第9節 狼煙
階段を下がっていると、後方から赤色の煙があたし達を追い越した。
「え」
──赤煙は戦争開始の合図。なんで。
手に持ったトーテムを見ると目当てのトーテムと違った紋章だった。騙された。マルクのとこに急いで戻ると彼の手にトーテムが握られていた。
「馬鹿が! 油断したな」
トーテムを宙で取った時にすり替えられたのか。
高台から合図は間違いというのを知らせようとしたが、広場から大勢の人が走り抜けていて、声が聞こえている様子がなかった。拡声器のトーテムでも誰も聞いている様子はなかった。
「どうしよう」
不意に呟いていた。元々戦争をしようと考えていたけど、いざ始まるとなると心が落ち着かなかった。これから大勢の人間が死ぬとわかっていたけど、理解しきれていなかった。
肩をしっかり掴まれ向きを変えられる。
「アミ達にこのことを伝えて、止めるしかない」
ナミタがあたしの顔をしっかり見ながら言った。
「でも」
「あんたが長なら、手下だって聞いてくれる。本格的に始まる前に止めるしかない」
「わかったッ」
「相談が終わったようだけど、足止めさせてもらうぜ」
マルクが血を垂らしながら、言った。手に血が付いたハンマーがあるからか、恐怖が倍増した。
「走って逃げるわよ」
腕を引かれ走る。あたし達の後をマルクが殺人鬼のごとく追ってくる。頭を叩かれ過ぎてイカれたのか笑いながら走っている。
男と女体格の違いからか距離が縮まる一方だった。あたしの背を押してナミタが立ち止まった。
「足止めしとくから、先に行け!」
「そんなの嫌!」
言い合いをしていると、すぐ目の前にマルクが立っていた。彼ってここまで背が大きかったかと錯覚してしまう。
「2人一緒なら平気だな」、と歯を見せて笑ってハンマーを持ち上げた。
「ナミタ!」
彼女の手を引いて、下がらせる。ハンマーが振り下ろされたが同時にマルクが床に倒れ込んだ。階段の踊り場に血がたまっている。出血多量でぶっ倒れたのか。助かった…
マルクを背負う、やっぱり重い。
「そんな奴ほっといて行かないと」
「下に護衛の人がいるから手当てしてもらう」
「さっきまで襲われていたのに、なんで」
ナミタが彼の肩を片方持つ。
「自分のことをもっと好きになるためだよ」
「意味わかんない。キモ」
「ナミタは口使い直した方がいいよ…」
こんな悪口を言う彼女にまさかたった一言で、救われるなんて思ってもいなかった。
──わたしの世界を変えてくれてありがとう。
ナミタの言葉を思い出す。こんな自分でも誰かの世界を変えられて良かった。ここに来た意味があったんだ。
「ありがとう」
「は? なに?」
「なんでもないよー」
「なら言うな。ボケ」
「アミに似てきたね」
「あんなブスに似るなんて最悪」




