第15節 合流
「さようなら」
魔法陣から炎が放たれる。
炎は目の前で止まった。金色の薄い壁がある。触ってみると陽だまりみたいな暖かさだ。
「なんだこれ」
「転移者の力ですか」
──転移者の力?
それについて聞いてみると、奴は「教えるわけないですよね」、と氷柱を放ってきた。
金色の壁はただうちの前にあるだけたった。
守るだけじゃダメだ。何か使えないのか。
右足を金色の壁に擦り付ける。ただ痛みが増すだけだった。うちを守るために出てきたのなら、うちのために怪我を治してくれると思い、接触し続ける。
顎に力を入れて痛みを我慢する。軋む歯音の中に唸り声が混ざる。
──守るだけじゃダメなんた。力を寄越せ。
右足は壁をすり抜け、氷柱を弾いた。目の前で起きたことがわからなかった。なにせ、右足が金色に輝いている。怪我をした箇所を補うみたいに金色の膜が張られている。
「よっし! これでうちのものだ」
立ち上がって、地面を踏む。履きたての靴を確かめるみたいにつま先と踵を地面に叩く。その場で走り込む。何も問題なさそうだ。
デロルが炎を出してきた。
走って逃げる。
「え」
軽く地面を蹴っただけなのに、1秒で数十メートル移動していた。
「乗らせない」額から初めて汗が流れているところを見た。「これ以上調子に乗らせません」
「これは調子に乗っちゃうだろ」
デロルに向かって一直線に走る。手を伸ばせば当たる距離に入った。
うちの速さについていけず、デロルは一瞬困惑したように硬直した。その隙を見逃さずに右ストレートを顔面に入れる。面白いくらい転がりながら、吹っ飛んだ。
──力が上がってる?
奴は立ち上がると、こっちを強く睨みつけてきた。
「まさかうちに、また負けるとはなぁ」
人差し指を手前に、何度か押し倒して挑発する。
「ふざけるなよ。部族如きに何度も負けてたまるか」
いつか見た荒げた態度に変わっていた。敬語をやめるってことは相当あせっているに違いない。
「今回うちが勝ったら、部族と少しでもいいから話し合ってくれない?」
「は? 僕になんの利点があるんだ」
「うちが負けたら、転移者の力使って部族殺しと国家転覆手伝ってやるよ」
これは、絶対だ。うちが勝ったら手伝ってもらうために負けた時のリスクを背負ってやらないとこいつは絶対に乗らない。
「いいでしょう。使い倒したら死んでもらう。これでいいですね」
「いいぜ」
デロルが走ってきた。風魔法で移動しているのかとてつもない速さだった。ジャブで牽制すると、奴は雷を放ってきた。
「まじかよ」
咄嗟に手を前に出したら、さっきの金色の壁がでてきた。勝手に出てきたけど、かざした掌が熱い。理屈ではわからないけど、この力の使い方がわかってきたかもしれない。
「あぶねー助かった」
あの感覚を忘れないように、掌に壁を出すことを集中してかざす。目の前から飛んでくる氷柱を防ぐ──。ただそれだけを意識する。
すると、思った通り目の前に肩幅ほどの金色の盾が出てきた。
「これか!」
使いこなして、喜んでいるとデロルが更に焦った表情をした。
「いいのか、そんなゆっくりで」
「急いで倒してやるから、待っていてください」
防御方法はわかった。次は、攻めに使う。右足で飛び跳ねる。デロルの頭上からライダーキックさながらの蹴りを入れる。
目の前から炎が放射されるけど、お構いなく動作続ける。こっちには最強の盾があるのだかな!
足元に金色の壁を展開してそのままデロルに近づいた。飛び蹴りは当たらずに地面に着地する。デロルを探そうとしたら十字固めをされた。
「これであなたの負けですね」
「まだだわ、ボケ」
「では、能力ですぐに逃げてください」
「言われなくても!」
手を掴み強引にはがし、背後に裏拳をするが既に離れていて当たらなかった。追いかけて、蹴り殴りを仕掛けるが、当たらない。
腹部を殴られてうろたえる。反撃で奴の脛を蹴る。苦しそうな顔を目の前で見れて良かった、と思ったら、頭突きをされる。
やり返そうと、殴ろうとしたら目の前に掌がかざされていた。
──まずい!
目の前に金色の壁を出して炎を防ぐ。視界が炎と壁で何も見えない。足の甲に信じられないくらいの痛みが走った。視線を移すとかかと落としがされていた。
足の甲は意外と人間の弱点だ。うちもケンカで足の甲を踏んで攻撃するけど、されたことはなかった。
「痛いですか?」
「痛いに決まってるだろうが!」
裏拳を胸部に決める。鈍い音が聞こえあばら骨に確実にダメージが入ったことを確信する。デロルが胸を抑えてそろりそろりと下がる。
このチャンスを見逃さない。
殴りにいこうとしたら、体に疲労が現れた。背中や腕、足、全身が重い。筋肉の繊維一本一本に鉛が仕込まれたみたいだった。
「うちが勝った時のこと忘れんなよ、な!」
歯を食いしばって、デロルの顔面に一発叩き込む。奴は後ろに吹っ飛んだ。目を閉じて動く気配がない。
今の一発で決まって良かった、と安堵して地面に倒れ込む。
「…セシル」
匍匐前進で、倒れているセシルの元に近づく。助けを呼んで誰かを
「ここまでやってくれて、ありがとう」
頭上からうちが嫌いな奴の声が聞こえてきた。
「生きてたのかよ、お前猫じゃなくて狸だろ」
「失礼だな、今から助けてあげてもいいんだよ」
うちの髪を引っ張って、ご丁寧に顔を見て会話してくれる。
「デロルを倒してくれてありがとうね。これで心置きなく作戦を決行できる」
「させるわけねぇだろ」
口では、止めると言えても体がピクリとも動かない。この様子を見たミレットが小馬鹿に笑う。
「止められずに残念だったね。さようなら」
「ミレット!」
聞きなじみのある声がした。その方を見ると、如月とナミタが立っていた。クソ女は髪を掴むのをやめて
「如月なんでここに、戦争はもう始まっているんだろう? ここから離れて──」
「戦争を止めたいの」
ミレットはわざとらしくため息をついた。
「一体何があったんだい、君に。あれほどこの世界を変えたいと、自分も変わりたいと願っていたのに」
「この世界を変えたいし、自分も変わりたいと思っているよ。…まだこの世界を変える方法はたくさんある。だから王国と話しあって──」
「それができたら、こうはなっていないさ。何度も何年も前から話し合った。それでもダメだったら。どうすればいいんだい」
「話し合うしかない。だって、あなた達の世界では魔法があってちゃんと互いに会話する術があるじゃない。ちゃんと話して、互いの意見、趣味趣向を知ってからでも遅くないよ」
ミレットが一瞬ナミタを見た。「彼女がまさか影響してくるとはな、誤算だった」、と呟いた。
「わかった。でも、始まったものは止められはしない」
ナミタが声を荒らげる。
「は?あんたを頼りにこんな火の中にこのバカ連れてきたのに──」
「もう止めたよ」
また、聞きなじみのある声がした。
「なんでお前がここにいるんだよ、歌川…」
「なにその反応… 普通に傷つくんだけど」、と歌川が今にも泣き出しそうな顔で言った。




