#29
「結衣〜食べきれる量だけ持ってくるんだよ〜」
「は〜い!」
俺がそう言うと結衣は楓ちゃんと朝ごはんをとりに行った、俺もはやく取りに行くか。
俺は白米、納豆、焼き鮭、味付き海苔、味噌汁というあまりいつもと変わらないものを取る。隣では結衣がクロワッサン、ベーコン、目玉焼き、サラダとかの洋風な感じのものを取っていた。
「葵さんは和食が好きなんですか?」
席に戻ると先に戻っていた紅葉さんにそう聞かれた。ちなみに紅葉さんはサラダ、ヨーグルト、パンという健康に良さそう?なのもが並んでいた。
「ええ、和食ってなんか落ち着きません?」
「う〜んちょっとわかんないですね〜うちはいつもパンなので」
紅葉さんの家ではいつもパンなのか。朝はパンでも良いんだけど…パンだとなんかすぐにお腹が空くんだよな〜ご飯だとそこまでお腹減らないんだけど。
「うちはいつも和食ですね、栄養バランスも良いし」
「和食は作るのが面倒臭いですよね〜」
「そうなんですよね〜」
和食だとご飯を作るのがめんどくさい。パンとかだと焼いてすぐ出来るし、おかずだって卵とかハムを焼くだけで良い。けど和食だと夜のうちからお米の準備をしないといけないし、味噌汁だって作らないといけないし、……まあめんどくさいし時間もかかる。
「お姉ちゃんただいま!」
すると結衣たちが帰ってきた。二人の両手にはパンとかが乗ったプレートとプリンやら杏仁豆腐やら色々乗ったものが握られていた。
「結衣、大丈夫か?そんなに取って」
俺は心配になって聞く。結衣は体が小さいからかかなりの少食だ。いつも子供用のご飯茶碗の半分と少しのおかずでお腹いっぱいになってしまうくらいには少食なのだ。しかし目の前には大量とまではいかないけどいつも結衣が食べている量よりかははるかに多い量が盛られていた。
「だいじょうぶ!だってお腹空いてるんだもん!」
そう言うと結衣は座って食べ始めた。
まあ本人が大丈夫って言うなら……
数十分後……
結衣の手は止まっていた。そりゃそうだ。
「結衣、大丈夫?お姉ちゃんが食べてあげようか?」
「うんん、だいじょうぶ……だいじぃうぶ……」
その声は自分にも言い聞かせてるようにも聞こえた。
「結衣、無理しなくてもいいんだよ?この後動くんだし無理して食べちゃったら動けなくなっちゃうよ?」
「だいじょうぶ、あとちょっとだから……」
そう言って結衣はまた食べ始めて………
結衣はやっとのことで全部食べ終えた。楓ちゃんは途中でお腹がいっぱいになって残りは紅葉さんが食べていた。
「結衣…大丈夫……じゃないな」
結衣の顔はもうちょっとでも動いたらやばそうな顔をしていた。
「結衣、ほらおいで」
俺は結衣が捕まりやすいように屈むと結衣は首に手を回してきた。俺はそのまま結衣を抱っこしてプレートを片付けて朝食会場を後にする。
「お姉ちゃん、お腹パンパン」
「そりゃそうでしょ、あんなにいっぱい食べたんだから」
◇
「結衣、忘れ物ない?」
朝食を食べ終えて、俺たちは荷物の整理をしていた。
「ないっ!」
結衣は休憩をしてすっかり元気になった。
「それじゃあ行きましょうか」
「「はーい!」」
こうして俺たちは旅館を後にした。
この後は来た道の途中にあるショッピングセンターでお買い物をする。昨日はあんな事があったからあんまり見る事が出来なかったからな。
「お姉ちゃんどれくらいで着くの?」
「う〜んそうだなぁ、順調に進めば一時間くらいで着くかなぁ」
「わかった!」
そう言うと結衣は昨日買った小説を読み始めた。……結衣よ、お前さんは昨日の朝パンフレットを読んでいて気持ち悪くなったのをもう忘れたのか。
「結衣ちゃん本読んでだいじょうぶなの?」
結衣が本を読み始めたのを見て楓ちゃんは声をかけてくれた。
「ん?なにが?」
「車運転してる時に本とか読んじゃったらまた昨日みたいに気持ち悪くなっちゃうんじゃない?」
「あ…」
そう言われてやっと気づいたのか結衣は本を読むのをやめた。
「結衣ちゃんこれやろ!」
「うん!」
そう言うと楓ちゃんはグーの状態から人差し指だけ出して結衣に見せた。これは……あれか!あの足し算をするやつ。俺もよく姉ちゃんとか友達とよくやってたな。ていうかこれ今の小学生もやるんだなぁ。
車は特に渋滞に巻き込まれたりしないで順調に進んで予定通り一時間で着いた。
「二人とも、着いたわよ」
紅葉さんが寝ている二人を起こす。やっぱりあれだとすぐに飽きちゃったらしく10分ほどやってそのあとは寝てしまっていた。
「ん〜わかった〜」
すぐに起きたのは結衣だった。しかし、楓ちゃんは起きる気配がまったくない。
「楓、起きなさい!置いてくわよ!」
「ん〜もうちょっと……」
「楓!」
「………」
どれだけ言っても起きない楓ちゃんに痺れを切らした紅葉さんは楓ちゃんを抱き抱えてそのまま行くことにした。しばらくしてやっと楓ちゃんは起きたが紅葉さんが楓ちゃんを降ろすことは無かった。
「お姉ちゃんこれ買って!」
服屋で冬用のコートとか羽織る物を見ていると結衣が猫耳のついたフードがあるジャンバーを持ってきた。
「おお〜良いんじゃないか?試着はしたのか?」
「ううんまだ!最初はお姉ちゃんに見て欲しかったからしなかったの!」
おお、なんか凄い嬉しいな。
「それじゃあ着てみるね!」
そう言って結衣はジャンバーを着始め、そしてフードを被る。そしてその場でクルクルと回って全体を見せてくれる。
「お姉ちゃんどう?」
「おお〜すごく可愛いぞ、結衣」
「えへへ〜やった〜」
すごく嬉しそうだ。
「他に欲しいものは無いの?」
俺は他にも欲しいものがないか聞く。
「え…まだいいの?」
「ああ、良いよ。なんでも持ってきな」
そう言うと結衣はまた探しに行った、と思ったらすぐに戻ってきた。もう見つかったのかな?
「お姉ちゃんも一緒に見よ!」
「俺も?」
「うん!結衣はお姉ちゃんが可愛いって思ったの着てみたいな!」
そうなのか、それじゃあ一緒に見るか!
「よし、行くか!」
「うん!」
俺がそう言うと結衣は俺に手を握って走り出した。なんか……恋人同士みたいだな。まぁ結衣にはそういう感情はまだ無いんだろうけど。いつかは結衣も好きな人とこんな事をするのかなぁ……なんかそれを考えると悲しくなってきたな。
「結衣、これなんてどう?」
「どれ?」
俺は青色のガラス細工が付いているイヤリングを見せる。なんか直感だけどすごく似合いそうな気がしたんだよな。
「へえ〜可愛いね!ねぇねぇ付けて、お姉ちゃん!」
「うん……ほら出来たよ」
「わぁ〜可愛いっ!お姉ちゃんこれ欲しい!」
「よし、これも買おうか」
「ありがとうっ!!」
この後もいろいろなお店を見て周ったりお昼ご飯を食べたりした。
◇
「紅葉さん二日間ありがとうございました。すごく楽しかったです」
俺たちは家に帰って来ていた。
「いえいえ、私たちもすごく楽しかったですよ。それに……二人ももっと仲良くなったと思いますし」
紅葉さんは自分で抱えている楓ちゃんと俺が抱えている結衣を交互に見ながら言う。
「そうですね。それじゃあもうここらへんで、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
こうして俺たちの1泊2日のミニ旅行は終わった。……また明日から仕事か……やだなぁ
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