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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
最終章 サマー・HSS・マタステイシス
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第22節 最終日



最終日だというのに、私達は寝不足で迎えた。


「眠い…」

「そうね」

 みんなで、欠伸して顔を洗い、広間に向かう。

 開けた瞬間美味しそうな匂いが鼻を通る。

「いい匂い」

 机の上には、サラダやらパンやら豪勢に料理が並んでいた。

「おはよう! 今日で最後だから朝ごはんは豪華にしようと思ってね」

 クロノさんが言うと、これは自分が作った、と子ども達が大きな声で言う。

「ありがとうございます!」


 席について、みんなで食事をとる。どれもこれも美味しい。

 最後だからか、みんな私達に話しかけてくる。悲しい雰囲気を出さないように気を遣っているのか。

 そんなこと気にしている場合ではないと、頭を振り会話に参加する。


「戦争どうやって止めたの!?」

「そりゃ、私が喝入れたら戦場の全員がビビッてやめたんだよ」

「噓つくなよ! うちが全員ボッコボコにしたからやめたんだ。戦場の悪魔って異名つけられたもんだ」

「2人とも噓ついてるから。アンダルシア王国の王女様のおかげね」


 ことの経緯を如月が説明すると、子ども達は目をキラキラさせていた。王女様凄い、そんな力使えたら、という王女様バンザイ状態になった。

 これは、3人で話し合った結果だ。転移者がやったとしてまた次の転移者が来た時に、負担になると考えた。だから、次にこの国を支えるであろう王女様を持ち上げる。これがせめてもの償いでしかなかった。


「みんなに渡したいものがあるんだけど、いいかな」

 異世界転移組3人は、席を立ちみんなが見える位置に立つ。

「この家の皆様には、大変お世話になりました!」、とアミ。

「学校の件だったり多くのことでご迷惑をおかけしましたが、この家で過ごせて楽しかったです!」、と如月。

「なので、私達から受け取ってください!」

 最後に私が言う。


 それぞれが渡すべきものを渡していく。

 みんな不思議そうな反応をする。

 やっぱりここでは、ない文化だったようで安心する。

「ミサンガという日本で糸を編んで作る腕輪で」さっそく全員が腕に結び付けようとしている。

「まだ話しは終わっていません!」

 みんな手を止める。

「腕につけるとき、願い事を心の中で言ってつけてね」

 そう言うと、口に出しながら言う子。結んでもらう子、言われた通り無言で結ぶ人がいた。

「あと、これを村の皆様で食べてください」

 氷を入れたか袋から容器を取り出して、完成しているか確認する。揺らすと振動で、プルプルと揺れたのがわかり、完成しているようで安堵する。

「プリンっていう甘いお菓子で、別の容器に入っているカラメルっていう甘いソースかけて食べてください!」

「めっちゃ美味い!」


 言い終わった直後、小太りの可愛い男の子が既に飛びついて食べていた。カガミくんはいつも食事の話になると我先に食べていたな…

 みんな彼の発言につられて、私達からプリンを受け取り食べる。みんな美味しいと、言ってくれて嬉しかった。昨日急遽作ることになったから完成するか不安でしかなかった。

「美味しいか? うちが作ったからな!」

「地味にあたし達の中で一番手先器用なの腹立つ…」

 如月がアミのことを悔しそうに睨みつける。

 楽しく食べ終えて、私達は荷物を持って外に出る。


「もうこの家ともおさらばか」

 アミが悲しそうに言う。

「また来るよね?」

 ヨハネちゃんは、目を見開いて聞いてきた。私達は答えられず黙る。また来る可能性は低い。何せ何百年に一度の異世界転移。すぐに王国が魔力を溜められるわけがない。

「何か言ってよ!」

 ヨハネちゃんに裾を掴まれ泣かれる。彼女ももう2度と来れないことを悟っているに違いない。

「ヨハネ…」

 クレアくんがヨハネちゃんを引き取る。

「まぁ、離れていても心は繋がってるからな」

「うるさい!」


 如月がアミの腹を肘で突っつく。「だってよ…」、とどつかれた方は納得のいかない表情をしていた。

 アミはしゃがんで、ヨハネちゃんの頭を撫でて

「うちは、別れる時笑顔のヨハネが見たいな。最後めそめそしてたら、思い出す時もめそめそ顔になっちゃうじゃん? 笑顔見たいな」

「うん」

 無理やり笑顔を作ろうとしていて可愛らしかった。

「よし可愛いぞ」、とアミはヨハネちゃんの頭を撫でて微笑む。

「クレアくんも抱きついていいよ~」

 両手を広げて、クレアくんに微笑みかける。

 3人の中で私が一番仲いいからすぐに来てくれるに違いない。

「嫌だ」

「酷い…」


 クレアくんは走って私の胸元に飛びついてきた。

「行っちゃ嫌だ」

 彼の頭を優しく撫でる。胸元が濡れて、泣いているのがわかった。

クレアくんも寂しいのだろう。

「じゃあ、あたしもナミタくる?」、と如月は手を広げた。

「わたしは絶対にしない! さっさと帰れブス!」

「あっそ」

 如月は、何とも思っていないように私とクレアくんの方に来て彼を抱きしめて「元気でね」、とクレアくんに囁いた。

「如月もね」


 私とハグするのをやめて、クレアくんは如月とハグをした。

 みんな流れに乗じて、ハグしあう(クロノさんとは誰もハグせずに握手だけする)。

「ナミタしないの?」、と如月やみんなに催促されると、ナミタは歯ぎしりをして如月を軽く抱きしめてすぐに離れた。

「これでいいでしょ!」

「ダメだよ~」

「だよな。うちらともギューしようぜ」

 3人でナミタを取り囲み抱きしめる。

「邪魔! 暑い! 汗臭い!」

「そうは言っても身体は正直だぜ~、お嬢ちゃん」

 ナミタは押しのけようとしているけど、そこまで力が入っていない。

「うるさい!」

 私達の間からすり抜けて、セシルの後ろに隠れて

「セシルもまだ誰とも抱きついてない!」

「え、自分はいいですって」

「早くいけ!」

 ナミタがセシルの背中を押して、私達とセシルは向かい合う形になった。


「なんというか、小恥ずかしいですね」

「そう言わないの!」

 3人でセシルに抱きつく。

「セシルに会えて、良かった。会えなきゃたぶん私達死んでたね」

「うちも会えて良かったわ。色々あったけど楽しかったぜ」

「セシルと仲良くなれて嬉しい。元気でね、セシル」

 精一杯抱きつくと、セシルの口元から嗚咽が聞こえてきた。

「ごめんね、強く抱き過ぎたね。アミが思いっきりやるからー」

「違うだろ!」

「皆さんと離れたくないです」

 涙をいっぱい流して泣いていた。

 セシルが一番の甘えん坊で、可笑しくて笑えてくる。

「そっか…。私もセシルと離れたくない」

 強く抱きしめる。

「泣くなって、ヨハネに言ったばかりだろうがよ」

 アミも泣きながら抱きしめていた。

「あたしも」

 如月は鼻水を垂らしながら泣いている。


 しばらく泣き疲れるまで、私達は泣いた。

 泣き疲れて、顔を上げるとみんながそれぞれの泣き顔を見て笑う。

「別れを惜しむのは、いいがもう主役は全員揃っているぞ」

 ジェームスの声が聞こえ、顔を拭い返事をする。

「もうそんな時間なんだ」

「俺にも抱きついていいよ、皆さん!」、と瀬尾が軽々しく言う。もちろん誰も抱きつきにいかない。

「それでは、転移を行う」

 アンダルシア王がのろりのろりと杖をついて歩いてきた。

 王様の合図で、ファンタジーの魔法使い特有のローブをきた人達がずらずらと円形に並ぶ。


「エギル」

 王様が杖をついて、呼ぶと兵士群れの中からエギルちゃんが出てきた。

 円の中心に立ち、エギルちゃんは手をナイフで切る。流れた血が地面につくと魔法陣が浮かび上がった。

「準備は整いましたわ。皆様中に」

 エギルちゃんと入れ替わり、転移組5人が円の中に入る。

「忘れ物はないですね?」

 各自手荷物を確認して、頷く。

「ジェームス!」

 王様が杖をついた。

「別れを惜しんでくれるのか?生憎だが、俺はオッサンに言われると吐き気がするからやめてほしいね」

「銃を寄こせ」

「は?」

「銃を寄こさなければ、転移をわざと失敗させる」

「クソ野郎だな」

 ジェームスが腰に手を当てて、銃を取り出そうとする。


「ダメだよ」

 手を握って止める。

「そうしないと──」

「父上!そんな卑怯なマネは止してください!」、とエギルちゃんがいつにもなく大きな声で言った。

「アンダルシア家として、国王として恥ずかしくはないですか!」

「しかしな、銃が手に入れば──」

「ズルい、お父様なんて嫌い!」

 嫌いと言われたお父様は、ショックのあまり長い間身体を硬直させていた。

「わかった、そんなことはしない」、と悲しそうな顔をして言った。

──エギルちゃんあとでいっぱい甘やかせてあげてね。

 王様は咳払いをして

「それでは、転移を行う」

 息を呑む。

 ついに、元の世界に戻るのか。


「行かないでよ!」

 ナミタが叫んだ。涙を流している。こっちに来るのをクロノさんが抑えている。

「暴言吐かないから!  もっと素直になるから!」

 彼女がこれからどう変わろうと、私達は帰るしかできなかった。

 このまま村で過ごして、いつの間にか戻っているよりも正式な儀式を行ってみんなと別れを告げられた今ではないと、もっと残酷な別れになる。

「暴言吐かないようにして、ちゃんとみんなと話して絵描きなさい!」

 如月が大声で言う。


「いい? 約束だよ」

 ナミタは、涙を拭いて頷いた。

「もういいな」、と王様が聞いてきた。

 私達は頷いた。

「転移を開始!」、と声と同時に視界が真っ白になった。


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