#102 若返り薬
ある日の金曜日の平日、いつも通り仕事をしていると家に宅急便が届いた。宅配のお兄さんから小さな箱を受け取ると差出人は夢未ちゃんからで、私に向けての荷物だった。今まで夢未ちゃんからこんな物もらった事が無いから正直驚いてる。
「まあ、取り敢えず開けてみるか」
そう思い小さな段ボールを開けるとその中には小さな薬のような物が沢山入った小さな瓶と一枚の手紙が入っていた。手紙は夢未ちゃんからの手紙か、もしくは取扱説明書のどっちかかな?とりあえず読んでみるか。
◆ ◆ ◆
『葵お姉ちゃんへ』
急に荷物が届いてびっくりしたよね? ごめんね、急に送ったりして。
で、本題に入るんだけどその瓶の中に入ってるのは【若返り薬】なの。私が読んでる雑誌の懸賞で面白そうだったから試しに送ってみたら当選してこの前家に届いたんだけど、私たちは若返り薬なんていらないしどうしようかなって考えてたらお姉ちゃんに「葵お姉ちゃんに送ってあげたら?」って言われて送ってみたよ。まぁ………凄く胡散臭いけど、遊び半分で使ってみて♪
◆ ◆ ◆
若返り薬…………現代の医学技術は遂にここまで進歩したのか。そうなると、そのうち不老不死の薬でも出来そう。ていうか、これも実質不老不死の薬じゃね? だって若返るって事は体の状態が若い時の頃に戻るって事でしょ、瓶を見る限りめっちゃあるし、不老不死までとはいかないけど………数十年はこのままの体を保てそうじゃん。そしたら、結衣と結婚とかになっても…………
ま、使わないけどね。こんな物で若さを保っても何の価値も無いし、努力して保った美ほど美しいものは無いからね。だから努力して美を保っている女優さんはあんなにも美しいんだよ。
「ただいまー!!」
「うわっ! びっくりした、おかえり」
すると玄関がいきなり開いて結衣が帰ってきた。そうか、もうそんな時間か。
「あれ、何それ?」
家に帰ってくるなり私の持っている瓶を見て興味を示す結衣。
やっぱり気になるよね。
「これね、若返り薬なんだって」
「………お姉ちゃん大丈夫? 熱があるんじゃない?」
「えっ? なんで?」
なんで若返り薬があるって言っただけで熱があるなんて言われなきゃいけないんだ。これでも私は健康優良児だったんだよ?
「お姉ちゃん、そんな物この世界には無いんだよ」
結衣は呆れながら言う。
「うぅ………確かにそうかもしれないけど………男としてのロマン、人類に夢なんだよ、若返り薬は!!」
「お姉ちゃん…………今は女の子でしょ」
「…………ハイ」
そうだけど、そうだけどさぁ!
「じゃあそこまで言うなら飲んでみたら良いんじゃない?」
「え………?」
「だって“夢”なんでしょ? それが叶いそうなんだから試さない手は無いでしょ!」
そう言うと結衣はニヤッと顔を笑わせた。
「けど……もし体に変な事とか起きたら………」
「お姉ちゃんの“夢”はそんな弱い気持ちで終わらせて良いの!!」
……………私の夢がこんな所で終わる?そんな訳ない! いいじゃない、その挑発に乗ってやるわよ!
「わかった、飲んでみる!」
どうせ、若返りもしないし体に害が出るわけでも無い。だったらやってやろうじゃない!
そして私は意を決して瓶の中から薬を一粒取り出してそれを口の中に放り込んで飲み込んだ。
***
【夢未視点】
そろそろ葵お姉ちゃんに送った若返り薬(笑)が届いた頃かな。最初見た時は絶対にありえないと思ったけど、葵お姉ちゃんが飲んでる姿を見ると面白そうだから送ってみたけどどんな反応が返ってくるか楽しみだなぁ。『薬飲んだけど若返んないだけど!』かな? それとも『本当に若返っちゃったんだけど!?』とかかな、まあ後者は絶対にありえないけどね。
その時はそんな事を考えていた。
そういえば、取扱説明書を送ってなかったな。どうせ偽物なんだし読む必要もないと思ってたから読んで無かったけど、後でLIN●で送ってあげよ。その前に一回読んでみよっかな
◆ ◆ ◆
【若返り薬・取扱説明書】
・はじめに
我が社の一大発明品・若返り薬を購入していただきありがとうございます。我々商品開発メンバーは人類の永遠の夢である【不老不死】を目標に開発を進めてきました。そして昨年、長年の研究が実を結び、ついに不老不死の第一歩である【若返り薬】が完成しました。これは国の認可を受け特定のお客様にのみ販売されております。
・商品説明
本商品は【若返り薬】として販売をしていますがこれはあくまでも一日のみ体を物理的に若返らせます。どれくらい若返るのかはお客様によって異なりますのでその点はご了承ください。
・服用時の注意点
本商品を服用する場合は必ず若返りたい頃を考えながら服用して下さい。そうしなければ本商品の効果が出ない可能性や、予想外の作用が出る場合もあります。
◆ ◆ ◆
偽物のくせにやけにリアルな説明書だったなぁ、どうせなんの効果もないくせに。
ま、いいや。とりあえずこれの写真を送らないと。そう思って写真を撮ろうとした瞬間に
「夢未ー! ちょっとこっち来てー!」
「なにー?」
お母さんに呼ばれた、珍しいなぁ。いつもだったら私のことなんか呼ばないのに、呼ぶとしても要件を言うのに。もしかして、それすら言えないくらい急ぎの用なのかな?まぁ、行ってみればわかるか。
そして私は写真を送らずに部屋を出てしまった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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