第23節 帰宅
目の前に誰も映らない。呼びかけても誰も返事をしてくれない。
瞬きをした次の瞬間には、青空が見えた。曇一つない。晴天だ。
水が割れる音を出して、視界が青空から水の中に変わった。息が苦しい。
上へ上へと、水面から顔を出して息を吸う。横から顔が出てきた。
「みんな一緒だね」
アミと如月は頷いた。
川底には足がついて一安心し、水面を見て荷物を持って川から出る。
服が水を吸い込んで重たい。服を絞ると大量の水が出てきた。
「これ財布とかスマホ大丈夫かな」
如月が心配そうに水浸しになった鞄を見つめる。
「王国から防水の袋もらったから大丈夫だべ。なんかトカゲの皮みたいでゴッツいし」
アミの言う通り、鱗の袋の中に入れていたスマホやら財布やら貴重品は濡れていなかった。でも、教科書は濡れている。また買い直せば済む話だ。
犬が吠える声が聞こえ、その方向を見ると20代半ばくらいのお姉さんが、私達を死人でも見るみたいな顔つきでこっちを見ていた。
服装はベージュのTシャツに、黒のスキニー。紛れもなく地球の服装だと認識できた。証拠に、地面は真っ黒で粒々とアスファルトが展開されている。
「川で遊んでて、濡れちゃったんですよねー」
不審者扱いされないとは思うけど、こちらの状況説明をしておく。
お姉さんは口をパクパクさせている。そして、指を震えさせて河原とアスファルトの境目にある花束をさした。
私達3人の写真立てと多くの花束、ぬいぐるみが置いてある。
「「「え」」」
死人扱いされていた私達は、その光景を見て啞然としていた。
しばらくの間異世界にいたとして、行方不明扱いだろうと高を括っていたら死亡扱いされているとは予想もしていなかった(楽観的に元の世界へ帰ったら、適宜対応すればいいとさえ思っていた)。
お姉さんに保護されて、私達は病院へ連れてかれて警察や学校の先生、色々な人に尋問みたいに今まで何していたか、体に異常はないか聞かれた。
私達が異世界にいた間、意外にも地球では一か月しか時間が経っていないようだった。夏休みの初日から私達は行方不明扱いにされた。川で遊んでいるところを見ていた人がいたらしく、溺水死したのではないかとつい最近になって決められたみたいだ。
「この一か月間のことは何も思い出せないです。川で遊んでいたらいつの間にか時間が経っていました」
と、3人で口裏合わせて説明した。
異世界に行っていました、なんて行ったら即刻精神病棟送りになっていしまう。
日本に帰ってきた日は全部質問攻めで、病室から出られなかった。次の日には、退院許可が出て家に帰る。
久しぶりの我が家、自分の部屋。懐かしいようで独特の匂いがして自分の家だとは思えなかった。友達の家に来た気分になってしまう。
普段着に着替えて、スマホを手に取る。
「元気にしているかな」
同じく異世界転移をした2人に連絡をする。
瀬尾くんもからは即刻返事がきた。
『元気?』
『元気!元気!』
『アミ達から連絡きたけど、
そっちもお疲れ様ちゃん』
『異世界転移しました何言ってないよね?』
『それがつい言っちゃって
精神科送りになった…』
『言うなって言ったでしょ!!』
『なにやっての!?』
『冗談笑笑』
『今度飯行こうぜー。
転移した仲だしさ』
『冗談きついって』
『私はいいけど、アミがなぁ…』
『瀬尾くんのこと嫌いだからなー』
『あ、言っちゃった』
『言っちゃった』
『じゃねぇよ!傷つく!』
『冗談だよw』
『話通しとくから、ご飯行こー』
瀬尾くんも無事帰れたようで一安心だ。
あと一人から返信が返ってこない。時間が違うからもう寝てしまったのかもしれない。
インターネットでアメリカの時間を調べてみると、こっちとは違って夜の7時だった。
そう考えると、昨日の深夜に転移して尋問をされて、疲れて寝ているのかもしれない。それか彼の性格上スマホをあまり見ないかもしれない。
返信が来ない間に、明日の学校の準備をパパっと済ませてベッドに横になる。
制服や教科書は学校が、準備してくれるとのことでとても助かる。教科書は濡れたし、服はボロボロになってイムル村に捨ててきた。
──学校行くのめんどくさいな。
そうは思ったけれど、セシルや子ども達が楽しそうに授業を受けている姿を思い出して、この考えは良くないと頭を振って取り消す。
ブッブッ──。
スマホが机の上で振動した。画面を見てみると、ジェームスから返信が返ってきていた。
『寝ていた』
ご丁寧に日本語で返信を書いてくれた。
なるべく翻訳して、変な文法にならないように淡泊に連絡を取る。
『大丈夫だよ』
『帰れたようで良かった』
『はい』
『他の奴らも元気か?』
『元気!元気!』
『ジェームスはしばらく大学休み?』
『私達は学校ある』
『元気か。良かった』
『夏休みが長いから、休み』
『可哀想に :( 』
『煽ってる??』
『違います』
『急に敬語なの腹立つw』
『高校生生活楽しめよ』




