#44 告白
「結衣〜」
結衣が寝始めてから15分くらい経ったから俺は結衣を起こすことにした。
結衣は時々寝言を言ってたけど小さな声だったからよく聞こえなかったけど、幸せそうな顔をしてたからきっと良い夢を見てたんだろうなぁ
「ふぁ〜おはよ〜」
俺に呼ばれて結衣はゆっくりと顔をあげる。結衣の目には涙が溜まっていた。結衣はそれを拭うと俺に笑顔を向けてきた。
「おはよう、結衣。さっぱりした?」
「うん!」
「よし、行こっか」
俺がそう聞くと結衣がぴょんと膝から降りて、そして「行こっ!」と言いながら手を伸ばしてくる。俺はその手をつかみ立ち上がり手を握ったまま歩き出した。
「お姉ちゃん…重くなかった?」
少し歩いてから結衣が申し訳なさそうに聞いてくる。
「結衣は可愛いからな、軽かったぞ。わたあめを乗せてるのかって思うくらい」
「そんなに軽くないもん!」
結衣が少しムッとしながら言う。……女の子は軽いって言った方が喜んでくれるって聞いたんだけど……難しいなぁ。
「じゃあ……なんて言えばよかった?」
「ふぇっ!?え、えっと……」
俺がそう聞くと予想外だったのか結衣から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
「……忘れて!」
結衣はそう言うと掴んでいた手を離して走り出して、近くにあったアクセサリーショップに入って行った。
俺は結衣を追いかけて店に入って結衣を探す。結衣はネックレスを目を輝かせながら見ていた。
「結衣、なにか気に入ったのあったの?」
俺がそう聞くと結衣は少し躊躇しながら八面体に加工された青色の石がついたネックレスを指差しながら
「こ…これがいい」
「よし、買うか。他にも良いのないか探してきな」
俺がそう言うと結衣は驚いた顔をした。
「まだ…いいの?」
「ああ、今日は結衣のためになんでもする日だからな」
「探してくる!」
結衣はそう言ってまた探し始めた。
◆
20分ほど経って結衣が戻ってきた。その手の中には二組の指輪が握られていた。
「これでいいの?」
「うん!」
俺はそれを預かって会計を済ませる。そしてネックレスと二組の指輪を結衣に渡すと、結衣はさっそくネックレスを首にかけた。
「どう…かな?」
「すごく可愛いぞ、それに大人っぽくも見える」
「えへへ〜」
「それは着けなくていいのか?」
俺は結衣の手に握られている指輪を指差しながら言う。せっかく買ったのに着けないのは勿体無いだろう。俺がそう言うと結衣は二組のうち一つを自分の左手の薬指に着けた。
そういえば何で二組の指輪なんて買ったんだろう?と考えていると
「お姉ちゃん、目閉じてて!結衣が良いよって言うまで開けちゃダメだからね!」
結衣にそんな事を言われた。俺は結衣の言われた通り目を閉じる。
そして……
「はい開けて良いよ!」
俺は言われるがままに目を開ける。そこには左手の薬指に結衣と同じ指輪がはめられていた。
「これね、未空お姉ちゃんと夢未お姉ちゃんが教えてくれたの!ずっと一緒にいたい人と同じ指輪をつけるとそれが叶うんだって!」
結衣はニコニコしながらそう説明をしてくる。俺はその説明を笑顔で聞いていた。けど内心はパニックになっていた。そりゃあ小学生から結婚指輪を渡されるなんて思うわけないじゃん。
左手の薬指に指輪は結婚指輪と決まっている。もちろんそれを結衣は知ってるわけない……と思うし、結衣は未空ちゃん達から聞いたって言ってたし。
夢未ちゃんは本当にそう思ってるのかもしれないけど……未空ちゃんは確信犯だろ、絶対。
昨日の夜か、それとも朝話したのかわかんないけど結衣は多分俺とずっと一緒にいたいって言ったんだろう。それで指輪のことを話したんだろうな。
「結衣、お揃いだな」
「うん!お揃い!」
結衣はそう言いながら自分に着いている指輪と俺に着いている指輪を嬉しそうにしながら交互に眺めていた。
そしてまた結衣と手を繋いで店を出た。
「結衣次はどこ行きたい?」
「えっと……お…屋上…行ってみたい」
この建物には休憩スペースの屋上がある。そこからは綺麗な景色を見る事ができ、特に夜景は綺麗らしい。
けど今は別に夜でもないし、夕焼けが見れる訳でもない。なのに何で何もない屋上に行きたいんだろう。
「よし、行くか!」
◇
屋上に出ると少し寒い風が吹いていた。もう12月か……こう考えると結衣と一緒に暮らし始めてもう4ヶ月も経つのか、時間が過ぎるのは早いなぁ。
俺たちはベンチに座り、綺麗な景色を眺めていた。
その間結衣はずっと俺の右手を握っていて手が暖かい。
少しして結衣が喋り出した。
◆ ◆ ◆
「お姉ちゃん、今日は楽しかったよ」
「そうか、そう言って貰えると嬉しいよ」
「うん……指輪、嬉しかった?」
「嬉しかったよ、凄く」
「良かった、お姉ちゃん達にお礼言わないと」
「そうだな…」
「お姉ちゃん……お姉ちゃんは結衣と一緒に暮らして楽しい?」
「楽しいよ、結衣のおかげで今までじゃ出来ないことを沢山できたよ」
「結衣ね、お姉ちゃんに言いたいことあるの……聞いてくれる?」
「うん、言ってごらん?」
「結衣ね、お姉ちゃんのことが好きなの。ぼーっとしてるとすぐにお姉ちゃんのこと考えちゃう。けど……」
結衣の言葉が詰まる
「考えちゃうの。家族なのに……お姉ちゃんなのに、好きになっちゃうのっていいのかなって」
◆ ◆ ◆
言い終えると結衣の目から涙が溢れ始めた。
俺は何も言わないまま結衣をゆっくり抱きしめる。そして
「結衣、お姉ちゃんも結衣のことは大好きだよ。けど……やっぱりお姉ちゃんとしてはね、お姉ちゃんよりも同い年の子とかを好きになって欲しいな」
「……うん」
「けどね、結衣が好きって言ってくれたのはすごく嬉しいよ」
「……うん……ごめんなさい…」
「なんで謝るの?家族を好きになるのは誰にだって当たり前のことなんだから」
「けど……」
それでも結衣は泣き止まない。ずっと堪えてたんだろうな、俺に好きって気持ちを伝えるのを。
俺は結衣のほっぺをほぐすように揉み始める
「ほらっそんなに泣いてたら結衣の好きなお姉ちゃんも泣いちゃうよ、それでも良いの?」
「……ヤダ、お姉ちゃんには……笑ってて欲しい」
「そうでしょ、それと同じでお姉ちゃんも結衣には笑ってて欲しいの」
俺がそう言うと結衣が強引に涙を拭って俺の目を見てニコッと満面の笑みを見せてくれた。
やっぱり笑顔でなくちゃな。
「ほら、いつもの可愛い結衣ちゃんに元通り!」
「うん!お姉ちゃん大好きだよ!!」
そう言って今度は結衣から俺に抱きついてきて俺はそれを優しく包み込んだ。
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