#115 プール④
「結衣ちゃん…………なに食べたい?」
「えっと…………」
「お金のことは気にしなくていいからね、ゆっくり悩んでいいからね」
私はプールのフードコートの前で頭を悩ませていた。フードコートにはカレー、ラーメン、焼きそばとかのよくある物やフォー、ロコモコ、タコスなどなどの珍しい物も沢山あるのだ。カレーとかの“美味しい物”を食べるか、はたまたフォーやロコモコみたく普段じゃ食べられない“珍しい物”に挑戦するか……………悩ましい所だ。
「じゃあ私は楓の方を見てくるから、帰ってきたら教えてね」
そう言うと紅葉さんは飲み物を買いに行った楓ちゃんの方へ歩いて行った。
「う〜ん、何がいいかな?」
相変わらずどれも魅力的で決められない。お姉ちゃんがいたらちっちゃいのをいっぱい頼んで二人で半分こにしながら食べれたんだけど、流石にそういう事をする訳にもいかないしなぁ。
「あら?結衣ちゃん?」
メニューと睨めっこをしていると後ろから女の人の声が聞こえてきた。後ろを向くと優しそうな顔をした女に人が二人立っていた。そして、そのうちの一人には見覚えがあった。
「咲先生?」
「こんにちわ結衣ちゃん。千由里この子は私のクラスの子で結衣ちゃんって言うの」
その女の人は私の小学校の担任の先生の天宮咲先生だった。ていう事は隣にいるのは同じ先生なのかな?
「ほぇ〜なるほど………………結衣ちゃん、咲から変なことされてない?」
「へっ?」
咲先生から紹介された女の人、千由里さんはいきなりそんなことを聞いてきた。
変なこと…………そんな事された覚えはないけど。
「もうっ千由里!何聞こうとしてるのよ!!」
「え………だって子供好きのお前が…………モゴモゴ」
「…………結衣ちゃん、何も聞いてないわよね、ね?」
そう言うと咲先生は肩をガシッと掴んできた。その顔からはただならぬ圧を感じる。
「ハ、ハイ…………」
「…………なるほど、こうやって圧力をかけてるのか」
「千由里、なんか言った?」
千由里さんがなにかボソッと呟いたのを聞き逃さずしっかりと追求をする咲先生、いつもの優しい声、優しい顔、ほのぼのした空気と全然違くてギャップがすごい。
「ところで結衣ちゃん、お母さんはどうしたの、一人?」
「あっお姉ちゃんは仕事で忙しくて来れてなくて、楓ちゃんと楓ちゃんのお母さんと来てます」
「そう、じゃあ大丈夫ね。けどこういう所には危ない人がいっぱいいるからなるべく大人の人と一緒にいるんだよ」
「(ボソッ)お前みたいなのがいっぱいいるからな」
「何?」
「……………」
あはは……………仲は良いのかな。
「…………!じゃあ私たちは行くわ、楽しんでね結衣ちゃん」
「はい!」
そう言うとなぜか咲先生たちはそそくさと離れて行った。
こういう所でも先生とかとも会うんだなぁ、今度からはなるべく服装とか気をつけないと。
「結衣ちゃーん!」
「わっ!どうしたの楓ちゃん?」
咲先生から目を離してまたメニューを見ようと体を後ろに向けようとした瞬間に楓ちゃんが私に向かってダイブしてきた。とっさだったけどなんとか倒れずに済んだ。
「楓〜危ないからそういうのはやめなさいって言ってるでしょ〜」
「え〜だって結衣ちゃんがナンパされてたし〜しょうがないじゃん?」
「な、ナンパ!?」
楓ちゃんはなぜか私がナンパされてたって言ってるけど…………私楓ちゃんたち以外には先生としか会ってないし、男の人とは一切喋ってない。楓ちゃん、誰かと見間違えたのかな?
「楓ちゃん、私ナンパなんてされてないよ!?」
「い〜や、されてたよ!!だってさっき知らない人と話してたじゃん!!」
「さっき話してたのは………」
「あのね結衣ちゃん、ナンパは女の人からでもナンパって言うんだよ!」
「ねぇ聞いて……………」
「結衣ちゃんはちっちゃくてかわ………ブヘッ」
「楓、結衣ちゃんの話を聞きなさい」
私の話を聞かないで暴走し続ける楓ちゃんを紅葉さんが口を塞ぐ。
「あのね楓ちゃん、さっきのは咲先生だよ。咲先生もプールに来てたんだって」
「そうなの?じゃあ早く言ってよ〜」
「「聞かなかった(でしょ)じゃん!」」
楓ちゃんに二人からのツッコミが入る。
◇ ◇ ◇
「「いただきまーす!」」
あの後食べるご飯を決めて場所をとってくれていた紅葉さんのところに向かった。私は最後まで悩んだけど挑戦する事は大事だからフォーっていうベトナム料理を頼んだ。楓ちゃんは焼きそばとアメリカンドック、それとフライドポテトを頼んでいた。紅葉さんはつけ麺(激辛)を頼んでた、紅葉さんの頼んだつけ麺からはこの世の物とは思えないほどの匂い(良い意味で激臭)を放ってたんだけど…………なぜが人気No. 1らしい。
「時間はいっぱいあるからゆっくり食べるんだよ〜」
「ねぇねぇ結衣ちゃん食べっこしよ!」
「うん、良いよ」
私はフォーの入った器と楓ちゃんの焼きそばが盛られたお皿を交換する。
こういう所の料理にはあまり期待はしてなかったんだけど、食べてみると案外美味しかった。まあ、お姉ちゃんの料理の方が何万倍も美味しいけどね!!
「結衣ちゃんこれ美味しいね」
「うん、楓ちゃんの焼きそばも美味しいよ」
楓ちゃんから器が帰ってきた。
そしてそれを見計らったのか紅葉さんが恐ろしいことを口にする。
「ねぇ二人とも、お母さんのつけ麺も食べてみない?美味しいわよ?」
紅葉さんがつけ麺(激辛)を差し出してきたのだ。はっきり言わせてもらおう、そのつけ麺のつけ汁からは悍ましいほどの匂い(辛味)があるし近くにいるだけでキツい、視覚的に表すならば漫画とかでよくあるヤバい食べ物にはドクロが出てくるよね、それがこれにもあるように見る。
「「(ブンブン!)」」
「あら、そうなの?美味しいのに」
私たちが全力で首を振る中なか紅葉さんはその悍ましいつけ麺を美味しいそうに食べ続けていた。この人の味覚は一回調べてもらった方がいいと思う。
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