終節 サマー・HSS・マタステイシス
歌川視点
「本当にごめんなさい。あと少しで──」
「ごめんなさい。すぐ終わらせます。絶対に間に合わせます」
電話を切り、机の上に置かれたペンタブを眺める。ネームは済んで、清書するだけだが、その作業がめんどくさい。アシスタントに仕事振ったりとやることが山積みだ。
高校を卒業して、私は漫画の専門学校に入学した。専門学校を卒業した後に、死に物狂いで新人賞に投稿しまくり、月刊誌の連載を勝ち取った。
輝かしいデビューだと、思いきや締め切りに追われて(遊びすぎた自分が悪い)漫画を書くのが嫌になりそうになる。
机の上に置かれた鶴の折り紙が視界に写る。
クレアくんはもう14歳か、とイムル村のことを振り返ってしまう。
また戻りたい、締め切りから逃げてセシルに甘えて過ごしたい。
スマホが振動した。
編集からのラインだと思い、警戒して通知を見るとアミからだった。
『今日飯行こうぜ』
『行く!』
『原稿終わらせます!』
アミは、東京の看護大学に進学して来年の春には保育士の先生になれるみたいだ。友人としてとても誇らしい。
『いいね』
『絶対原稿終わってないでしょ』
と、如月から返信が来た。
如月は既に保育士として働き始めていた。
『仕事終わったら、行くね』
『速攻終わらせます』
『飲もう卍』
スマホをベッドに放り投げて、原稿と向き合う。
今私は自分がやってきたことを振り返って、できる限りのことをやっている。
世界は変えられないし、人を生き返らせることもできない。
でも、誰かのために漫画を書くことができる。たった一瞬、表紙を見るだけでも月刊誌を読むだけでもいい。本心としては、単行本を買って読んで欲しいけど。
見て、読んでくれている間誰かの人生を変えられるかもしれない。
そんな仕事をしている。
17歳から21歳になったけど、できないことはまだたくさんある。できることを一つずつやっていこう。
ペンを握り、画面に書き出す。
タイトルは「サマー・HSS・マタステイシス」




