#45 お別れ
「あっ!結衣ちゃん達やっと見つけた!お姉ちゃんいたよー!」
屋上に入る入り口の方から声が聞こえてきた。そっちの方を見ると夢未ちゃんが走ってきていた。
そういえば……約束の時間、過ぎてたな。
「も〜心配したよ、時間になっても来ないんだもん!」
「ごめんごめん、ちょっと結衣と話してたら遅れちゃったよ」
俺は膝の上で寝ている結衣の頭を撫でながら夢未ちゃんの方を見る。
「あれ?何で膝の上で寝てるの?」
「ああ、ちょっと泣きつかれちゃって……冷たいベンチの上で寝させるわけにはいかないだろ?」
俺がそう言うと夢未ちゃんは肩を震わせながら「葵お兄さん!私に代わってください!!」と言ってきた。夢未ちゃんは結構仲良くなってたからなぁ、羨ましくなったのかな?
「良いよ……って思ったけど、これどうやって移すの?」
「ん〜一回起こします?」
「それじゃ意味無いだろ!」
「えーそれじゃあ……」
夢未ちゃんが考え始めた。
するともう一人のお姉ちゃんが全速力で走って来た。
「夢未!結衣ちゃん達いた!?」
「あ、お姉ちゃん遅かったね〜」
ゼーゼーと息をしている未空ちゃんを見て、夢未ちゃんは悪い顔をしていた。
「あ……あんた!わざと私を地下一階のお惣菜コーナーに向かわせたでしょ!」
ああ、そういう事か。まったく一緒に来れば良いのになぁ
「いや〜?私はもしかしたらそっちにいるかもって思っただけだし〜。お姉ちゃんを遠ざけようなんて思ってないし〜」
これは……確信犯だな、うん。
「ぜったい許さないから!」
「逆恨みはやめてよ〜」
まあ、仲は良いんだろうな。こんなに言い合ってるのに二人とも笑顔だし。
いつもこんな感じなのかな?そう考えると面白いな。姉ちゃんも楽しそうだ。
「ふぁ〜あ……おはよーお姉ちゃん」
二人の声のうるささで結衣が目を覚ました。
そして、勿論二人は結衣の声に反応する。
「あっ!おはよう結衣ちゃん!もちろんお姉ちゃんって私のことだよね〜!」
われ先にと夢未ちゃんが結衣に声をかける。
そしてその後すぐに
「違うよね〜!結衣ちゃんは私におはようって言ったんだよね?だってこんな……傾斜五度の丘になんか言わないもんね〜」
二人が結衣に言い寄るけど……結衣は何もわかってなさそうな顔をしながら
「?結衣のお姉ちゃんはお姉ちゃんだけだもん!」
と言いながらぎゅ〜っと俺に抱きついてきた。そうだよな!結衣のお姉ちゃって言ったら俺だよな!ごめんな、二人とも、【お姉ちゃん】の称号は俺が持ってるんだ!
結衣のこの発言を聞いた二人は
「「じゃあ私は何なの!?」」
とハモっていた。
二人の叫びを聞いた結衣はニコッとしながら
「夢未お姉ちゃんは夢未お姉ちゃんで〜未空お姉ちゃんは未空お姉ちゃんだよっ!」
と言っていた。その言葉を聞いた二人は……
「ど、どうしよう……私達お兄さんに負けてるよ!」
「やめろ夢未、私達じゃあれには……勝てない、過ごしてきた時間が違うんだ。私達じゃ【お姉ちゃん】にはなれないのよ」
「そ、そんな……」
何かコソコソと話をして、がっくりと肩を落としていた。それを見た結衣は俺の膝の上から降りて二人の方へ行き
「夢未お姉ちゃんと未空お姉ちゃんも大好きだよ!お姉ちゃんの次だけど」
と落ち込んでいた二人に天使のような笑みを見せて言った。
その言葉を聞いた二人は「結衣ちゃ〜ん!」と言って抱きつこうとした、それにこたえる様に結衣も両腕を広げてぎゅ〜っとするポーズをする。可愛いなぁ〜まったく!
三人がぎゅ〜っとしてるのを見ながら俺はスマホを見て脳内が真っ白になる。なぜって?そりゃあスマホを開くとなんとそこには16:30分と表示されてるんだもんな!(姉ちゃんとの約束の時間は17時)
落ち着け…急いでも何も良いことは無いからな、まずは状況を整理しよう。今は16時30分で、約束の時間は17時。家に帰るにはここから最低でも20分はかかる。だったら法定速度ギリギリで飛ばせばワンチャンあるか?いや、今は大切な命を三人も預かってるんだ。俺だけならまだしも結衣達がいてもしもがあったら俺は多分おそらくきっと絶対◯される。じゃあどうするか、姉ちゃんに遅れる旨を伝える……あの人スマホ基本見ないから論外だな。………あれ?詰んだ?
と、とりあえず動かなきゃ!!
「三人とも!もうすぐ約束の時間になっちゃうから行くよ!」
俺がそう言うと二人のお姉ちゃんは残念そうに抱きしめてた結衣を離した。
解放された結衣は俺に走ってきて今度は腕をぎゅっとしてきた。くそっ!可愛すぎて力が抜けちゃうじゃないか!
「とりあえず車に急ぐよ!」
俺はそう言って車にダッシュする。
未空ちゃんが爆走する……それを追いかけるように結衣も走り出す。足がめっちゃ速い結衣VS運動神経が抜群な未空ちゃんの構図が出来上がっていた。二人はものすごい勢いで階段を降りていく。……中学生と良い勝負するとか、結衣は凄いなぁ。ちなみに置いてかれた俺と夢未ちゃんは二人に比べたら遥かに遅かった。いや、俺たちが遅いんじゃない、あの二人が速すぎるんだ。
俺たちが車に着くと未空ちゃんが結衣を捕まえてこちょこちょしていた。結衣はきゃっきゃっと笑っていた。
「お姉ちゃん……速い……」
夢未ちゃんの顔は真っ青になっている。大丈夫か、これ?
「よし、車乗って!急ぐからちゃんとシートベルトしてね!」
俺がそう言うとみんな急いで乗ってくれた。けど、行きと違うことがあって……行きは三人で後ろに乗ってたのに、今は助手席に結衣が乗っている。
急ぐぞぉ〜!!!
◇
「……よかった……間に合った」
俺は車を全力で飛ばして(速度はちゃんと守った)近道をしまくってなんとか45分に着いた。
「二人とも荷物まとめてきな」
「わかった!」
そう言って二人が部屋に戻る。結衣は家に戻ってからずっと俺の腕にニコニコしながらくっついている。なんか……前より甘えん坊になったか?
少しして姉ちゃん達が家に到着した。
俺はお茶を用意した。姉ちゃんは「飲んで行こうよ」と言っていたが夫の方が「時間ないから今度な」と言って姉ちゃんを引きずっていった。
「葵さんお世話になりました。二人も、ほら」
「葵兄ちゃん、結衣ちゃんまた会おうね!」
「葵お兄さんまた今度。結衣ちゃんもまた会おうね!」
二人は少し……いや、かなり残念そうにさよならを言っていた。
「じゃあね二人とも。ほら結衣も」
俺は結衣にお別れを言うように促すと
「また会おうね!お姉ちゃん!」
と言っても二人のほっぺにチュッとキスをした。キスをされた二人がどんな反応をしたのかなんて……言うまでも無いな。
結衣は二人のお姉ちゃんを乗せた車が見えなくなるまで手を振っていた。
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