#97 スキンシップが熱い
あれから一週間が経った。けど、特に結衣との関係に変わったところは無い…………と言いたいところだけど実際は違うんだよね。
「お姉ちゃーん! 宿題手伝って!」
「うわっ!?」
扉を開ける音と同時に結衣の声が聞こえると背中から〈ドン〉と衝撃が伝わってきた。
あれから結衣からのスキンシップが増えた………いや、激しくなったような気がする。これまではせいぜい寝る前とかにハグをしたりする程度だった。けどあれの後から結衣は執拗にくっついてきたり隙あらばキスをしようとしてくる。一体何が結衣をここまで変えたのか……
「結衣は頭が良いんだから一人で出来るでしょ〜」
「む〜! 出来なかったから言ってるのに〜」
そう言うと結衣はキーボードの前に算数のドリルを出してきた。今やってるのは………小数の計算か、私ら大人からしたら簡単に出来るものも小学生にとっては未知の物だから難しいのか。
「しょうがない、葵先生が教えてあげよ〜」
「お願いしますっ!」
◇ ◇ ◇
まずはどこまで結衣がこれを理解してるかを確かめないとな。本人がどこまで理解できていて、どこから理解できてないかを見極めないと一生そこが足を引っ張る事になるからな、これは俺の友達で実証済みだ。
高校の時俺の友達に毎回数学だけ赤点を取る奴がいた、驚いた事にそいつはそれ以外の四教科は八割取れていたにも関わらずだ。俺はそいつに頼まれて数学を教える事になった。
とりあえず俺はそいつがどこまで理解出来ているのかを確かめるために試しに中学の数学に戻ることにした。するとどうだ、そいつの数学は中学二年生で止まってたんだ。そりゃ高校の数学が解けるわけがない。まぁそいつは普通に頭の良い部類に入るからそこをちゃんと理解したらすぐに出来るようになったけどね。
こんな経験があるからしっかり理解する重要性は理解している。
「結衣はどこまでわかってるの?」
「えっと………」
〜〜お姉ちゃん説明中〜〜
「〜〜ていう事なの。ここまではわかった?」
「………う、うん? わかった?」
結衣がわからないと言った所を説明するも結衣の顔には〈?〉が浮かんだままだった。
「わかってないな、もう一回説明するね」
「うぅ……ごめんなさい」
「うん? どうして謝ってるの?」
なぜか結衣は『もう一回説明する』と言うと謝った。もしかして結衣は人に何回も説明してもらうのは良くないとでも思ってるのか?
「だって………何回もお姉ちゃんに説明してもらって、お姉ちゃんの時間を取っちゃうし………」
「お姉ちゃんとしては『理解』もないのに『理解』って言ってこれからの『理解』を蔑ろにされる方が嫌だね。だったら結衣が『理解』まで説明するよ」
「………お願いします!」
「よし、その意気だ」
〜〜少女理解中〜〜
「今度はどう?」
「う〜ん………わかった、かも……」
「じゃあ練習してみよっか」
「うん!」
そう言って結衣にドリルを渡す。結衣は鉛筆を握って問題を解き始める。
………やっぱり結衣は優秀だ、スラスラと問題を解き続けてる。これならもう私の役目は無いかな。
「お姉ちゃん出来た!」
「おっ早いね。じゃあ丸つけてみな」
「うん!…………やった! 全部丸だった!」
そう言うドリルには赤丸が並んでいた。
「よく出来ました。じゃあお姉ちゃんはお仕事に戻るからまた何かわかんない事があったら聞いてね」
俺はそう言って結衣の頭を撫でて席を立って自分の部屋に戻ろうとした。が、その足が動く事はなかった。
「あの〜結衣さん? 動けないんですが……」
席を立って離れようとする俺の足を結衣はがっつり掴んでいて動けないようにされていた。
いや、ほんとに離して!? カッコつけたいからあんな事言ったけど実際は締切が近くなっててヤバいんだけど!
「ふっふっふ……お姉ちゃん離してほしい?」
「早く離してほしい」
「じゃあキスしてくれたら良いよ♡」
めんどくせぇ、ほんとこの一週間でこういうのがめっちゃ増えた。
「………じゃあこのまま引きずっていくね」
「えぇ!? お姉ちゃんに人の心は無いの!?」
「無い」
「即答!?」
俺だって結衣とこうやってのんびりしてたい! けど、俺は行かなきゃいけないんだよ!!
くそっ!もっと結衣と一緒にいたい、どうすれば…………そうだ、こうすれば良いんだ!
「結衣も道連れにしてあげる」
「ほぇ?って、わぁー!!!」
俺は足にしがみついている結衣を抱き抱えてよろめきながら自分の部屋に戻っていく。なぜか身長が縮んだからこういう時に不便になったな。これじゃあ、いざという時に結衣を守れない。筋トレでもしようかな。
部屋についてパソコンの前の椅子に座って膝の上に結衣を座らせる。
「そんなに結衣がお姉ちゃんと一緒にいたいのなら………今日はトイレの時以外でお姉ちゃんのお膝の上から動くのは禁止ね!!」
「ふふっ望むところ! 結衣がお姉ちゃんは結衣がいないと生きていけないカラダにしてあげるんだから!」
そう言って一時間が経った。
結衣は膝の上で鼻ちょうちんを膨らませていた。そして今にでも膝からずり落ちそうになっている。まったく、さっきの宣言はどこに行ったのやら。
「結衣〜?」
「…………」
寝てる…………か? じゃあちょっとだけ………
俺は寝ている結衣の唇に一瞬だけ自分の唇を重ねた。これは毎日私がこっそり続けている秘密の事だ。さっき結衣が「自分がいないと生きていけない体にする」と言っていたけど実際はもう結衣なしの生活は考えられない程に結衣に依存している。この気持ちを伝える事はまだできないけど、その時が来たらしっかり伝えようと思う。
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