#21 授業参観
「………」
眠い、凄い眠い。昨日は凄くドキドキして全然寝れなかった。だって初めての学校行事だよ!も〜ずっと緊張しっぱなしだよ!
もう完全に覚醒しちゃったから起きるしかないし、すげ〜早いけどご飯作っちゃうか!なんならちょっといつもより豪華にしちゃお〜(現在午前4時)
ふと隣を見ると幸せそうに寝ている結衣がいる。まったく、俺の気持ちも知らずにこんな気持ち良さそうに寝るなんて…ちょっとだけ、いたずらしたい……けど起こしちゃったら……ちょっとだけなら………良いよね?
そして寝ている結衣のほっぺを突っつく。プニプニ…プニプニ…プニプニ。すっごい柔らかい、餅みたいだ。やっぱり子供のほっぺは柔らかいんだな。
……お腹も、ちょっとだけ……プニプニ…プニプニ…プニプニ。柔らかい。
「ん〜」
「……」
あぶね〜起きちゃったのかと思った〜。ごめんね結衣。
さっさと作るか。
◇
「お姉ちゃんおはよ〜」
「おはよう結衣、顔洗ってきな」
「うん」
よかった、ほっぺとかお腹を触った事は覚えてなさそうだ。
「お姉ちゃん、今日のご飯どうしたの?」
顔を洗って来た結衣が不思議そうに机に並ぶ料理を見ている。まあそりゃそうだな、いつもの倍以上の量のご飯があるんだしな。
「結衣が頑張れるようにって、お姉ちゃん頑張っちゃった」
「そうなの?ありがとうお姉ちゃん!大好き!」
はうぅ…すごく可愛い!!浄化される〜もうこのままずっと癒されてたい。離したくないよ〜
「お姉ちゃん!冷めちゃう前に早く食べよっ」
「そ、そうだね」
そして楽しい食事を済ませて学校に行く準備を済ませる。ちなみに授業参観は五時間目だ。だからそれまでは暇なのだ。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。今日も頑張ってね」
いつも通り頭を撫でる。いつもはそのまま家を出るのに今日は立ち止まってこっちを見ている。どうかしたのか?
「どうしたの?」
「……ぎゅってして?」
「いいけど、どうしたの?」
結衣の要求通りぎゅっと体を抱きしめる。結衣の体は少し震えていた。
「緊張してるの?」
「うん」
「今まで練習してきたんでしょ?なら大丈夫!ほら、楓ちゃん待ってるから行ってきな」
そう言うと結衣は笑顔を作って玄関を出た。いや〜その気持ちわかるなぁ俺はいつも来させないくらいだったしなぁ。それに俺とは初めての授業参観だしな、緊張するよな。
◇
「そろそろ時間ですし行きましょうか」
「そうね」
一緒にお茶をしている楓ちゃんママの【紅葉さん】に言う。「どうせ同じクラスなんだし一緒に行きましょう」て事で時間まで世間話や子供との話をして時間まで暇を潰していた。
今日は5時間目に授業参観があり、その後にクラスの懇談会がある。懇談会では後日行われる遠足や運動会についての話や、クラスの現状が話されるらしい。
結衣のクラスに着くと数人の保護者が集まっていて自分の子供と話をしていた。今はお昼休みの時間らしく好きに話をしても良いらしい(紅葉さん情報)。俺達がクラスに入ると結衣と楓ちゃんが駆け寄ってきた。すると周りにいた女の子たちも近寄ってきた
「この人がゆーちゃんのお母さん?」
結衣は学校ではゆーちゃんって呼ばれてるのか、はっきり言って名前は長くないからあだ名じゃなくても良いんじゃないかと思うんだけどきっと子供にとってはあだ名の方が親しみやすいのかな。
「ううん、お姉ちゃんだよ!」
見た目は女、声もほぼ女、戸籍上も女、けど体だけは男。どう説明すれば良いんだ!?戸籍上は女だからお姉ちゃんで良いのか?けど胸は無いけど棒はある。男と言えばいいか?くそっどうすれば……(女で良いのよw)ふと頭の中に姉の言葉が響く、俺もついに幻聴が聞こえるようになったか。まあそれはどうでも良くて女で良いのか?信じるぞ!
「初めまして、結衣の母親の葵です。みんなは結衣のお友達かな?いつも結衣と仲良くしてくれてありがとね」
自己紹介をするとみんなポカーンとして、少しして近くにいた髪をショートカットにしたボーイッシュな女の子が
「む〜やっぱり子が可愛いと親も可愛いのか!」
「ほんと〜こんな可愛いお母さんだったらゆーちゃんも可愛いよね〜」
ボーイッシュな女の子が喋り出したら周りの子も喋り出した。この子が女の子グループの中心なのかな?そして俺はその子たちに囲まれて質問責めにあった。何でこうなった、俺は男だぞ。しかも結衣に助けを求めてもニコニコ笑ってるだけだし、紅葉さんも見守る様な顔をしている。
〈キーンコーンカーンコーン〉
チャイムが鳴ってみんな席に戻り始めた。いや〜助かった。危うくあの子たちの波に巻き込まれる所だった。そして担任の先生が入ってきて授業が始まった。
「それでは皆さん、今日は前から言っていたように家族についての作文を発表してもらいます。親御さんも来ているのでしっかり聴こえる声の大きさで話しましょう。では話す順番をくじで決めたいと思います」
そう言うと担任の咲先生はよくスーパーの抽選で見る回すガラガラを出し、回し始めた。どこにそんなの売ってるんだ?
「それじゃあ一番最初に話してもらうのは〜〜結衣さん!!お願いします」
「はっはい!」
まさかの1番最初かよ!これは運が良いのか悪いのか、まあ頑張れ!
「『私の家族』神崎結衣。まずみんなに知って欲しいのは私はお母さんと本当の家族じゃありません」
ザワザワ…結衣の最初の言葉にクラスにどよめきがうまれた。っていうかそんな事言っていいの!?騒つくクラスメイトとその保護者達の目が結衣と俺に集まる。しかしそんな事を一切気にせず結衣は話し続ける
「私がお母さんと会ったのは今年の夏のことです。私はそれまで違う家族と暮らしていました、けど両親から私はずっとひどい事をされていました。家にいるのが辛くて何回も逃げ出そうとしました。けどそれが見つかるともっとひどい事をされていました。いつも助けてくれたのは両親から愛されていたお兄ちゃんでした。お兄ちゃんはいつも泣いている私を見て背中を撫でてくれていました、そしていつも「辛い時こそ笑いな。笑っていられるなら大丈夫。けどもし、笑えないならお兄ちゃんがずっと結衣のことを守ってやるからな」と、私を励ましてくれていました」
大人達は結衣の話を理解して涙を流していた。クラスの賢い子も涙目になっていた。
「けど、今年の夏、この生活が大きく変わりました。私を置いて家族が遠い場所に行ってしまいました。心の中では嬉しさと悲しさがずっと混ざっていました。けど大好きなお兄ちゃんもいなくなってしまい悲しみの方が大きく、笑えなくなりました。そして「もうやだ、お兄ちゃんと同じところに行こう」ってなった時にお母さんが私を訪ねてきました。お母さんは私の事をぎゅっと抱きしめてくれました。そこにはお兄ちゃんと同じ温かさがありました。その瞬間私はお母さんと一緒に居たいと思いました。そして私はお母さんと暮らす事になりました。お母さんは本当の子でもない私にも愛情を込めてくれました。私は本当に嬉しかったです、今までそんな事を貰った事は無かったからです。お母さんはどんな時にも私の事を一番にしてくれました。お母さん!私はそんなお母さんの事が大好きです。これからもよろしくお願いします!!」
〈パチパチパチパチ……〉
クラス中から大音量の拍手が鳴り響いているんだろう。けど俺には聞こえないんだよな〜。なぜかって?もう感動で鼻水と涙が止まんなくてそれの処理で聞こえないんだよ。けど、結衣がそんな風に考えてくれてたなんて……俺は子供を育てた事がない。だからどんな時も迷いがあった。これで良いのかな、大丈夫かな。けど結衣のことを思って愛情を込めて生活をしてきた。それがちゃんと結衣に伝わっていてすごく嬉しかった。
「良い娘さんですね」
隣にいた知らないお母様から話しかけられる。
「はい」
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