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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
最終章 サマー・HSS・マタステイシス
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第5節 再戦

「だから、来いよ? な?」

「江藤アミ。また君か」


 憎たらしい声が後ろから聞こえた。振り向くと、ミレットが立っている。こいつだけは、花火に気取られなかったか。

「花火は見なくていいのかよ」

「ここで見ようと思っていたのだけれど、僕たちの長にチャチャをいれる阿呆がいてね」

 うっさいバカだ。絶対しばいてやる。

「だからさ」

 ミレットがいつもみたいに、芯がない喋り方をやめて低い声で話す。

「いい加減に君には、舞台から降りてもらおうと思う」


「あ? テメェも監督の気取りやめてもらわねぇとな」

 互いに胸ぐらを掴み合って、睨む。力は同じくらいだと思っていた。いつの間にか、言われた通り舞台から放り投げられていた。

「は?」

 高台の手すりを掴んで。宙ぶらりんになりながらこらえる。下を見ると落ちたら死ぬ高さだ。あいつまじで人のこと殺そうとしていたのかよ。

「しぶといね」

 うちを見下ろして、ミレットが眉間に皺を寄せて言った。こいつ普段は飄々(ひょうひょう)としてたのに、本心ではうちのこと馬鹿みたいに嫌っていたんだな。うちも嫌いだけど。

「諦めないことがモットーなもんでね」

「それじゃあ、諦めてもらおうか」


 ミレットはうちの手を蹴り飛ばした。ここで死んでたまるかよ。ミレットの足を掴む。すると、ミレットは高台の手すりを突き抜けてうちと一緒に落っこちる。

「クソが!」

 空中で互いにもつれ合いながら、落っこちる。このクソアマを下にしてうちは生き残ってやっる!


 急にミレット共々体が横に揺れた。こいつも死にたくないのか、魔法の風でずらしたみたいだ。その結果、森まで吹っ飛び木の枝に何度も体や頬をひっかけながら落っこちた。

 身体中が痛い。でも、それどころじゃなかった。ミレットが襲いにきていた。こんなアマゾンみたいなところで暮らしているから体がゴリラなのかよ。

 起き上がって、ミレットと取っ組み合いになる。


「さっさとくたばれや、猫耳コスプレ女」

「この耳は本物だよ」

 その耳ちぎってやろうか、と言おうとしたら腹に衝撃がきた。蹴りが重たいんだよ。やり返すとミレットは苦しそうな顔をした。

「身体はゴリラだと思ったけど、猫耳ついてるし猫並みに弱いんだな」

 頭痛された。頭が割れそう。腕を引っ張られガードを固めようとしたが遅かった。顔面にパンチが当たり地面に横たわる。


「猫は身体能力も高いし、頭も良いんだ」

頭がクラクラする。立ち上がろうとしても、生まれたての子鹿みたいに足元がふらつく。やっぱこいつ殺そうとしてるだろ。

「黙ってろや。猫は猫らしく愛想振りまいてりゃいいんだよ」

「ひどいな、こんなにも僕は可愛いじゃないか」

 けっ、ぶりっ子属性もあるのかよ「鏡見てこいよ」

「君こそ見た方がいいよ。これからその綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるのだから」

「元はいいって褒めてくれてる??」

「僕より顔はそこまで良くないから、煽っているんだよ」


 ほんと可愛くない奴だ。腹立つ。

 地面に落ちている石を片手に走る。これをアイツの石頭にぶつけてかち割ってやる。

「なんか怖いものもっているな」

「てめぇをここで黙らせて、如月を連れて帰ってやる」

 石を持った手を乱雑に振ると、ミレットは警戒しているのか避けるだけだった。

「お前魔法は使わないのかよ」

「使ってもいいど、君をボコボコにしちゃうからなぁ」

 ニタニタと笑いながら言って気持ち悪い。


「使わずに負けても知らねぇぞ」

「この前タイマンで負けた奴がよく言うね」


 目の前から減らず口の女が消えた。視線を変えようとしたら、足を刈られた。地面に背中を強打して目を開けると、ミレットが石を片手に振り下ろそうとしていた。

 横に転がり避ける。逃げたと思い、相手を見つめると石が目の前に飛んできていた。顔をずらして回避行動をとったけど、右こめかみに激突した。

 めちゃくちゃ痛てぇ。人の顔ばっか前々から攻撃しやがって、人のご尊顔を彫刻だと思ってやがるな。


「お前顔ばっか狙うなや!」

「じゃあ、胸ならいいかな」

 ミレットの蹴りが宣言通り胸元に軌道が描かれていた。腕で防いだけど、力がうちと全然違う。勢いを殺せず、後ろに転倒する。

 マウントポジションをとられ、ミレットはうちの顔を見下ろしながら


「君とのお遊びもここで終わりにしよう。楽しかったよ」

 またあの時みたいに、顔面を拳で殴られ、肘で殴打されて抵抗できない。でも、前と違ってうちは正々堂々なんてもんは捨てた。

 石を手に取り、ミレットのこめかみに押し当てる。すると、横にぶっ飛んでいきやがった。さすがに、気絶してるか最悪死んでると思った。だけど、起き上がった!


「マジかよ」

「君こそ人のこと殺そうとしてるじゃないか」

「殺す気はねぇよ、人って案外丈夫だし」

 金属バットで殴られても生きてる奴はいる、と付け足す。

 頭から血をダラダラと垂れ流しながら「まぁいいや」と吐き捨てるように言った。

「やられたからには、やり返さないとね」


 地面を蹴って、大きな岩盤を飛ばしてきやがった! やっぱアイツゴリラだろ

 ゴリラとの混血だろ。

 岩盤を避けると空中を跳んでいるミレットが岩陰から現れた。綺麗な回し蹴りを頭を下げて避ける。完璧避けたきったと思ったら左踵が目の前に回ってきていた。

 両腕でガードする。


「よく防いだね」

「防ぐだげじゃねぇよ」

 足を掴み、地面に叩きつける。そのまま左脇に足を挟み、膝関節で掴んだ足を固定してフットロッカーをかける。ミレットが苦しそうな声をあげた。

「お前離せ!」

「てめぇが如月を解放しないなら、絶対に離さない!」

 更に関節を極めると、大きな声あげた。喧嘩でもブラジリアン柔術はかじった程度だけど、成功して良かった。このまま諦めてくれよ。

 右足に鋭い痛みがはしった。こいつ噛みやがった。


「お前噛むのやめないと、二度と歩けなくなるぞ」

 噛むのに必死なのか返事がない。なら。痛い目にあってもらうしかない。関節を極める。

「ッ──」

 ミレットの声にもならない声が聞こえる。それと同時に顎に力が入って足に激痛がする。

 更に関節を極めて、足を折ろうとしたら背中が焼けるほどの熱に襲われた。

「あッ──」

 熱さのあまり関節技を解いて転がり、背中の炎を消す。

 熱い。こいつ魔法使いやがったな。


「まさか君に魔法を使うはめになるとはね」口から血を吐き出した。

「使ったってことは、今から使いまくる感じか」

「お生憎、僕は魔力がそこまでないからもう使えないんだよ」

「そりゃ残念」使えなくてよかったぁ…

「使わないで、君をまた泣かせたかったよ」

 ミレットが走り出した。「泣いてねぇわ!」うちもそれに続いて走る。


 殴る。ガードする。殴り返す。殴られたら殴り返す。蹴る。それを何度も何度も続ける。ここまで喧嘩が長引くのはしんどい。こいつも魔法使って体力ないだろう。あと、関節技で足がほとんど使い物にならないはずなのに、鋭い蹴りを入れてきやがる。

「いい加減くたばれよ!」

「僕はくたばらない! この世界を変えるために」

 殴ろうとした時に、前に倒れる。何かに引っかかったり押されたわけではない。背中がさっきまで痛くなかったのに、激しい痛みにおそわれた。声を出すしかできない。

「さきにくたばるのは、君だったね」

「…くっそ」


──あと少しで勝てそうだったのに、ここで体が限界になったか。

 ミレットがうちの上に馬乗りになって殴る。

「なんで、如月なんだよ。利用するのはやめろ」

「利用しているのは、認める。転移者ってので利用している。彼女は世界を変える素質がある」

 また殴られる。さすがに、体力がないのか一発一発ゆっくり殴られる。

「素質ってなんだよ」

「自己犠牲の素質さ。彼女は自分のことに自信がなさすぎる。その自信を埋めるために誰かのために自分を犠牲に行動できるんだ。お前らとは、血筋も中身も違う」

「なんだよそれ、クソオブクソだな。テメェの力で変えろよ」

「黙れ!」


 ミレットが珍しく大きな声で叫んだ。

「貴様に何がわかる! 平和な世界で生まれ落ち、差別に対して厳格な世界で育ったくせに、差別されている側の言葉が通らない辛さはわかるのか?」

「わかんねぇよ!」

 ミレットを自分の上から降ろして、馬乗りになる。一発殴る。

「人のこと完璧に理解できないし、わかったつもりになるほど要領もよくねぇから、わかんねぇよ! でも、これだけはわかる、差別がいけないってのはな」

「わかるなら、なぜ賛同しない──」

「──テメェらも普通の人を差別してるだろうが」

 話を遮って話す。


「耳なしだの、けなしてるくせに自分達だけ特別扱いすんなよ。昔から互いにケンカしあっててどっちがやったってのわからないなら、今生きてるテメェらがそれを止めるよう動けよ。嫌いな奴ら、馬鹿な奴らとは関わらないように動けや」

 肩を揺らしながら、呼吸する。ミレットは黙っていた。

見た目で白い目で見られる辛さはわかる。うちも金髪ってだけで『ヤンキー』だの『不良』だの言われて、乱雑な対応をされた。確かに真面目に生きてきた人から見たら、不真面目でヤンキーに見られるかもしれない。でも、うちは犯罪なんてしてないし、仮病で学校を休むだけで、誰も傷つけてない。

 不良にケンカ売られて殴ったけど。


「確かにそうすべきだったのかもしれない。でも、人が死んでいるんだ。大切な恋人、友人が殺された。それで何もせずにいられるわけがない。君だったらどうする? 尾崎如月が、歌川優花が差別で殺されたら」

 うちは黙るしかできなかった。たぶんうちは怒りで殺しにいくかもしれない。

「君の気持ちはわかった。ここはどいてくれ」

 頭に強い衝撃がきた。視界が赤色に染まっていく。ミレットの左手には石が握られていた。

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