#108 結衣は雷が怖い
家庭訪問も終わって六月に入った。
六月と言えば……………そう“梅雨”である。洗濯物が乾かない、ジメジメする、髪の毛のお手入れが大変、部屋にキノコが生える?などなど嫌な事がいっぱいある。もちろん嫌なことだけじゃないかもしれないけど私からしたら“梅雨”は一番嫌いな季節なのだ。
今日も相変わらず雨が降り続いている。ここ数日間ずっと降り続けていて気分も下がってくる。雨は嫌いじゃないんだよ、梅雨っていう季節が嫌いなのよ。
「お姉ちゃーん、服濡れちゃった」
「わっ!傘持ってってなかったの!?」
学校から帰ってきた結衣がびしょ濡れになって帰ってきた。まぁ確かに朝は雨降ってなかったけど、ここ数日はずっと雨降ってたんだから傘持ってかないとダメでしょ。
「あ〜とりあえずお洋服脱いで急いでお風呂入ってきな」
「は〜い」
「あ、あと服はカゴに入れておいてね」
それにしても今年はいつもより梅雨に入るのが早かったなぁ。しかも毎年梅雨の期間が長くなってくし、まったく嫌なもんだ。
ん………?あ、結衣着替え持ってってないじゃん。まったく、いつもあれだけお風呂に入る時は着替えも一緒に持っていきなさいって言ってるのに。確かに急いでお風呂に入ってとは言ったけどいつもお風呂に入る時は着替えを持っててるんだから今回も持って行かないとダメでしょ。しょうがない、持っていってあげるか。
そう思って結衣の着替えを部屋から持ってお風呂場に向かっていと
〈ドカーン!!!〉
一瞬外が光ったような気がしたと思ったら大きい音が響いた。
確かに梅雨と言ったら雷だけどめっちゃ急に落ちるじゃん、さっきまで雨しか降ってなかったのに。大丈夫かな、停電とかしないといいけど………
「…………結衣の様子見に行くか」
服を置いていくだけの予定だったけど………まぁ一応ね?
「結衣〜大丈夫?」
「お、お姉ちゃん!? さ、ささ、さっきの音なに!?」
おお?めっちゃテンパってるじゃん。
「雷が落ちただけだよ。結衣はなんともない?」
「う、うん。大丈夫………」
「そう、じゃあ着替え置いておくね。あったまってから出るんだよ〜」
「あ…………待って………」
結衣の着替えを置いて出ようとすると結衣に止められた。
「お、お姉ちゃんも…………その、一緒に入らない?」
「ん〜お姉ちゃんは夜ゆっくり入るから結衣は一人でゆっくりしてな〜」
わざわざ夕方に入る必要もないし、それに一人で入ってた方がリラックスできるでしょ。
「そっか………ごめん…………」
そして今度こそお風呂場から離れた。
さてと、仕事しないとなぁ。
◇ ◇ ◇
雷が落ちてから少しして結衣がお風呂から出てきた。いつもならソファーに座って髪とかを乾かし始めるんだけど………
「あの〜結衣さん?どうしてお膝の上に?」
「…………」
なぜか今日は私の膝の上に座りながら髪を乾かしている。別にダメってわけじゃないんだけど………いかんせん画面が見えない。
「あの〜結衣さん?」
「…………」
「すみません、反応してくれるとありがたいんですけど…………」
「…………」
ダメだ、絶対に喋らないっていう固い意志が感じられるくらいには動こうともしてない。もしかして、さっき一緒に入ろって誘いを断られたから拗ねちゃってこんなことしてるの?
「ねぇ結衣どうし…………」
〈ドカーン!!!〉
「ビクッ!!」
「…………」
今…………雷の音にびっくりした?…………膝の上で髪の毛を乾かしてるのってもしかして
「結衣………」
「ななな、なに?」
「雷が怖いの?」
「………!そそそ、そんなわけ無いじゃん!」
ふふっ…………可愛いなぁ。わかるよ〜私も小学生くらいまでは雷怖かったしね。
「強がらなくてもいいんだよ〜。雷が怖いんでしょ〜?」
「うぅ〜…………秘密だよ?」
あ〜雷を怖がってる結衣も可愛いなぁ。大人っぽい結衣も良いけど、雷を怖がる結衣も子供っぽくて好き。
ちょっとだけイタズラしちゃおうかなぁ〜!
「ふふっ大丈夫、結衣とお姉ちゃんだけのヒミツね。…………ところで、ねぇ結衣?」
「なに?」
「さっき天気予報見たんだけどね……………今日はずっと雷が降るみたい」
「………!!?」
「結衣………一人で寝れそう?」
ふふっさあ、どう答える、神崎結衣!
意地を張って一人で寝ると主張するか、はたまた素直に怖いと言って一緒に寝ると主張するか、お姉ちゃんは何がなんでも一緒に寝させるために全力を尽くすからね!!
「………るもん………一人で寝れるもん!!」
「ほんとに〜?やっぱり怖くなったって言って部屋に来るのは無しだよ〜?」
「うぅ〜」
「今なら許してあげるよ〜。どうする、一緒に寝る?」
「………大丈夫だもん!」
はぁ、これは絶対に変えないなぁ。残念、雷にビクビクしながらくっついてくる結衣を見たかったんだけどな〜。
「そっか〜残念」
「…………」
◇ ◇ ◇
夜になった。夜になって雷は夕方よりも強くなって頻度も多くなった。あれから結衣はずっと不安そうな顔をして過ごしていた。そんなに怖いなら一緒にいたいって言えばいいのに。
「お休み、結衣」
「…………おやすみ……………」
おやすみの挨拶をしてそれぞれの寝室に入っていく。
そして、しばらくして…………
〈トントントン〉
私の部屋がノックされた。そして枕を持って涙目になった結衣が入ってきた。やっぱり怖くなっちゃったよね、夕方の明るい時でさえあんな反応だったんだから
「お姉ちゃん………」
「どうしたの?」
「その………やっぱり一緒に寝てい?」
ふふっやっぱり。最初っから素直に一緒に寝たいって言えば良かったのに。
「いいよ、おいで」
そう言ってベッドを広げて結衣を招き入れると結衣はすぐに入り込んできた。
「最初っからお姉ちゃんと一緒に寝てれば良かったでしょ?」
「………結衣は子供じゃないもん」
結衣はプイッと顔を逸らすが、それを私は後ろから優しく包み込む。
「そう意地を張らないの。別に悪いなんて言ってないでしょ」
「…………」
「お姉ちゃんからしてみれば一人でしっかり寝れるのもいいと思うけど、たまには甘えてくれたって良いと思うんだ」
「…………わかってるよ…………」
「無理しないでね、お姉ちゃんは絶対に結衣の味方だから」
「うん‥……」
結衣がそう言うと部屋は静寂に包まれた。




