「う、うん」
未空ちゃんが夢未ちゃんを引き剥がしてからお風呂に連れて行くまでの動作が滑らかすぎて結衣が困惑の顔を浮かべていた。
「お姉ちゃん入ってくるね」
「は〜い、ごゆっくり〜」
そう言うと結衣はお風呂に向かって行った。さてと、俺は………
「あんたはこれからお出かけよ!」
「……ハイ」
◇
「お姉ちゃん!あと30分だよ!」
今はテレビを見ている。もちろん結衣が膝の上に座っている。結衣は新年になる一時間くらい前からずっとソワソワしていて落ち着きがなかった。
「ほら、ジュースでも飲んで落ち着いたら?」
「うん……ゴホッゴホッ……」
「結衣!落ち着いて」
何でこんなに結衣は落ち着きが無いんだ〜?
「結衣ちゃん、お姉ちゃんがリラックスさせてあげよっか?」
そこに夢未ちゃんが近づいてきた。
「やー!今日はお姉ちゃんの所から離れないもん!」
「え〜なんでよ〜!私のところには葵お兄さんには無いお胸があるのよ!」
「お姉ちゃんはあったかくて落ち着くの!」
「うっ……けどけど!私だって……私だって!!」
そう言って結衣を俺から引き剥がそうと近づいてくる。しかし、夢未ちゃんは背後から近づいてくる般若に気が付いていなかったのだ。
「夢未、結衣ちゃん嫌がってるだろ!やめなさい!」
「お父さん、けど!」
「………」
「だって……!」
「………」
「はい…」
和葉さんからの無言の圧に負けた夢未ちゃんは渋々自分のいた場所に戻っていった。ちょっと可哀想だな。その様子を見ながら結衣は俺の胸に顔をスリスリと押し付けている……猫みたいだな。
俺が結衣の頭を猫みたいに撫でてやると流石にゴロゴロと音はしなかったけど嬉しそうに顔に笑顔が浮かんでいた。結衣の頭を撫でながらジュースを飲んでいると結衣がハッとしたような顔をした後俺の膝から離れていった。そして向かった先には未空ちゃんがいた。
「結衣ちゃん、どうしたの?」
未空ちゃんがスマホをいじるのをやめて結衣の方を見ると結衣は未空ちゃんに抱きついた。
「未空お姉ちゃん、今日は一緒に寝よ!」
「ん〜葵兄ちゃんが良いって言ったら良いよ」
未空ちゃんは一瞬驚いたような顔をしたけどさすがお姉ちゃん、すぐに落ち着いて俺に判断を促してきた。
「お姉ちゃん!」
「うん、良いよ。ただし!結衣に怖い思いはさせないようにね」
「やったー!ありがとうお姉ちゃん!」
「結衣ちゃん、お姉ちゃんは夢未みたく怖い思いはさせないから安心してね」
未空ちゃんは結衣の頭を撫でながら夢未ちゃんの方を向いてニヤァと笑っていた。当の夢未ちゃんは「ゔぅ〜」と唸り声を出しながら二人を……というより未空ちゃんを睨みつけていた。
それを見た般若は「それじゃあ夢未は今日はお母さん達と寝ような」と夢未ちゃんに言うと「えええー!!」と叫び声を上げていた。
◆
『3……2……1……ハッピーニューイヤー!!』
そして、年が明けて新年になった。残念ながら結衣はラスト5分で眠くなってしまい今は未空ちゃんの上で眠っていた。まああれだけ動いたりしてたら眠くもなるだろうな。
「結衣ちゃん、起きて〜新年になったよ」
「ふぁ〜、あれ……もう新年になっちゃったの?」
「うん、結衣ちゃんが寝てる間に……」
未空ちゃんがそう説明すると結衣があからさまにショックを受けたような顔をして泣き出しそうになってしまった。
「そんな……お姉ちゃんと初めての年越しだったのに」
「結衣ちゃん……」
……ふむ、ここは俺の出番だな。
「結衣、これから神社に行くんだけど一緒に行くか?」
毎年、元日の0時30分ごろから初詣が行われてその時に行くとお餅とかみかんが貰えるのだ。
「行くっ!」
結衣は泣きそうで悲しそうな顔から一転してパアッと明るい笑顔になった。
「よし、他に行く人は?」
「私も行くよ」
「未空ちゃんは元々決まってたでしょ」
俺がそう言うと未空ちゃんは「えへへ〜」と言って着替えに行った。
「私も行きたい……良いかな?」
夢未ちゃんがおずおずと手を挙げる。やっぱり結衣に嫌われてないか気にしてるのかなぁ、結衣はもう気にしてないような気がするんだけど。
「うん、良いよ。結衣も良いよね?」
「うん!」
「それじゃあ決まりね、すぐ準備してきてね」
「「はーい!」」
ちなみに大人組は面倒臭いという理由で誰も来たがらない。
「三人とも寒くない格好をするんだよ」
「結衣ちゃんはお姉ちゃんと一緒だから寒くないよね〜!」
「うん!」
結衣はあれからずっと未空ちゃんとくっついている。そして今は未空ちゃんにおんぶされている。
「夢未ちゃんも大丈夫?」
「え…は、はい」
「眠たいなら家にいても良いんだよ?」
さっきから夢未ちゃんがずっとぼーっとしているような気がする。
「いえ!大丈夫です」
「それなら良いけど……無理はしちゃダメだよ」
「……はい」
◇
「はい、着いたよ〜」
神社に着くといつも通り沢山の人がいた。そして驚いたことに子供も沢山いた、ここ数年はあまりいなかったのにな……なんかあったのかな?
「未空お姉ちゃん!手繋ご!」
「良いよ〜はい」
「えへへ〜ありがとう!」
相変わらず結衣は未空ちゃんにくっついている。夢未ちゃんは……少し寂しそうにしていた。
「夢未ちゃん、手繋ごっか?」
「……じゃあ」
俺が夢未ちゃんに手を差し出すと夢未ちゃんは最初戸惑ったような動作を見せたけどすぐに手を握り返してくれた。
「それじゃあ並ぶから逸れないようにね」
俺は三人にお賽銭を渡して逸れないように声をかける。毎年、何人かの子供がこの行列の中で迷子になって大泣きしてるからな。まあ、流石に三人とも迷子になったとしても大泣きはしないだろうし、第一今は手を繋いでるから大丈夫だろうな。
「それじゃあお賽銭を入れてお願い事をするんだよ」
◆
三人が終わらせるのを待っていると三人の後ろにも家族連れなのか両親と小さな女の子が手を繋ぎから楽しそうに会話をしていた。こういうのを見ると心が和むっていうか、暖まるな。
「お姉ちゃん、終わったよ」
俺が他の参拝客を見ていると結衣が目の前に来ていた。
「神様にお願い事はしっかり出来た?」
「うん!今年もお姉ちゃんと幸せに暮らせますようにってお願いしたの!」
結衣〜!なんて良い子なんだ。普通の子だったら自分のことを願うのに、この子は……泣きそうだ。
「きっと叶えてくれるよ。未空ちゃん達は?」
「うん、出来たよ。ね、夢未」
「……うん」
「…じゃあ帰ろっか。夜も遅いしすぐに寝るんだよ」
そして俺たちは家に帰った。
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