第19節 轍3
勘定を済ませて、店を出る。
日が落ちていて、家に戻ると庭でみんながバーベキューの準備をしていた。手伝おうとすると、座っていろ、と宥められて言われた通り広間の椅子に座って広間から庭を眺める。
「暇ですね」
「エギルちゃん」
イムル村の複雑に花柄が並んだ服を着ていた。横に椅子を持ってきて座る。
「まさかエギルちゃん付いてくるなんて思わなかった」
「歌川さんと最後に話したかったので」
恥ずかしげもなく言い、彼女は笑った。
「嬉しいな。その… 耳は大丈夫?」
私達に能力を付与してくれた結果の悲劇。彼女は使うと判断したのは自分だと何度も言われさとされた。そうだとしても、心苦しい。
「慣れてきました、でもやっぱり不便ですね」
「私のせいでごめんね」
「歌川さん達が頑張ってくれたおかげで、今こうやって平穏に暮らし続けていられるのですよ」、と微笑んだ。
謝ったら何度も同じように言われる。
頑張った結果今の結果を掴めたとしても、たった一人の少女の犠牲で成り立っているのはハッピーエンドとは言えない。
私個人としては、誰かに責めてほしかった。
なんで責めないのか、とエギルちゃんに聞くと
「責めるべき相手は、いませんから。父上はこの国のため、あなた達も国のため、デロル様も求める国のために、部族の皆様も自分達の住む世界のために頑張ったのです。誰も責める必要などありません!」
聖人君主にも程がある。
「もう少しエギルちゃんは自己中になった方がいいよ」
「ジコチュー?」
「自己中心的ってことね。優しすぎるって。もっと自分が傷つけられた怒るべきだし、嫌なことは嫌だって──」
「いいえ」
言い切る前に、目を見て首を横に振った。
「わたくしは、一人の人間である前にアンダルシア王国第一王女なのです。世のため、国のために働くのが王女としての務めなのですから(さんてん)」
──また、自分の役割か。
この世界に来て、役割っていうのを腐るほど考えさせられた。如月は自分がここに来た理由を考えるみたいに、私は如月を助けるためにできること、役割を考えた。
結局は生まれてこの方17年の女子高校生。異世界転移したとして、チートや無双なんてできない。できないことだらけだった。
「歌川さん?」
不思議そうに私の顔を覗き込む。
「いやぁ、年下なのに良いこと言うなぁって思ってさ」
「褒めてくださりありがとうございます」
「歌川達もう来ていいよ」
クレアくんに言われ、庭に行くとテーブルの上に肉が皿にてんこ盛りで、焼き魚やポテトサラダ、様々な料理が展開されていた。
どれもこれも美味しそうだ。
クレアくんに手を引かれ進む。人混みが分かれ道を作っていく。村の人達から声をかけられる。褒めてくれる人、別れを惜しむ人の2つだ。
壇上に案内されると、如月とアミが立っていた。首に花で彩られたネックレスをかけている。壇上に上がると拍手が沸き上がった。
「これで主役は全員そろったな」、とクロノさんが壇上の隅で言う。
「別にここまで大々的なことしなくてもいいのに」
如月が恥ずかしそうに言う。それをクロノさんは首を横に振る。
「半年以上一緒に暮らしてきた仲じゃないか。そう水臭いこと言わない」
アミが如月の肩に手を置いて
「そうだぞ、せっかくめちゃくちゃ料理準備してくれたんだから食べないと」
「そこじゃないでしょ」
ヨハネちゃんを筆頭に、クロノさんのところに住んでいた子ども6人が壇上に上がる。それぞれが何かを持っていた。
「村からのお礼の品だ。花が中に入っているだろう?」小包の中を見ると、白色の花びらをいくつも纏った1輪の小さな花が入ってた。「イムル村付近に咲いているソミカワという花で、水につけると良い香りが出るんだ」
「へぇ、オシャレですね」
誰が考えたのか聞くと
「クレアが考えた」
クロノさんが見た方に、人混みの外から壇上を見上げるクレアくんがいた。
小さく手を振ると、振り返してきた。
「めちゃくちゃいい匂いだな」
アミが小包を何度も嗅ぐ。それにつられて嗅いでみるととてもいい香りだ。甘すぎるわけでもなく、植物らしい生々しい香りはなくていつまでも嗅げる。
クロノさん達からソミカワの花の小包を、村の皆さんから食事を頂き送別会を楽しく過ごしていると、多くの人が私達に話しかけてくる。
一通りお世話になった人と話せた。でも、クレアくんとまだ話せていない。
彼を探しに、人混みを離れていくと川辺から話し声が聞こえてくる。
「 してないの?」
「ダメだよ!」
「もういなくなるんだよ?」
一人の女の子がテンポよく返事している。会話相手の声が細々としか聞こえない。誰が何を話しているのか確かめるべく近づいてみると、クレアくんとヨハネちゃんがいた。
「2人ともなにやってるの?」
声をかけたら肩を大きく跳ね上げて、振り向いた。
クレアくんは立ち上がり、こっちに小走りで来て
「なんでここにいるの?」
「クレアくんとまだ話せてなかったな、と思いましてね」
「…ごめん」
クレアくんは申し訳なさそうに言った。
「大丈夫だよ、今ここで話せてるし」
ヨハネちゃんがクレアくんのわき腹を突っついて「渡さないの?」、と聞く。
「なになに~? ラブレターでも渡してくれるの?」
「違う」
真顔で否定されてしまった。
クレアくんはポケットから何かを取り出した。手を広げた中には、一羽の鶴が折られていた。
「最後だからあげる」
「ありがとう!」
鶴を受け取り大事に、両手で抱きしめる。
「その鶴、クレアが一生懸命折ったの」、とヨハネちゃん。
「そうなんだ」
クレアくんの頭を撫でる。恥ずかしそうにしている。
「あとね、ぎゅって念じてみて!」
言われた通り、両手で鶴を包み込む。
──念じる?
念じてみると、両手の隙間から柔らかな光が漏れだした。
「もしかして、これって──」
「トーテムだよ」
うわぁ、と困った声を出すと2人とも顔を強張らせた。
「トーテムは持って帰っちゃダメなんだよね…」
そうだったの、と2人は驚きの声をあげて、顔を地面に向けた。
「3人だけの秘密にしよっか」
口元に人差し指を当てると、2人とも真似をして人差し指を口元に当てて、静かに笑いあった。




