#110 お墓参りと
結衣はお墓の前に座り込むと長い間目を閉じて手を合わせていた。きっと、紬さんと話をしているのだろう。そして………どれくらいの時間が経っただろう、5分は手を合わせていただろうか。結衣はやっと目をあけて立ち上がった。
「結衣、お別れはできた?」
結衣の顔はこっちにくる時とは違って吹っ切れた様な清々しい顔をしていた。
「うん、ちゃんとバイバイもしたし、お母さんにもいっぱいお話もした。もう大丈夫」
「そっか、じゃあ次はお姉ちゃんの番だね。ちょっとだけ待っててね」
結衣にそう言って今度は私がお墓の前に座って手を合わせた。
◆ ◆ ◆
紬さん、結衣はどうでしたか?貴女から見て結衣は成長できていましたか?私は貴女に会った事もありません、そのため貴女が結衣をどういう風に育てたかったのかはわかりません。けど、今の結衣の親は私です。なので私が思ったように結衣を育てていくつもりです。もしかしたら貴女の望む教育方針ではないかもしれません。けど、受け入れて下さい。過去はどうであれ貴女は結衣を残して去ってしまった、そんな貴女に文句を言う権利はありません。天国から結衣をしっかり見守っててあげて下さい。結衣は強い子です、自分でない他の人のために努力をする事ができます。きっとこれは貴女の教育の賜物なんでしょう。私はそういう所はしっかりと伸ばしていくつもりです。
今までお疲れ様でした。ゆっくり休んでください。
◆ ◆ ◆
目を開けて立ち上がると私の後ろで結衣が私のことを眺めていた。
「よし、あとはお花を飾って帰ろっか」
「うん」
私はバッグに入っていた鬼灯を結衣に渡して線香の用意をした。
結衣が鬼灯の花を飾ったのを確認して結衣に線香を三本手渡した。
そしてもう一度二人で手を合わせてお墓を後にした。
敷地を出た時に結衣が後ろを振り返った、何かと思っていると………
「お母さん、お母さんの娘として恥ずかしくないように生きるから…………私を見ててね!」
そう、何もいないところに向かって声をあげた。その直後私と結衣の間に夏前とは考えられない柔らかく暖かい風が通り過ぎていった。紬さんは……………そこにいたのだろうか。
「お母さんがそこにいたの?」
「お母さんの声が聞こえたの」
「そっか、頑張ってねって言ってたんじゃない?」
「うん………!」
そう言うと結衣の顔には笑顔が浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
「結衣、もうお腹は大丈夫?」
「うん、もう痛くないよ」
車に乗って家に帰っている時に行きでは不安定だった結衣の体調を尋ねる。
幸い、もう辛くはないみたいだ。
「そっか、じゃあもうお姉ちゃんが付いてなくてもいいね」
「え………?」
「結衣?」
「あれー?おかしいなぁ、急にお腹痛くなってきたなー(棒)」
私が付きっきりになんなくても良いと言った瞬間に結衣は数秒前の発言を撤回してお腹が痛い(棒読み)で言い始めた。まったく結衣はわかりやすいなぁ、ちょっとだけ遊んじゃおうかな♪
「じゃあ今日は早く帰ってお休みしようか。明日はちょっと予定があったんだけど………結衣の体調が最優先だからキャンセルしないとなぁ………」
「えっ!? 大丈夫、もう治ったよ!」
「あれ?お腹痛いんじゃなかったの?」
「やっぱり気のせいだったみたい!」
はぁ…………手のひら返しが凄いんだから。まあ、こういう所も結衣の可愛い所なんだけどね。
「ふふっ嘘ついちゃダメでしょ〜」
「あうぅ……………」
「まぁ、本当は予定なんて無かったんだけどね♪」
「……!?嘘ついたの!?」
「結衣も同じでしょ?」
「「………あははっ!!」」
ふふっ楽しいなぁ。
「あ〜笑った…………結衣、今日の夜ご飯何がいい?」
「………お姉ちゃんってたまにテンションおかしいよね」
「え?そうかな」
私は別に普通だと思うんだけど…………まぁ人から見たら自分の印象なんて違うからしょうがない事だけど。テンションがおかしいなんて人生で初めて言われたかも。
「うん、だってさっきまで一緒に笑ってたのにいきなり夜ご飯のこと聞いてくるし………」
「ふ、ふふ、夜ご飯は何がいい?」
「お姉ちゃん話逸らさないで」
「夜ご飯、なにがいい?」
「お姉ちゃん!」
「夜ご飯………」
「…………」
「夜ご………ゔっ!」
な、なんで………?ただ【夜ご飯】って言い続けてただけなのに、なんで全力の肘打ちをお腹で受け止めなきゃいけないの?お、お姉ちゃんはただ、結衣の笑て欲しかっただけなのに………
「夜ご飯は天丼がいいなぁ〜♪」
「最初っからそう言ってくれれば…………」
「なんか言った?」
「イエ、ナニモ」
…………最近結衣が怖い。
◇ ◇ ◇
「お姉ちゃん、天ぷらはちくわでしょ〜あとは鶏肉でしょ、それに茄子………」
おお………結衣からのリクエストが止まらない。やっぱり天ぷらって美味しいからねいっぱい食べたいよね。まあ残念ながら今日はとり天だけなんだけどね。




