第8節 感謝
アミ視点
【10:40 a,m】
「殺すだって? 殺してみろや」
イムル村でもらった服を脱ぎ捨てる。相手は女だし見られても恥ずかしくない。逆に邪魔なくらいだ。
「言われなくてもやるよ」
ミレットと正面きって殴りあおうとした時に、爆発音がした。一旦互いに止まる。
「花火にしてはやりすぎだろ」
「ああ。土煙が酷い」
ミレットも爆発音がした方向を見て腕をギュッと寄せている。
「一旦やめてあっち行くか」
如月が心配だ、と付け足すと「そうするか」、とわかってくれた。こいつにも誰かを心配する心ってのがあるんだな、と感心する。
すると、すぐ近くで悲鳴と爆発音がどう聞こえてきた。土煙の中から一人の女の影。近づく度に見たことある髪、顔の形で
「久しぶりですね。江藤アミさん」
聞いたことのある声だった。
「なんで…てめぇが」
「部族が溢れかえっていると聞きましてね。殺し損ねた群れを追っていたらまさかあなたに会えるとは思ってもいませんでした。そして、コネ族の長、ミレット・フォーカスあなたにもね」
デロルはミレットを睨みつけた。モノホンの部族だから毛嫌いしているんだろうな。こいつからしたら、うちも部族扱いだけど。
「名前はよく聞いているよ。デカール? デミ? なんだったけ」
くそ女は相変わらずの挑発をしたが、デロルは気にした様子もなく笑って答えた。
「あなたはすぐに死にますので、教える価値も時間もないですね」
「くえん男だね」
「それじゃあ、ここでお二人とはお別れですね」
デロルの前に円形の魔法陣らしきものが出てきた。そこから氷が発射される。
走って、氷柱を避ける。こいつとまさかまた戦うはめになるなんてな。
「ミレット!」
うちと反対方向に避けたミレットに声をかける。逃げながら「どうした」、と聞いてきた。
「うちと協力して──」
「断る」
最後まで言いきる前に、言いやがった。
「あっそ! じゃあお前とデロルまとめてボコボコにしてやるからな」
「できるものならしてみろ」「できるものなら、してみてください」
ミレットとデロルがうちに襲ってきた。
──2人まとめてなんて無理!
如月視点
【同時刻】
マルクがハンマーを振り下ろされた。でも、思っている速度と違いゆっくり、そしてマルクも床に倒れ込んだ。
「え?」
床に倒れ込んだマルクを見つめて自分が生きていることに驚いた。
「大丈夫?」
マルクの足先に、木の棒を持ったナミタが立っていた。なんで彼女がここにいるか聞くと、あたしを連れ戻しに来た、と説明された。
「助けてくれてありがとう」
「そんなことよりも、さっさと村に戻るわよ」
「…それはできない」
「は? 意味わかんない」
ナミタは木の棒を手放してあたしの腕を掴んで引っ張った。それを抵抗するとまた「は?」、と小さな声で言った。
「まさか戦争を続ける気なの? 馬鹿じゃん」
「うん。ナミタは部族が嫌いかもしれないけど、あたしは部族のためにどうにかしてあげたい」
あたしの手を離した。
「一応訂正しておくとね」ナミタは咳払いして話続けた。「部族が嫌いではなくて、わたしの親を殺した部族の奴が嫌いなだけ。歌川のバカに腐るほど言われたから頭では納得しているわ」
「そうなんだ」
彼女の回答に驚いた。あたし達に対してあそこまで毛嫌いしていたナミタがちゃんと何が悪いか理解しているとは思ってもいなかった。
「で、部族のために行動するのはいいと思う。思っていたより部族は普通で良い人がいるから。わたし達となんら変わりないのよね」
虫を食べるのはどうかと思う、とナミタは付け足した。
「部族と会ったの?」
「ここに来る時に色々助けてもらったの。結構仲良くなったわ」
ナミタは頬をかきながら言った。
まさかあのナミタが、部族と仲良くなるなんて。あたしがいない間に成長している…。
「戦争をやめてよ」
目をしっかりと見て言われた。
立ち上がって、彼女の目を見返す。綺麗な緑色の目だった。自信に満ち溢れている。
「やめない」
「はぁ? ほんとブスね」
小首を傾げ片方の眉を下げて言われた。綺麗な顔立ちがヤクザのような顔立ちに変わった。
「ブスって失礼だなぁ」
笑って答える。失礼も承知よ、とナミタは言い返して質問をした。
「あんたが先頭きって戦争しなくてもいいじゃない。…この世界にいられるのも残り僅かなんだから、責任もって授業しなさいよ」
「学校の件は、放棄して面目ありません…」
ナミタに平謝りする。
「それは別にいいわ。さっきも言ったけど戦争はしない方がいい。絶対に間違っている。この世界に責任を持つならもっといい方法を考えてよ」
「考えた、たくさん考えた。でもこれしかなかったの。今すぐにこの問題を解決するには互いに争わせてどちらかの意見を通すしかないの!」
何故か怒鳴っていた。アミからもさっき説得されて苛立っていたのかもしれない。
「あっそ。やめる気がないなら別にいい。バカ2人が説得してくれるでしょ」
あたしが知っているナミタみたいに冷たくあしらわれた。
歌川はまだだけど、アミには説得されてそれを拒んだことを伝えられなかった。伝えたところで、ナミタは素っ気なく答えるのが目に見えていた。
「あんたが意外と余裕がなくて驚いた」
淡々と彼女は言った。余裕があるように見えていたのがこちらからすると、驚いた。あたしは自分のことでいつも精一杯だったから。
「どうしたの急に」
「あんたが急に大声出すの初めて見た」
ナミタは床に両手で体を支えるみたいに座った。
「いつもわたしに対して、しつこいくらいかまってきたし、暴言言っても気にしてない様子だったからさ」
「そんなことないって。冗談だと思ったし、ナミタなりのスキンシップだと思ってた」
「わたしは人のことを考えて行動するの苦手だし、素直になれないけどさ、自分なりに考えるようになって、言葉を伝えられるようになったの」
ナミタは青空を見上げるのをやめて、こっちを向いた。
「如月と会えて良かった。わたしの世界を変えてくれてありがとう」
何故か涙が流れていた。自分でもビックリして手で拭う。
ナミタの言葉が胸の奥で熱が広がるみたいに、響いた。こんなあたしでも、誰かを変えること感謝されることができたんだ。
「ちょっと何泣いてるの」
「泣いてない」
ナミタがかけよって、あたしの顔を覗く。彼女は笑っていた。馬鹿にしているみたいで腹がたったけど、怒る気力もなかった。
「ありがとう」
「なんで感謝してんの? キモ…」
「ナミタらしいね」
息を整えて彼女の顔を見る。
「アンダルシア王にかけあって、部族と仲良くしてもらうようにする」
ナミタは目を見開いて「それじゃあ、戦争はやめるの」と言った。
首を横に振って
「戦争を脅しにして、交渉する」
「うわぁ… 最低」
「最低だけど、やってみるだけやるよ。無理だったら本当に戦争するか、もっといい方法考えてくれる?」
「急に余裕あるわね。怖いんだけど」
「可愛くないな~」
ナミタの髪をくしゃくしゃにする。やめろ、と手を叩かれやめる。
「なんで戦争しようとか聞かなかったのは、なんで?」
聞くべきなの、と目を点にして言った。本当に人の心というか考えるのが苦手なんだな、と笑えた。
「聞かなくて正解だよ。今からミレットとアミのところ行ってこのこと伝えるね」
ナミタと一緒に高台の階段を降りる。
「そんことはさせない!」
マルクがナミタを羽交い締めにした。目覚めていたのか。
「ナミタを離して」
「離す代わりに戦争開始の合図をしろ」
首飾りで服の中にあるトーテムに手を当てる。これを使えばナミタが助かる。トーテムを取り出してマルクに見せつける。
「戦争の合図をすれば、ナミタは助けてくれるんだよね」
「ああ、絶対だ。俺らの目的は覚えているよな?」
「戦争に乗じて、部族殲滅と国家転覆でしょ」
マルクは厭らしく笑って。そうだと言った。
「それじゃあ、使うよ」
トーテムを手からするり、と落とす。マルクの目線が落ちていくトーテムに移ったのがわかった。ナミタと彼を押し倒す。
「騙したな!」
「騙してごめん。あと今からすることも許して」
ハンマーを手に取り、彼の足を叩く。悲鳴が聞こえ、あたしとナミタを押し飛ばした。
「痛ぇな」
「許してって言ったでしょ。あと落とし穴にはめたんだからイーブンだよね」
「許してやらねぇよ!」
互いの間に落ちたトーテムめがけて、マルクは飛び込んだ。ハンマーを彼の頭に投げるとトーテムの前で悶えながら、うずくまった。
ナミタがトーテムをとろうとした時に、風が吹いてトーテムが空に舞った。
「あー!」
ナミタがジャンプしてとろうとするが、届かない。
「どけ!」
ナミタを足場にしてマルクがトーテムを手に取った。
「そうはさせない!」
あたしもナミタを土台にしてトーテムに飛びつく。
「離せ!」
「いやだ」
トーテムを引っ張りあいながら、床に転がる。
「クソアマ!」
マルクの蹴りがお腹にはいった。激痛で息が一瞬できなくなったけどこらえて、トーテムを奪われないように手に力を入れる。
「いいから離しなさい!」
マルクが目を大きく見開いた後、眠るみたいに目を閉じた。トーテムをするりと手に取り立ち上がる。
「よくも人のこと踏んでくれたわね」
「それはごめんって… アミ達のところ行こうか」




