#119 マラソンは地獄への片道切符
季節が巡るのも早くもう七月になっていた。そして梅雨も開けて空には雲一つない晴天が広がっていて、外を眺めると公園で元気に遊んでいる子供たちや軽いジョギングをする仲の良さそうな老夫婦がいた。
それをマンションのベランダから眺める私には一つの悩み事があった。それは…………
「運動不足がヤバい…………」
梅雨になってからはずっと雨続きで外にも出れてなかった(注・梅雨とか関係なしに外出てない)せいで運動不足気味でちょっとお腹が出てきたような…………する様なしない様な。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「うわっ結衣!?いつの間に!?」
ベランダでキンキンに冷えた麦茶(時間が経っててぬるくなっている)を飲んでいるといつの間に帰ってきたのか結衣が後ろに立っていた。鍵を開けた音聞こえなかったんだけど…………もしかして結衣って忍者だったりする?
「ただいまって言ったのにお姉ちゃんから何も返ってこなかったから心配したんだよ!!」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事してて気づけなかったよ」
「所で何考えてたの?結衣を無視してまで…………」
う…………怒ってる、というよりもこれは拗ねてるな?
まったく、いつまでも甘えんぼさんなんだから!
「最近運動不足だったから運動しようかな〜って」
「あ〜確かにお姉ちゃん最近お腹出てきたもんね〜」
「…………マジ?」
「うん」
そう言われて確かめるように自分のお腹を少し引っ張ってみる、すると少し肉が伸びた。これは……………言われてもしょうがないわ。マジで痩せて前の体型に戻さないと!
「あっそうだ!痩せるなら良い方法あるよ!!」
「ほんと!?教えて教えて!!」
決意を胸に刻み込んでいると結衣が何か思いついたようでニッコニコで話始めた。
「今度ね、学校でマラソン大会があるの。それで練習したかったんだけどお姉ちゃんも一緒にやれば一石二鳥だよ!」
「おぉ〜マラソン大会か。確かにそれなら結衣も練習できてお姉ちゃんは運動ができる、しかも結衣は私がいるから安全に練習できるじゃん!」
「じゃあ決まりだね!さっそく行こっか!!」
「うん!」
そしてその場の勢いと流れでマラソンの練習を決めたのだが、その数時間後私は結衣とマラソンする事を後悔する事になる。
◇ ◇ ◇
部屋着から運動のしやすいジャージに着替えて運動靴を履いて外に出た。
結衣はもうやる気満々で入念に準備運動をしていた。
「そういえばどのくらい走るの?」
「えっとね〜結衣が走るのは1000メートルだよ!」
「え………マジ?」
今の小学校って女の子にも1kmも走らせるのか、凄いなぁ。
「結衣はどのくらいを目標にするの?」
準備万端で遂にはボトルの準備をし始めた結衣にどれくらいを目指すのか聞いてみた。
「う〜ん、結構悩んだんだけど全国平均が3分49秒だから…………3分39秒くらいかなぁ」
「走るのが得意な結衣にはちょうど良いんじゃない?お姉ちゃんにはどのくらい凄いのかわかんないけど………」
はっきり言って私の学生時代の体育なんて評価が真ん中だったら良い方で大抵が最低値のスレスレだったからタイム測定なんて大体ワーストを競い合ってたからね。女子に負けるなんてよくある事だったよ、懐かしいなぁ。
「よし、お姉ちゃんの準備も終わったし行こっか!」
「よろしくお願いします」
そして私はとりあえず結衣に遅れないように走ろうと思っていた…………………が、結衣の走力を甘く見ていた私は痛い目にあった。
走り始める前に結衣が「お姉ちゃんは久しぶりの運動だから準備運動がてらジョギングしてみよっか♪」そう言われて結衣のペースでジョギングを始めたのは良かった。ただ、私の予想していたペースと実際のペースはかなり違っていてジョギングをし始めてわずか10分で足がガクガクと震えていた。
「お、お姉ちゃん………だ、だいじょぶ?」
「アハハ…………まさかここまで酷いとは思わなかったよ……………」
今は公園のベンチで休憩をしている。私はすでに汗でびしょびしょになっているのに結衣は一切汗をかいていなかった。もっと体力つけないと……………
「よし!結衣あと1分経ったら再開しよ!」
ある程度体力が戻ってきたのを感じて結衣にそう伝えた。いつまでもグダグダ休んでたらやりたく無くなっちゃうからね、こういうのはさっさと再開するのが一番なんだよね(経験済み)
「もういいの?もう少し休んだ方が…………」
「いいの、メリハリはしっかりしなきゃ」
「…………わかった、けど無理しちゃダメだからね?」
「うん!」
そして1分経ってベンチから足を離した。
ジョギングという十分すぎる運動のおかげで体はポカポカを通り越して暑いくらいだけど遂に走ることになった。さっきの反省を生かして今度は私のペースで走ることになった。結衣のペースで走ったら多分走り終えた時には私は屍になってるだろうからね。
私は自分の太ももを一回パシンと叩いて走り出した。
〜〜10分後〜〜
「お………お姉ちゃん大丈夫?」
「ヒュー…………ヒュー……………」
私は10分間公園の周り(一周200メートル)を走り続け、ベンチで横たわっていた。流石の結衣も額から数滴の汗が出ていた。それに比べて私は…………
「お姉ちゃんとりあえずタオルと………トイレで着替えてこよ?風邪引いちゃうよ」
「う………うん」
全身の穴という穴から汗が溢れ出していて、特に脇からは大量の汗が湧き出ていた。晴天なのにも関わらず私の足元には水たまりが出来ていた。そしてなんとか結衣に支えてもらって多目的トイレに辿り着く事ができた。
「じゃあまずは…………運動着脱いで、タオルで汗拭いてて。その間に替えの下着と運動服用意してるから」
「は………はい」
結衣から替えの下着とジャージを受け取って着替え始める。脱いだ服をビニール袋に入れて密封させてタオルで汗を拭き取る。こんなに汗をかいたのはいつぶりだろうか。
汗を拭き取って新しいジャージに着替えてトイレを出た。
「お姉ちゃん、はいお水。運動の後はちゃんと水分補給しないとダメだからね」
「ありがとう……………ぷはっ生き返るぅ〜!」
結衣からペットボトルのスポーツドリンクを受け取ってそれを喉に流し込んでいく。体に入り込んだスポーツドリンクは失った分を補うように体の隅々へと行き渡っていくのを感じた。
「お姉ちゃん、やっぱり今度からこういうのはやめよう?」
「え………?どうして…………」
なぜか結衣はやめようと言ってきた。確かに今日は結衣の足を引っ張っちゃってまともな練習をさせてあげられなかったけど、今日ので多少は体力がついただろうし今日よりも出来るようになってるはずなのに…………どうして…………?
「だって…………お姉ちゃんが辛そうにしてるの、結衣見れないよ、見たくないよ………」
「あ…………」
「確かに…………お姉ちゃんは痩せたいのかもしれないけど、そんな辛そうにしながらダイエットしてるお姉ちゃんなんて見たくないよ。それに探せばもっと簡単に痩せる方法だってあるはずだよ!」
「…………」
そう言う結衣の目には涙が溜まっていた。
そっか……………私は自分のことばっかり考えて結衣がどう思うかなんて考えてもなかった。結衣からしたら太ってる私よりも辛そうにしてる私の方が嫌なんだね……………
「わかった、もう走るのはやめる!けど、ダイエットするのはやめないからね!」
「うん、結衣も手伝うよ!」
そう結衣と約束して今日は家に帰った。
◇ ◇ ◇
そして次の日の朝になった。
私は全身筋肉痛でベッドから動けなくなっていた。
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