#最終話 葵と結衣
お母さんと別れ扉をくぐると目の前が強い光に包まれた。
そして……………
「うぅ……………ここは…………?」
目を開けると真っ白な天井が見え、窓の方からは夕焼けが差し込んでいた。
良かった、ちゃんと戻って来れたらしい。そして起き上がろうとしたところで違和感に気付いた、体が動かない?手足がある感覚はある。けど、なぜか動かす事が出来ない。もしかして事故のせいで折れてたりしたのか?
なんて考えていると病室の外から話し声が聞こえてきた。
「毎日毎日、結衣さんには頭が下がりますよ。けど、あまり無理はしないようにして下さいね?」
「大丈夫です!好きでやってる事なので!」
外から2人の話し声が聞こえてきた。
そのうちに1人の声は私がずっと聴きたかった声で……………そして病室のドアが開かれた。
「お姉ちゃ〜ん、来たよ〜。そろそろ起きy…………………」
「あはは…………おはよう、結衣」
病室に入ってきた結衣は持っていたフルーツの入ったカゴをボトン、と落としたと思ったらこっちに向かって飛び込んできた。
「あぁ………お姉ちゃん、お姉ちゃん!!!」
「久しぶりだね、元気だった?」
「うん、うん……………ごめんなさい、ごめんなさい……………!!!」
飛びついてきたと思ったら結衣はひたすらに謝り続けて涙をこぼしていた。
俺は動かない腕を必死に動かしてなんとか結衣の背中側に腕を回して結衣を抱きしめて
「ごめんね、ただいま」
◇ ◇ ◇
泣き止んだ結衣は大急ぎで先生を呼んできてくれた。そして先生から自分がどんな状況だったのかを聞かされた。
私はあの後、病院に緊急搬送されそのまま手術を受けてなんとか一命を取り留めた。幸い、内臓や脳には大きな影響は無く、骨がかなり折れただけで済んだらしい。けど、一向に私は目を覚まさなかったらしい。脳にも何も異常がないため治療をするにも何をすれば良いかわからなかったらしい。
「あ、あの、少しいいですか?」
私はずっと気掛かりだったことを聞く為に口を開いた。
「はい、何でしょうか?」
「私は…………どれくらい眠っていたんでしょう?」
「「……………」」
私が聞いた瞬間に2人は顔を下に向けた。
そのまま重い空気が数分続いた後、先生が口を開いてポツリと話始めた。
「葵さんは…………おおよそ、1年半、眠り続けていました。今は………2月です」
「え…………?」
1年半も?私はそんなに眠り続けていたの?お母さんと話をしていたから?
その瞬間私の中に負の感情が湧き始めた。「もっと早く切り上げていれば」「さっさと起きていれば」「結衣を助けたいって言ったのに」「私なんか…………」
「お姉ちゃん!」
「…………っ!ど、どうしたの?」
いきなり結衣が声を上げた。
「結衣は………お姉ちゃんが帰ってきてくれただけで嬉しいよ!!だって、だって、みんなからは「もうお姉ちゃんは帰ってこないかもしれない」って言われてたもん。けど、けど、お姉ちゃんが私を置いて行っちゃうなんて思わなかった。だって…………お姉ちゃんは結衣を助けてくれたもん!」
「結衣…………」
結衣のその言葉で曇った私の心に日がさしたような感じがした。
「はいはい、そんな悲しい話はおしまい!せっかく起きたのにまた眠っちゃうよ。それより結衣ちゃん、お姉ちゃんに何か伝えないといけない事、あるんじゃないの?」
先生はそう言うと結衣にちっちゃく耳打ちをすると結衣はハッとしたような顔を浮かべてランドセルから1枚のプリントを私に差し出してきた。
「なになに……………」
結衣から渡されたプリントを見て私は………………………ショックのあまりベッドに倒れ込んだ。
「お姉ちゃん!?どうしたの!?」
「あ、ああ…………ああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?!?」
結衣から渡されたプリントには『卒業式の案内』だった。そうだ、なんで気付かなかったんだ。私が事故に遭ったのが結衣が5年生の夏、そこから1年半も経ったら………………卒業式じゃん。
「せ、先生!私、卒業式って出れますか!?」
「お、落ち着いてください。まず、現状は無理です」
「そ、そんな…………先生!!!なんとかなりませんか!?」
「お、落ち着いてくださいって。現状は、ですから。まだ卒業式までは時間があります。卒業式まで、頑張りましょう!!」
「はい!!!」
そしてその日は取り敢えず結衣は家に帰ってもらった。因みに先生から聞いた話だと結衣は私が入院してから毎日、一日も欠かさずお見舞いに来てくれていたらしい。一大イベントである修学旅行を休んでまで…………
そして次に日から私の知っている人(両親や姉家族、楓ちゃん親子、秋葉社長、しーちゃんなどなど)が毎日のように私を訪ねてくれた。義父母からは「戻って来てくれてありがとう」と涙ながらに言ってくれた。そしてどんな運命なのか、私が眠ってお母さんと会っている時に、義父母は夢でお母さんと会う夢を見ていたらしい。そしてその夢の中でお母さんは『少しの間だけ親子水入らずで話させてもらうわ。大丈夫、必ず帰らせるから』と言っていたらしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして時間が過ぎていき………………
卒業式当日になった。
私はなんとか歩けるくらいになるまでは回復したが安全面も考えて車椅子で行くことになった。そして学校側の配慮で同伴者も付いてきていいと知らせがあった。
卒業式の前日、私は1年半ぶりに自宅に帰った。私が事故に遭ってから結衣は姉ちゃんの家で暮らしてたらしいからてっきり埃まみれになってると思ってたが違った。部屋は住んでいた頃よりも綺麗に整えられていたのだ。なんと結衣が毎週うちに来ては掃除をしてくれたらしい。
そして部屋に入ると美味しそうな料理の匂いが漂っていて、キッチンからエプロン姿の結衣が出迎えてくれた。1年半も経ったのだから結衣も大きくなっていて、私がプレゼントしたエプロンはすっかり小さくなっていて少しキツそうだった。そして、結衣はお料理がプロ並みに上手になっていた。
そして、そのまま自分の家で一夜を過ごして………………
卒業式当日になった。
結衣は卒業式用に買った上品で落ち着いた黒のワンピースを着ていた。上品さもあるが、どこか可愛らしさもそこにはあった。ちなみに髪の毛やお化粧は前日から来ていたお母さん達にやってもらっていた。
「お姉ちゃん、行ってきます!」
結衣はそう言うと家を出て小学校最後の登校をしに行った。
私はその後ろ姿を涙を全開に流しながら見送りをした。
「ちょっと、もう泣いてるの?」
「だって、だって…………」
「ほら、泣いてないで私達も準備するわよ」
私は泣きながらお母さんが用意してくれた服に着替えて学校に向かった。
学校に着くと結衣の担任の先生に挨拶をされて会場に案内された。会場にはすでに多くの保護者達が集まっていた。私は用意された場所に車椅子を留めて卒業生が入場するのを待った。
そして
盛大な音楽が流れて結衣達が入場してきた。私は入ってくる流れをじっと見て結衣を探し始めた。そして一瞬だったけど、列の中にいた結衣を見つける事ができた。その時の結衣の顔は喜びと恥ずかしさが入り混じったような、素晴らしい顔だった。
卒業生の入場が終わり、校歌を歌ったり、在校生代表の挨拶を聞いたりして遂にメインイベントである卒業証書の授与が始まった。この頃になると周りも号泣の嵐でほとんどが泣いていた。そして、自分の子供が証書を受け取ると体育館を回って保護者席の前で止まり一礼する、そして親もそこで立ち上がる。これがこの学校の流れだった。
そして、葵と結衣の番が来た。結衣が卒業証書を受けとり私の前までやってくる。
私は結衣が来たのを見計らって立ち上がった。そして、結衣が一礼するのと同時に私も深く、深く頭を下げた。私はこの瞬間に、結衣との今までの記憶が全て昨日のように思い出されていた。
卒業式も終わりに近づいてきて遂に最後の卒業生代表挨拶になった。
「卒業生代表、6年1組神崎結衣前へ」
「…………っ!」
そして結衣が壇上に上がった。
「私たち125名は今日を持って卒業します。私たちは……………」
そこから結衣のスピーチは涙のせいで全く入ってこなかった。
「……………中学生になると一歩大人に近づきます。大人になることは私は自分よりも弱い人を助けることの出来る人だと思っています。私を助けてくれたような人に私はなりたいです!これで挨拶を終わります」
結衣の最後の言葉だけはなぜか鮮明に聞き取る事ができた。まるで私のために、言ってくれてるような気がしたからだ。
「卒業生、退場」
そして結衣達は体育館全体から盛大な拍手に包まれて小学校を卒業した。
「結衣ー!遅刻するわよー!!」
「わー!?お姉ちゃん早く言ってよ!!」
「もう中学生でしょ?1人で出来るようになりなさい!」
「なーんて、もう準備できてます〜だ!」
「まったく、こんな騒がしい中学生見たことないわ」
「えへへっ、じゃあお姉ちゃん」
「なぁに?早く行きなさい」
「行ってきます!!!」
「…………行ってらっしゃい」
そう言ってセーラー服を着た少女は元気な声で家を出て行った。
長い間読んで頂きありがとうございました。本当ならばもっと書いていたかったのですが、私の今の力ではマンネリ化してしまい(もう既にしてたけど)読んでくれている方々に申し訳ないと思えたので思い切って終わらせることにしました。もし、私が違う作品を書いていたらまた読んでくれたら嬉しいです。
読んでくれた方々のブックマークや評価で書き続ける事が出来ました。本当にありがとうございました!!!




