#56 結衣襲われる
「母さん!何書かせようとしてんだよ!!」
姉ちゃんに拘束されながらもなんとか振り解こうとしながら結衣に何かを書かせようとしている母親に怒鳴り散らかす。
「何って……考えればわかるでしょ?婚姻届よ♡」
「何でそんなもん持ってんだよ!?」
いやマジで、何で婚姻届なんて持ってんの!?え、日本って一夫多妻制だったけ?んな訳無いな。……え、もしかして俺が結婚した時用に持ってたとか?そしたらこいつら用意周到過ぎでしょ。若干の恐怖を覚えるわ。
「ほら、結衣ちゃんここにあとはハンコを押せば夫婦になれるわよ!」
「う、うん」
「結衣ー!押すなぁー!」
◆
「……ちゃん!お姉ちゃん!」
「……結衣?」
「お姉ちゃん大丈夫?すごく辛そうにしてたよ?」
結衣がもう泣きそうなくらいな顔をしながら俺のことを覗き込んでくる。俺は……夢を見てたのか、まったくなんて心臓に悪い夢なんだ。もう二度と出てこないで欲しいものだ。
そういえば何で俺はベッドで寝てるんだ?
「結衣、何で俺はベッド寝てるんだ?」
「夢未お姉ちゃんのお母さんがベッドに運んでくれたの。お姉ちゃんお風呂から出てすぐに寝ちゃったから」
そうだったのか………ほんとにあれが夢でよかった。ほんとに。
「お姉ちゃん何の夢見てたの?」
「へ……し、知らなくて良いよ」
うん、あれは………教えなくていいな、うん。ていうか教えたら正夢になりそうで怖い。結衣ならやりそうで怖いからな。
「え〜気になる〜」
「忘れな、結衣」
「ケチ!せっかく心配してあげたのに!」
そう言うと結衣は布団に包まってしまった。まったく………可愛いなぁ、これだったら結婚しても…いいな。
「結衣〜ほらお姉ちゃん空いてるよ〜」
「………」
「あ〜寂しいな〜誰かぎゅ〜ってしてくれないかなぁ〜?」
俺が布団に包まっている結衣にわかりやすいように言うと結衣が布団から顔を出して
「お姉ちゃんはそんなに結衣にぎゅ〜ってして欲しいの??」
「うん!」
「……しょうがないな〜お姉ちゃんがどうしてもって言うから、特別だからね!」
結衣はそう言うと嬉しそうにしながらぎゅ〜っと飛びついてきた。
「心配してくれてありがとうね」
「うん!結衣はお姉ちゃんのこと大好きだもん!」
「下行こっか」
俺は結衣を抱き抱えたまま下に行くと母さんと和葉さんが朝ご飯の準備をしていた。
「おはようございます、和葉さん」
「おはようございます、葵さん。体調は大丈夫ですですか?」
「はい、しっかり寝たので」
「昨日は大変だったんですよ〜いきなり葵さんは寝ちゃうし、それにびっくりした結衣ちゃんは泣き止まないし」
和葉さんが笑いながら昨日のことを言うと隣で結衣が顔を真っ赤にしていた。
「結衣、恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしくないもん!」
「結衣ちゃん、未空達まだ起きてないから起こしてきてくれる?」
「わ、わかった!お姉ちゃんおろして?」
そう言って結衣は二階に駆け上がっていった。
「結衣ちゃんは可愛いですね」
「そうでしょ!も〜可愛いんですよ!」
「うちのはもうすっかり甘えてくれないから寂しいんですよ」
あ〜普通はもう親に甘えたりする歳頃じゃないもんな。結衣もそのうち甘えてくれなくなっちゃうのかなぁ……
「なので、今のうちにいっぱい甘えた方がいいですよ!」
「俺が甘えるんですか!?」
「ははっ冗談ですよ。あ、おかず運ぶの手伝ってください」
急に元のテンションに戻るじゃん。怖っ!
***
夢未お姉ちゃん達が寝てる部屋の前に着いたけど……ノックしてから入った方が良いのかな?
〈コンコン〉
返事がないなぁ。う〜ん……もう入っちゃえ!
部屋に入ると未空お姉ちゃん達が寝ていた。
「未空お姉ちゃん、夢未お姉ちゃん朝ご飯だよ、起きて」
「「……」」
む〜!起きない!お姉ちゃんは起きたのに〜!だったら次の手段だもんね、次はほっぺをぷにぷにしちゃうもんね!お姉ちゃんもたまにやってくるし、そうすれば起きるはず!
そ〜っとベッドに近づいていって、あとちょっとっていうところで床にあった紐に足が引っかかってしまった。
「わっ!」
その転んだ勢いでお姉ちゃん達にダイブしてしまった。そしてそのままお姉ちゃん達のお胸に飛び込むとお姉ちゃんからとは違う甘い匂いがしてきた。
「ん〜?あれ、何で結衣ちゃんがいるの?」
あわわわ!夢未お姉ちゃん起きちゃった!早く起き上がらないと!なのに〜足に力が入んないよ〜
「結衣ちゃんそんなにお姉ちゃんに会いたかったの!お姉ちゃんも結衣ちゃんに会いたかったよ〜」
そう言うと夢未お姉ちゃんは私のことをぎゅ〜っとしてきた。さらに抱き着いただけじゃ物足りなくなったのか私の耳の裏を舐め始めた。
「ゆ、夢未お姉ちゃん!?く、くすぐったいよ!」
どんどん体から抜けていくような……
「あれ〜?結衣ちゃんはここが弱いんだ〜」
夢未お姉ちゃんが無邪気な声で言う。その声はいつもの優しく包み込んでくれるような声じゃなくて私のことを品定めするような声で怖かった。そしたらどんどん舐めてくるスピードが速くなっていった。その度に体から力が抜けていく。こ、怖いよ!
「やめて!」
怖くなった私は夢未お姉ちゃんのことを強く押し返した。急に押し返された夢未お姉ちゃんは何が起こったのかわからない様子でポカーンとしていた。
そこからは夢未お姉ちゃんがすごく怖く感じて急いでお姉ちゃんのところへ走っていった。
***
「お姉ちゃーん!」
朝ご飯を運び終わってテレビを見ていると半泣きになっている結衣が2階から凄い速さで降りてきて俺に抱きついてきた。そして「怖かったよ〜」と言ってそのまま泣き出してしまった。
「結衣?どうしたの?」
「あ、あのね……夢未お姉ちゃんにね……耳舐められてね……力が入らなくなっちゃってね……怖くて……」
どういう状況だったんだ………結衣は二人を起こしに行っただけだよな?何で結衣は舐められてるんだ?
「あれ?結衣ちゃんどうしたんですか?」
そこに結衣の泣き声を聞いた和葉さんがやってきた。俺が結衣の状況を教えると頭を抱え始め
「すみません!夢未寝ぼけてると人を舐めたがる癖があるんです!伝えるの忘れてました!」
と言って結衣に謝った。和葉さんが言うには夢未ちゃんは小さい頃からお姉ちゃんと一緒に寝ててお姉ちゃんが「怖くなっちゃったら指舐めて良いよ」と言って舐めさせてたのが原因らしい。そのため二人を起こすときは未空ちゃんから先に起こさないといけないらしい。
「結衣ちゃんごめんね。けど……夢未に悪気はないから許してあげてね」
「……うん」
「さてと………今日はお父さんが頑張っちゃおうかな!!」
そう言うと和葉さんは般若の顔をしながら二階に上がっていった。その後ろ姿からは悍ましい程のオーラが出ていた。
数分後には夢未ちゃんの悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもない。
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