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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
最終章 サマー・HSS・マタステイシス
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第13節 代償



歌川視点

【12:30 p.m】



 綺麗な石で彩られた天井がすぐに視界に映った。さっきまでの血生臭さと砂埃のザラザラとした空気がなくて、深呼吸をすると心地良い。


「起きた」

 クレアくんが椅子に座り私の顔を見て、安堵した表情を見せた。

「ここは… アンダルシア城?」

「そう。エギルと一緒に城まで運んでもらった」

「エギルちゃん大丈夫なの?」

 クレアくんは顔を俯かせて、答えに困っているようだった。どうしたのだろう。

「大丈夫と言えば大丈夫だけど。症状が悪化している」

「症状?」


 ノック──。

 返事をするし、開いたドアの方を見ると、エギルちゃんがメイドと一緒にいた。

「エギルちゃん! 大丈夫?」

 彼女は困ったように笑った。隣にいるメイドが耳元で何か囁くと

「元気よ。ただ少し耳が良くないの」

「え。それはどういうこと」

「魔力をあげた時に、詳しい仕組みとかわからないけれど耳が聞こえなくなったの」


──私のせいでエギルちゃんは不幸になっているってこと。

 それはあんまりだ。なんて声をかければいいかわからない。

「ごめんなさい。私達のせいで」

「いえ、そんなことはないわ。この結果戦争を一時的に止められたのだから」

「あの壁はどうなったの」


 黄金色のベール壁が気になった。あれは今もあるのだろうか。

「まだあるらしくて、戦争は滞っているわ」

 しばらくこれで戦争がないのなら話し合う時間が作れるだろうし。


 再び戦場を今回は遠くから観察したいと申し出るとエギルちゃんは承諾してくれて、部屋から出る。

 すると、鈍い音がどこかからか聞こえそこに向かう。

 王様と兵士達が何かを取り囲んでいる。侵入者だろうか、隙間から中を見るとジェームスが壁にもたれかかっていた。


「ジェームス!」

 兵士を押しのけて、彼に駆け寄る。顔には青あざが酷くできている。

 後ろから床を叩く音が聞こえ、振り向くとアンダルシア王が顔を真っ赤にして立っていた。

「貴様。よくも私の娘を連れだしたな」

 杖で叩いてきた。手で顔を守り横に倒れる。王様は鼻息を荒くしてまた殴ろうとしていた。

「お父様やめて!」、とエギルちゃんの叫び声が聞こえてきた。

「エギル」

「わたくしが連れ出してと頼んだの」

 エギルちゃんは私を庇う形で前に立った。

「そんな噓はやめろ。こいつのせいで、お前は…」


 アンダルシア王は手を目元に当てる。私のせいでエギルちゃんは様々な不幸に見舞われた。何も言えないでいると

「噓じゃありません。お願いされたのは確かですが、わたくしが全て判断したのですから」

「エギルちゃん」

 この子のためにも、私ができることをしないと。

「歌川、お前なんでここにいるんだよ」、とジェームス。

「それはこっちのセリフだよ」

「オウサマに聞きな」


 顎でさして、彼の顔を見る。嫌そうな顔をした。ジェームスに対してか私に対してか。

「お前ら転移者は本当に今回は失敗だな。先祖に顔向けできない」

 両方だったようだ。

 ジェームスが啖呵を切るみたいに笑って

「それはお生憎だったな。こっちとしてはまさか地球の文化を学んでこの程度だったとは思わなかった」

「貴様ァ。なら銃をよこせ」

 アンダルシア王はまた杖で殴ろうとしたけど、エギルちゃんのことを見て静かに杖を降ろした。

──やっぱり銃目当てだったのか。

「アンダルシア王、今部族との戦争が止まっているのは知っていますよね」

「ああ、どうやら貴様がやったようだな。よくやった」

「…ありがとうございます」上から目線だな。


 咳払いをして

「今こそ戦争をやめるべきです。互いに何もできないんですから、ここで話し合えば──」

「いや、敵が動いていないなら今のうちに動くべきだ。壁は水平線ではないのだろう、壁の外から襲えば一網打尽できる」

 こいつ戦争大好きかよ。日本だったらフェミニストに叩かれているだろうな。

「そこまでする必要があるんですか。あなたの大切な兵士が死ぬんですよ」

 彼も人だから、少しの間口を閉じた。思い悩んでいるのが見て取れた。

「少しでもいいです、戦争ではなく話し合ってください。話せば何かしらの糸口が見えると思うので、お願いします」


 頭を下げるしかできなかった。すぐに返答はなく沈黙で耳が痛い。

 ため息が聞こえた。


「少し考える。そいつを連れてここから出ていけ」

 王様はどこかに歩き出した。兵士が遅れて後ろについていく。

「今はこれくらいしかできないや」

 説得が通じて安心したのか、体に力が入らずこの場に座り込む。

「まぁ良かったな」

 目を物理的に腫らしてジェームスが微笑んだ。

「バケモンみたいな顔になってるよ」

「シャラップ。さっさとお前のお友達のところ行くぞ」

 背中を大きな音が鳴るくらい叩いてきた。非常に痛い。

「わかったよ」

 肩を組んで一緒に立ち上がる。

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