第14節 自称救世主
アミ視点
【12:42 p,m】
「セシル援護頼むわ」
「わかりました」
デロルはゆっくり歩いてくる。何故かわからないけど、うちは自然と後退している。
雰囲気というか圧を感じる。
ドレスの端がちぎれ、そこから見える足は男らしい筋肉質だった。鈍い音を立てて走ってきた。殴打を腕で流して防ぐ。
1発1発が重いんだよ、こいつ。
逐一動きながら殴り合う。横目でセシルを見ると、魔法を使いずらそうにしている。
──うちを盾にして、連携崩してんな。
「どこを見ているんですか」
視線を戻すと、デロルの右フックが見事にヒットした。視界が揺れる。意識が一瞬遠のき、前を見ると髪を捕まれ膝蹴りがもう目の前だった。
「ッ」
次の攻撃を防ごうとした時、髪を引っ張られ投げられる。地面を転がる。
「めちゃくちゃ強いじゃねぇかよ」
起き上がり、前を見るとデロルとセシルが魔法で攻撃しあっているが、素人目から見てもセシルが押されている。
魔法も強くてケンカも強いって反則だろ。よく勝てたな、前までの自分。
助走をつけて飛び蹴りをする。背後からの奇襲は防がれる。
うちの体重が軽いってのもあるけど、全体重乗っているのによろけもしないのに驚いた。どんな体感しているんだよ。
「うちごとでいいから、魔法バンバン使え!」
「でも──」
「避けるから大丈夫だって!」
セシルの話を遮るくらい焦っているのが、内心発言した後に自覚した。躊躇していると、一方的にやられるだけだ。なら、連携とか考えずに2人で攻撃し続けるしかない。
「自滅行為に走りましたか」
これからボコボコにされる奴が、目の前で紅色に塗られた唇を薄く伸ばして笑っている。余裕たっぷりって感じか。
「自滅じゃねぇよ。これはお前を倒すための作戦だっての」
そうですか、とまだ笑って答えた。
背後から衝撃がきて、デロルと一緒に吹っ飛ぶ。
「痛いんだけど?」
「アミさんが自分ごとでいいからやれって言ったじゃないですか」
「う…。その調子でお願いします…」
結構痛かった。穴が空いたかと思った。
「まさか本当に仲間ごとやるとは思いませんでしたね」
それはうちも同感。アニメとかだったら決死の場面で、仲間ごとってのあるけど、こんなどうでもいい場面で、相打ちされたたまったもんじゃない。
「いつでもセシルが攻撃できるから気抜くんじゃねぇぞ」
デロルに2人で攻撃するけど、逃げられるだけだった。反撃すらしてこない。
「逃げるだけかよ」
「2人を相手にするのは大変なので」
噓つけ。うちらの体力を消耗させてから攻撃するつもりだろうが。
「なら、とっとと終わらせてやる」
「上段蹴り」
デロルの言った通り上段蹴りをしていた。足を掴み持ち上げられて地面に叩きつけられる。
予言か?
「あなたの動きは単調なんですよ。行動がもう読めました」
さっきまで受けに回っていたのは、うちの行動パターンを読むためだったのかよ。
「へぇ、それで勝ったつもりになってるんだ」
「はい!」
デロルは今までにない満面の笑みだった。
──腹立つ。こいつ本当に勝利を確信していやがる。
「やってみろや」
立ち上がると同時に蹴りを入れるが避けられる。
「当たらないですよ」
「牽制でやってるんだからな」
デロルがうちから離れた瞬間、突風が連続して憎たらしいドレス野郎を襲う。ダンスでもしているみたいに綺麗に避けられる。
「当たらなかったですか」
セシルは残念そうな顔をした。
「その調子でいいよ」
大きなため息が聞こえた。
「魔法がまだ完璧ではない子と武術は中途半端な部族。もう対戦していて退屈です。終わらせます」
前髪をかきあげて話を続ける。
「なぜ自分はあなたに負けたのでしょうか」
「今回も負かせてやるし、楽しませてやるよ」
「それは楽しみです」
デロルは手を空に掲げる。すると、巨大な炎球ができた。数十メートル離れているのに、熱で肌がヒリヒリする。
「プレゼントです。受け取ってください」
上投げで振りかぶると、炎球が近づいてきた。そこまで速くない。逃げれば助かるかもしれない。
走りだそうとした時、腕を引っ張られうちの前にセシルが立つ。
「これくらい任せてください」
セシルが両手をかざして、風を出す。炎は勢いが増した。火がそこらじゅうの木に燃え広がる。
「火と風じゃ相性が悪い。逃げよう!」
「アミさんが逃げ腰なんて珍しいですね」
「そんなことはどうでもいい、一旦立て直して──」
「アミさんみたいに堂々としていたかったです。自信をもって誰かのために笑わせたり、助けたりできる人に」
「そこまでうちは大した人間じゃないって」
セシルには、そう見えていたようで内心驚いた。自分勝手に今まで過ごしてきたから、ふざけるのも自分が退屈だったからだし、誰かを助けるのも腹が立っていたのと心配だったからだ。
「尊敬できる友達ですよ。自分もなれますかね」
「なれるよ」
肩を握り、セシルの体制を正す。
風の威力が強まり、炎球が形を崩していく。火が消えると期待した瞬間爆発した。
目を開けると、土が黒焦げて火がそこらじゅうに漂っている。耳が高い音を残していて音が聞こえずらい。
「セシル!」
いつの間にか遠くにセシルと離れていて、地面にセシルが横たわっていた。顔や腕、様々な箇所が火傷で荒れていた。
何度声をかけても反応がない。首元に手を当てると脈があった。生きていて良かった。
「仲間を犠牲にして生きていて良かったですね」
「お前が守るべき国民を殺そうとして何がしてぇんだよ」
「あなた達がいるせいで、こうなったんですよ。彼女はあなた達を助けるためにここまで来てこんな目にあったのです。それを私のせいにされても困ります」
「は? 意味わかんねぇよ。せめて、セシルの怪我治してからその理論叩け」
「治して欲しいですか?」
デロルは腰に携えたナイフを取り出して放り投げた。
「これで自分の首を切ってください」
「わかった」
地面に落ちたナイフを取り首に当てる。
「アミさん…」
この世界での親友に目を向ける。彼女はうちがしようとしていることに、気づいたのか、口を痙攣するみたいに広げて声を出している。
「自分のことはいいですから。デロルを助けてあげてください」
助ける?
「彼をここで殺したって何も変わりません。時間があればきっと──」
セシルは言葉途中に、目を閉じて喋るのをやめた。
ナイフを首に当てるのをやめて、後方に投げ捨てる。
「命の恩人にお願いされたら、従うしかねぇよな」
「つまり、彼女は助けないということですか?」
「ちげぇよ、お前とセシル両方助ける」
デロルは高らかに笑った。
「殺すの間違いではありませんか?」
「助けて、この世界を少しでも良くしてやるよ」
デロルに向かって走る。
「やってみてくださいよ。自称救世主」
対面から突風がきた。転がって避けると風の通り道には細かく刻まれた後が残っていた。
──無理やりでもいいから、近づくしかないな。
回り込むように走る。それに続いて炎やら氷が襲い掛かってくる。
「何か考えているようですが無駄ですよ」
「黙ってろや」
一直線に走る。通り道を塞ぐように炎が放射された。スライディングして炎と地面の隙間に入り込む。
ミレットが持ち上げてできたスペースに潜り込む。火がうちの上を流れている。熱で皮膚が痛い。火が止まったのを確認して、再び走る。
デロルの奴驚いているに違いない。
予想と反して奴は、驚いている様子もない。こいつ気づいてたのか?
「まさか生きているとは思っていませんでした。まぁ、先ほど思いがけない一手で痛い目にあったのである程度予想はできていましたが」
デロルは唇を薄く伸ばして
「これでおしまいですね」
「は?」
右足が潰れていた。土がうちの足を覆っている。見た直後に痛みがきた。大声をあげて地面を転がる。
「土の操作はそこまで得意ではなかったので、あなたが足を止める瞬間を待っていました」
操作がどうだとかうちをこの一手で、殺せなかったのを残念がっている。
「お前」
「さようなら」
魔法陣から炎が放たれる。




