#103 結衣と葵ちゃん
「じゃあ飲んでみるね」
お姉ちゃんはそう言って瓶の中から薬を一粒取り出して口の中に放り込んだ。さぁどうなるのか………
「………なんにもない。やっぱり偽物だったかぁ」
お姉ちゃんはそう言うと少し残念そうにしたけどすぐにいつものような明るい顔に戻った。私としても若返ったお姉ちゃんを見てみたかったけど、何も起きないのが一番だよね。
その日はその後は何事もなく普通の日を過ごした。
そして、次の日私はある声で目を覚ます事になった。
「うぁあああああああん!!!ままぁああああああああああ!!!」
「なになに!? どういう事!?」
朝になるといきなり隣の部屋から子供の泣き声が聞こえてきて跳ね起きた。ていうか、なんで子供の泣き声が!? この家には私とお姉ちゃん以外いないし、お姉ちゃんに隠し子もいない。だとしたらこの泣き声は…………もしかして!!
私にその瞬間脳内に一つの可能性が導き出された。その可能性は…………
「もしかして…………昨日の【若返り薬】のせい!?」
昨日飲んだ時には何も起きなかった。けど、冷静に考えてみればその時何も無かったからと言ってその後も何も起きないという保証は無かった。
私はとりあえず急いで隣で寝てるであろうお姉ちゃんの部屋に向かった。
そしてそこで目にしたのは……………お姉ちゃんが寝ているはずのベッドの上で小さな女の子が泣き喚いていたのだ。そしてそれを見た瞬間に私の思考は完全に停止した。
「うあぁぁぁああん!!!ままぁぁああああああああああ!!」
…………………はっ! ままま、まずはこの子を泣き止ませないと!!ご近所に迷惑になっちゃう!!けど、どうやってあやせばいいの!? 私そんなのわかんないよ!ああぁ、とりあえず私がこの子の【ママ】にならないと!!
「あ、赤ちゃん、ママだよ〜」
「いやぁああああああ!!!!ままぁああああああああ!!!」
「ママはここにいるよ〜大丈夫だよ〜」
学校の授業でちっちゃい子は笑顔を見ると安心するって聞いたからとびっきりの笑顔になっても全然泣き止んでくれないよ!!…………もしかして名前で読んだ方がいいのかな、うぅ………恥ずかしいけど、やるしかない!
「あ、葵ちゃん、ま、ママはここにいるよ〜大丈夫だよ〜大丈夫〜」
「ぐすっ……ひっぐっ……」
「ほら、ママのところにおいで?」
「ままぁ!!」
ベッドの上で泣いていた女の子は私に抱きついてきて泣き止んだ。
【葵ちゃん】って呼んだらすぐに泣き止んだ。ていう事はこの子は……………小さい頃のお姉ちゃんってこと!?
と、とりあえずこういう時は朱音さんに助けを求めないと!!お姉ちゃんの兄弟の朱音さんならお姉ちゃんがちっちゃい頃を知ってるだろうしこの状況をなんとか出来るかもしれない!
そして私は朱音さんに電話をかけ始めた。お願い…………出て…………!
『もしも〜し、どうしたの結衣ちゃん?』
「朱音さん助けて下さい!!!」
『ちょっとどうしたの? そんなに慌てて………』
「ウチ来れますか!?」
『ちょっマジで落ち着きなって。深呼吸、深呼吸』
「落ち着けないですよ!!!」
『あ〜わかったわかった、わかんないけど今から急いでそっち向かうね。結衣ちゃんがそこまでなるって事はよっぽどなんでしょ?』
「はい! 急いでください!」
『りょーかい、じゃ切るね』
よかった、とりあえずこれで大丈夫だろう。あとは朱音さんがくるまでどうやって耐えるかを考えないと。
小さな女の子もとい葵ちゃんはお母さんを求めて泣き叫んでいた。そして葵ちゃんは今、私の事をお母さんだと認識している。だとしたら葵ちゃんのお世話を私はしないといけないって事?
「ままぁ?」
「ーー! ど、どうしたのかな、葵ちゃん?」
「だぁ〜♪」
か…………可愛い♡
なんか………もうずっとこのままで良いんじゃない?
「葵ちゃん!」
「だぁ!」
葵ちゃんはママを見つけられたのが嬉しいのか私に頬擦りをしてくる。小さい頃もこういう風に本当のお母さんに甘えてたのかな。
「葵ちゃん、ママだよ、わかる〜?」
「あいっ!」
「ママは葵ちゃんが好きだよ〜」
あっそういえば葵ちゃんのお洋服が無い、さっき朱音さんに頼んで持ってきて貰えば良かった。けど、いきなり「ちっちゃい子が着るような服持ってきて下さい!」なんて言ったらどんな誤解が生まれるかわからないからなぁ。
〈グゥ〜〉
あれっ?今の音は私じゃない。ってことは…………
「葵ちゃん、お腹すいたの〜?」
「あいっ!」
葵ちゃんにそう聞くと葵ちゃんはコクンと頷いた。
「じゃあご飯にしよっか!」
「あいっ!」
ということで朝ごはんを食べることになった。
今日の朝ごはんは………お姉ちゃんはいないからそんなに難しいのは出来ないからトーストとかにしよっかな。トーストくらいだったら出来るもんね。
「葵ちゃん、一緒に行こっか」
「あ〜♪」
葵ちゃんと手を繋いでリビングに向かう。
あぁ、幸せ。お姉ちゃんともこういう風に生活が出来たらなぁ、どれだけ幸せだろうか。
「じゃあちょっとだけ待っててね。すぐ戻ってくるからね!」
「あい!」
良い子だぁ。ちゃんとお母さんの言うことを聞いてくれる。
葵ちゃんのために早く作ってあげないと!!
〜〜結衣お料理中〜〜
ふぅ、出来た。ちょっと焦げちゃったけど焦げた方は私が食べればいいし、もう一個はちゃんと出来たしね。トーストをお皿に乗せてジャムとバター、牛乳を持って葵ちゃんの待ってるテーブルに向かう。
「葵ちゃ〜ん出来たよ〜…………葵ちゃん?」
「すぅ……すぅ……」
寝ちゃった? テーブルに向かうと葵ちゃんはテーブルから降りてソファーで横になっていた。さっきまであんなに元気だったのに、やっぱりちっちゃい子は体力が少ないんだね。
「…………」
このトーストどうしよう。葵ちゃんが起きるのを待ってたら冷めちゃうし、かと言って起こしたらそれはそれで大変なことになりそうで出来ない。う〜ん、どうしよう?
〈ピンポーン〉
朱音さんかな?そうだ、朱音さんに食べて貰えばいいんだ!それがいいや。
「はーい!」
そして玄関を開けて朱音さんを部屋に招き入れた。
「おはよう結衣ちゃん」
「おはようございます、朱音さん!」
朱音さんは急なお願いをしても急いで来てくれた。けど、よっぽど急いでたのか服が裏表反対になってる………。ちょっと申し訳ない……
「あれ?葵の姿が見えないけど………どうしたの?」
「…………それが〜見てもらえれば………わかると思います………」
「ーー? まあいっか」
そして…………リビングに入った朱音さんはそれを目にして………
「どういう事ぉ!!?」
驚愕していた。
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