第2節 作戦
アミ視点
【同時刻】
犬耳をつけた女の人がうちの顔に治癒の魔法をかけてくれている。痛みが薄れていく。ミレットはまじでうちのことを殺す気で顔面を肘打ちしてきやがって、痕が残ったらどうすんだ。
「瀬尾。そこにいるか?」
横になってるから、いるであろう瀬尾に声をかけるとすぐに返事が返ってきた。うちを呆れたように見つめている。
「もうケンカすんなよ? ケガ治らなかったらせっかくの綺麗な顔がもったいないだろ」
「口説いてんのか? タイミングが悪いのは受け付けないんだわ」
元気そうで良かった、と軽く笑われた。
瀬尾の言う通り、ケンカするタイミングは考えた方がいいな。
「もうすぐで、部族の進行が始まるってよ」
「は? もうかよ」
身体を起こすと、背中に痛みが一気にはしった。さすがに、まだ痛みは全身は治ってないのか。
「急に起きんなよ」
瀬尾とうちの顔を治癒してくれていたおねぇさんが、うちを横にしてくれた。ババァじゃねぇんだから、そこまでしなくていいのによ。
「思っていたより集まりが良かったらしい、まだ集まってない部族がいるけどよ。それでも、何千人も集まってるな」
「まじかよ。たった数日で? 本当に戦争するのか」
「止めるためにも部族の行進にご一緒して、如月ちゃんを助けるぞ。これからチャンスは何度だってあんだからよ」
こいつたまには良いこと言うな。勇気づけられる。こっから頑張って如月を説得するしかねぇえな。
「そうだな。あと如月『ちゃん』はやめろ、気持ちわりぃ」
「これから仲良くなる予定だから許してちょんまげ」
まだ話したことすらないだろうが、何言ってんだよ。こいつ…。
「あと俺らがお前と如月ちゃんが喋る機会作ってやるよ」
「まじ?! でも、どうやってすんだよ」
「まぁあ、俺ちゃんに任せてよ」
瀬尾が親指と人差し指の間にアゴをのせて唇をクイっと右上に伸ばしている。そんな自信満々にされても、心配しかないんだわ。
歌川視点
【9:50 a.m】
エギルちゃんの馬車で移動した先は丁度兵士と部族両方が見渡せる丘だった。王国側の領土だからか兵士が双眼鏡で部族を見ている人が多々いる。私もエギルちゃんの護衛の兵士さんから双眼鏡を借りて部族の豆粒ほどに見える群れの中から、如月を見つけるのは難しかった。
「どこにも如月っぽい人いないな」
一応頭領みたいなポジションみたいだし、後ろの方にいるのかな。
「王女! なぜこんなところに」
兵士がエギルちゃんの周りに集まってきた。
クレアくんの耳元で
「あの子って王女だったの?」
「うん。第一王女だよ」
「へぇ」そんな気はしていたけど、本物だったとは思わなかった。
「また貴様か、歌川優花!」
鼻息をたててドスンドスン、と前に1人の兵士が来た。見た目からして30代で頬骨がつきでていて、印象的だった。
「王女をこんな危険な場所まで連れ出して。貴様は兵士の士気を下げるしなんなんだ! もうすぐでここは戦場に変わるのだぞ」
「下げるつもりはありませんよ。今もこの戦いを止めようとしていました!」
一本踏み出て、男を精一杯にらみつける。本音で言ったけど、私より二回りも三回りも大きな大人の人だし、腰には剣を携えてるから、めちゃくちゃ怖い。足が震えてるし、心臓バクバクだ。
「わたくしが、ここに来たいと言ったの。一人の王女として歴史の…」
エギルちゃんが私の横に立って、胸を張って言ってくれた。でも、後半は声が小さくどもっていた。
「臨界点」
第一王女様にだけ聞こえるように呟く。
「そう! リンカイテンを見届けようと考えたの。それで、彼らを護衛に連れてきました」
彼女の表情は唇を引きつって、さも平然とみせようとしているように思えた。噓をついてるのがわかりやすいな、と可愛らしい。王女の話を聞いた兵士はため息をついた。噓だとわかっているみたいだったけど、了承してくれた。
「ありがとうね」
「はい?」
エギルちゃんは小首を傾げた。まん丸の目がとても可愛い。
「私のことかばってくれたんでしょう」
「どういたしまして! でも、あれは半分本当ですよ。わたくし体が弱かったので、外に出れても城下町くらいでしたので、こんなに外が自然で溢れているとは知りませんでした!」
意気揚々に彼女は遠くに見える森、飛んでいる鳥の群れを見ながら言った。
「きっかけになれて、良かったよ」
こんなピュアな子の前で、戦争なんて起こさせないためにも私は、やるべきことをやろう。
兵士達が使っている馬車を、クレアくんと一緒に漁り例のブツを探す。
「あったよ」
クレアくんが木箱を引っ張りながら持ってきた。彼の腰くらいまであるから、相当たくさん入っているに違いない。
「ほんと? やっぱりあるよね」
中を確認すると、思った通りたくさんのトーテムが入っていった。クレアくんに目当てのトーテムを受け取ってポケットにどっさりいれて、2人で戦場が見下ろせる高台に立つ。
「お前ら何してる!」
兵士の誰かが言った。何をしてると聞かれたら答えてあげるが、世の情けというわけで教えてあげるとしましょう。
「戦争反対!」
戦争反対、と書かれた看板をクレアくんにも持たせて戦場にいる兵士達に聞こえるように、マイク用途のトーテムで聞こえるように叫ぶ。
「は? 何をしてる! 死にたいのか!」
「死にたくないから、今止めてるんでしょ! もしかしたら、あなた達が負けて部族がここまで来るかもしれない。なら、ここで止める」
「負けるわけがないだろ!」
腰に携えた剣を抜いて、兵士が近寄ってきた。クレアくんが兵士と私の間に立った。
「小僧どけ!」
「どかない」
クレアくんは私を守るために、行動している。というか、お願いをした。小さな手でトーテムを持って、兵士達に見せつけると兵士達は後ろに下がった。
「私は友達を救いたい。あなた達が知っている通り私の友達が今回の戦争の発端になった人物」
次のセリフを考えて、間を空けると兵士達の怒号が聞こえてくる。前々から思っていたけど、そんな怒られる理由がわからない。なんで自分達も死ぬかもしれないのに戦争に乗る気になっているのだろう。
「あなた達に守りたい人はいますか?」
私が静かに言うと、一瞬怒号が収まった。
「それと同様にあなたを守りたい人がいるの。それなのに、なんであなた達は死に急いでいるんですか」
「死に急いでるわけではない! 憎き部族を殲滅して今と未来を守るために、戦っているのだ!」
クレアくんを押しのけて、頬骨が突き出た男の人が私の胸ぐらを掴んできた。さっきの人だ。この人なりにこの国のことを考えて戦ってきたのだろう。
「じゃあ、人を殺したいんですか。人を殺してまで国を守るってことは、あなた達も人に殺されるんですよ。死体が積まれていけば今も未来もなくなるじゃないですか」
「人を殺したいわけではない」
息を吸って、吐くみたいに落ちついて言われた。子ども扱いされているみたいだった。
「もう言葉より力でやり合うしかないんだ。我々だって昔話し合った。でも、互いが納得いくものが見つからなかった。だから、力で自分の意見をぶつけるしかないのだ。大人の事情なんだ。わかってくれ」
「わかりません! もっと話し合ってくださいよ。相手のこと理解しようとしましたか? 人を殺したくないなら、それから逃れる方法を全力で探してから、次の解決法を見つけてください」
眉を寄せて私のことを見つめてきた。胸ぐらをグッと持ち上げて私を崖の端一気に追いやった。息が吸えない。苦しい。
「歌川!」
クレアくんが兵士にトーテムを向けた。
「ダメ」
何とか声を出す。轢かれたカエルみたいな声しかでない。
「お前転移者なのだろう。なら、どうにかしろ! 止めれるなら止めろ!」
「止めるって。誰も殺させないし、死なせない。だから私に友達を救わせて」
地面に体を叩きつけられた。兵士は闊歩して兵士達の元に戻りながら
「説得するなら、それなりの説得材料もってこい。感情論で訴えるな」
あれば、もってきてるって。
「ただ、少しだけ響いた」
トーテムを握って何か通信している。敬語だから業務連絡だろうか。だとしても、頭をペコペコと下げている。エギルちゃんのことを話している。
「僅かだが、戦いの合図を遅らせてもらった。その間に止めてみろ」
崖から兵士達を見降ろしてみると、兵士達はその場で待機していた。
「はい」
お礼は言わない。止めてみせてこいつらをぎゃふん、と言わせてやる。




