#2
「……」
「……」
なんか凄い気まずい空間になったんだけど。しかも俺はすごく人見知りだから初めて会う人の前ではほとんど話せない。けどここは年上の俺から話しかけるべきだよね?う〜んけど…怖いな〜なんか言われたりしないよね〜?
「お姉さんは誰…ですか?」
はっ、あまりに遅すぎたために先に喋らせてしまった。
ってお姉さん?今俺のことお姉さんって呼んだ?やっぱり君もそう言うか。…けどこの見た目だったらそう言うよねー、俺もそう思うわ。
「はじめまして、私は葵っていうの、呼び方はなんでも良いわ」
「結衣…です…小学4年生…の10歳…です」
この子は結衣ちゃんって言うんだ。可愛らしい名前だな〜、ガチガチに緊張してる感じもまた良い。この子となら一緒に暮らしても良いな〜。
「結衣ちゃんって言うんだ。よろしくね」
そう言って頭を撫でようとして手を近づけると
「ヒッ」
目を閉じて体を守るように縮こまってしまった。どうしたんだろう、怖かったかな?けど、この反応過去に何かあったのかな。そんな感じがする、じゃないと普通こんな反応はしない…するはずが無い。そういえば沙耶さんからこの子の事をあまり聞いてなかったな。
「ごめんね、怖かった?」
「ヤダ…殴らないで、殴らないで…」
もしかして結衣ちゃんが引き取られた理由って…
俺は結衣ちゃんに近づいて体を包みこむ。そしてなるべく安心できるような声色で
「結衣ちゃん、大丈夫だよ。ここには結衣ちゃんにヒドイ事をするような人はいないよ。もしそんな人がいたらお姉さんが絶対に!守ってあげるからね」
これは一旦戻って話を聞いた方がいいな。この結衣ちゃんの反応は明らかにおかしい。なにか闇があるはず。
「結衣ちゃん、落ち着いたてお姉さんとお話がしたいなって思ったらすぐにこのボタンを押して。そしたらすぐに駆けつけるから」
「…わかった」
よかった、小さい声だけど返してくれた。
さてと、少しあの人から結衣ちゃんの事情を聞きださないとな。
俺が部屋に戻るとお姉ちゃんが
「おっお帰り、やっぱり入れなかったか?」
入れなかった?何を言ってるんだ、結衣ちゃんは自分から部屋に招き入れてくれたぞ。
「いや、普通に入れたよ。ていうかそんなのは関係なくて、結衣ちゃんは昔に何があったの!あんな小さな子があそこまで怯えてるのはおかしいよ」
途端に沙耶さんの顔が暗くなった。やっぱり何か隠してたのか。
「ちゃんと結衣ちゃんのことを話すわ。葵くんも気づいてると思うけどあの子は虐待を受けていたの。それはもう酷い状態だったの、全身あざだらけで見るに耐えなかった。けどあの子の親が厄介で結衣ちゃんを助ける事が出来なかった。…けど先月頃かしら、事態が変わったの。幸か不幸かあの子の両親が事故で他界してしまったの」
そんな事があったなんて、それだったらさっきの反応も納得がいく。確かにいつも殴られたりしてたら頭の上に手がきたら警戒するだろう。
「そこで私はその子の事を保護したの。ちなみに結衣ちゃんは私の親の兄妹の子なの。だからかなり遠くはなるけど葵くんの親戚になるの」
…そんな事聞かされちゃったら断れなくなっちゃうじゃん。いや、最初から断るつもりはなかったけどこれを聞いたらもう無理だ。
「沙耶さん、私結衣ちゃんを引き取ります!あんな子を放っておく程私は非道じゃないので」
「ありがとう、葵ちゃん」
葵ちゃんはやめて欲しいな。
「とりあえず結衣ちゃんに話をしてきますね」
部屋に入ろうと思ったけどこれ普通に入って良いのかな?それともさっきみたいに待った方がいいのかな。…いやここで動かないと変えられない。ここは心を決めて
「結衣ちゃん、入っても良い?」
「…良いよ」
結衣ちゃんの許可がもらえた。よかった〜『ダメ』とか言われなくて
部屋に入ると結衣ちゃんは本を読んでいた、そして私はそれには見覚えがあった。もしかしてそれって…
「結衣ちゃん、何読んでるの?」
「えっと…お姉さんのそつぎょうぶんしゅう?っていうお本読んでる」
やっぱりだぁ!しかも中学生の時のやつだし。あの時は良かったな〜自分のやりたい事ができてたし、表紙もトップ5に入るくらいには上手に描けていたし。
「おねえさんはお絵描き好きなの?」
そういえば中学生の頃にはイラストレーターになりたいって言ってたっけ
「うん!その本の表紙を描いたのもお姉さんなんだ」
「すごい!私はそんなに上手にお絵描きできない」
これはチャンスなのでは?
「結衣ちゃん、お姉さんが上手に絵が描ける方法教えてあげようか?」
「ほんとっ?教えて!」
「そのかわり一つだけお願いがあるの。そのお願いを聞いてくれたら教えてあげる」
「なあに?」
「結衣ちゃん、私と一緒に暮らさない?」
「え…」
結衣ちゃんの目に涙が浮かんできた。やっぱり嫌だったかな。
「結衣ちゃん別に今すぐ決めなくても良いよ、嫌だったら嫌って言ってくれていいし。けど…お姉さんは結衣ちゃんと一緒に暮らしたいな〜って思ってるの。明日まではここにいるから、一緒に行きたいって思ったらいつでも言って?」
俺何言ってるんだろう、そりゃ会って数十分の人に「一緒に暮らそ」なんて言われたら困惑するよね。
「一緒に…暮らしてくれるの?お姉さんは…私のこと…殴らない?お姉さんは…私がいてくれたら…嬉しい?」
結衣ちゃんは自分を必要として欲しいのかな。けどこんな事小さい子が考える事じゃない!小さい子は元気に過ごしてくれるだけで十分なの!
「お姉さんは結衣ちゃんが来てくれたら凄く嬉しい」
「…結衣お姉さんの所…行きたい。お姉さんはあの人達と同じじゃない。お姉さん?なんで泣いてるの?」
…ヤバい、感動で前が見えない。こんな良い子をこんな目に合わせた親は滅べば良いのに!ってもうこの世にいないか、ザマァ!俺がこの子を絶世の美少女に育てあげてやるから地獄で羨ましそうに見てるがいいわ!
「よし!善は急げって言うし今すぐ行くよ!結衣ちゃんすぐ準備して!」
「わかった!」
「準備が終わったら下に降りて来て。あっ、下に降りるのが嫌だったらこれで呼んで」
「わかっーーもう行っちゃった。…お姉さん可愛かったな〜、結衣もお姉さんみたくなれるかなぁ?」
よしよしよし!結衣ちゃんが来てくれる!めっちゃ嬉しい、もう死んでもいい。多分今人生で1番元気だわ。さっさと姉ちゃん達に伝えないと!
階段を転げながら落ちて行く。
「姉ちゃん!」
「ちょっとどうしたの?凄い音したよーーってどうしたのその血」
気づくと頭から血が出ていた。そんな事はどうでも良いんだよ!
「結衣ちゃん貰ってくね!」
「ちょっそれどういうーーもういないし」
言うことは言った、よしもう行くか!待っててね結衣ちゃん。
◆
「結衣ちゃん葵くんと一緒に行ってくれるみたいね。良かったわ、これであの子も普通の暮らしをしてくれると良いんだけど」
「え、葵の所にいたら普通の暮らしは出来ないと思いますよ。言ってませんでしたっけ?葵は小さい子が大好きですよ。まあ結衣ちゃんにとっては幸せな暮らしになるとは思いますよ」
「大丈夫、それ犯罪者になったりしない?」
「大丈夫ですよ、流石にその程度のことは判断出来ますよ」
◆
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