第16節 赤髪
如月視点
戦争を止めたあの日から3日経った。ミレットはまだ目を覚ましていない。今目の前でベッドに横たわり寝ている。
「髪赤いな」
彼女の赤色の毛先を持ち上げる。逃げるみたいに毛が手から解けた。
火事から逃げて、アンダルシア王国の王女エギルが歌川を森の近くで待っていて、迅速に怪我の処置を行えてミレットは一命を取り留めた。
部屋の戸が叩かれた。返事をするとドレスを着た歌川がいた。ミレットの様子を聞かれいつも通りと答える。
「如月3日間ミレットに付きっきりだけど、ちゃんと休んでる?メイドさんに看病お願いすればいいのに」
「何かしていないと気が滅入るからさ」
そっか、と歌川は納得してくれたようだ。
「この世界に居られるのもあと少しだね」
歌川は腕の痣をさすり言った。自分の痣を見ると黒さは薄れて絵の具を水で溶かして塗ったみたいだった。
アンダルシア王とエギルが言うには、あと四日もないだろうと言っていた。エギルの力を使い過ぎた結果、この世界にいられる魔力がなくなったらしい。
「見てみてー」、と歌川が吞気に言い出した。言われた通り歌川の方を見る。
「女スパイみたいじゃない?」
水色のドレスを着て、銃を持っているから女スパイみたいだった。顔がドヤ顔で腹が立つ。
彼女なりに気を使ってくれたのだろうけど。
「まだ銃持ってんの。返してきなよ」
「ジェームスが帰るギリギリまで持ってろって言うんだもん。そりゃ銃で遊ぶしかないよね」
──また発砲しないか心配だ。
昼ご飯のことを話して、歌川が部屋から出ようとした時に
「明日には、イムル村帰るからね」
「わかった」
物悲しそうに歌川は言って部屋から出ていった。
イムル村で最後は過ごしていたい気持ちがわかった。あたしも過ごしたいけど、いまねている共犯者と最後に話しておきたかった。
「君も明日にはイムル村行くといい」
ベッドの方を見るとミレットは目を伏せて眠っていた。
確かに彼女の声が聞こえた。
「あなたともう少し話していたかったな」
ミレットの手を握る。
「どうしてあたしを部族の長にしようとしたの?他にも転移者がいたのにさ」
歌川とアミから、ジェームスと瀬尾という2人の少年が同じく召喚されたことを聞いたし、実際に挨拶もしたが2人ともしっかりしていたから、選択肢はまだあっただろう。
ミレットは返事をしない。さっきのは空耳なのかと疑ってしまう。
「何か言ってよ、ねぇ」
少しでもいいから話したかった。今まであたしのために色々な策を練ってくれたし、親切にしてくれた。謝りたいし、感謝したい。
このまま別れるのは嫌だ。気持ちが相まって涙が出てくる。
「泣いているのか」
目を開けると、ミレットがしっかりと目を開けていた。
「起きているならちゃんと反応してよ」
「これからのことを考えていたんだ。少し一人で考えたくてね」
ミレットが自嘲するみたいに笑うのをやめて
「これから先部族と王国はどうなるか聞いたか?」
「うん。ヌイ族の長の瀬尾っていう子が取り持ってくれたらしいよ」
そうか、と納得というより安堵したみたいだった。
「何か王様にお願いしたいことがあったの?」
「ないな。ヌイ族なら王国と親和性があるから温厚に話しが進むだろうな。あとは両方が納得する──何笑っている」
ミレットがあたしをジトっと見る。
「だって、ミレットが王国のことも考えているのが変でさ。馬鹿にしているわけではないよ。ただ嬉しいの」
「折半案は嫌いなんだ。でも、これから先長いからな後の世代のためにも良い条約と関係を作らないとな」
「それが一人で考えた結果?」
「おかしいか?」
「ううん。おかしくない」
ミレットが王国を嫌っていたのに、少しでも良い関係を作ろうとしているのが嬉しい。彼女も変わった。
「今まで流れた血のことを償わせたい。君の世界で何かないか」
ミレットは悪巧みするみたいに笑みをする。
「忘れないためにも、銅像を建てたり話を繋いでいくしかないよ。償わせるというより自分達がしてきたことを理解させて、二度としないようにするしかない」
「そんなことで、被害者は癒されるのか」
「癒されないね」
答えが難しい。しばらく考えて沈黙しているとミレットが鼻で笑った
「あとのことは、こちらの世界で考えるとするよ。君達の世界では考えられない折半案を作り出すとするか」
「ミレットにそんなことできるのかな。こっちの国の文明を舐めないでほしいな」
互いに睨み合う。
なんだかおかしくて一緒に笑う。彼女と初めて笑いあったと思う。
ミレットが手を差し出してきた
「しばらく狸寝入りする。ここでお別れだ」
「じゃあね」
手を握る。彼女の掌は硬くてこの手で頑張ってきたのが伝わってきた。
部屋から出ようとした時にミレットに呼び止められた。
「君を選んだ理由を教えてあげよう」
立ち止まって話を聞く。
「髪が僕と同じ赤だったからだよ」
髪の毛を手で軽く持ち上げて、年相応の砕けた笑みをする。
あたしも見習って、赤髪の毛を持ち上げて見せる。
「そんなことで選ばないでよ」、と微笑みかけて部屋から出る。




