第15節 ペンダント
歌川視点
控え室で、椅子に座りながら床を何も考えずに眺めていた。考える気力すらわかなかった。
ドアが開く音がして、小さな足音が近づいた。その方向を見るとクレアくんが立っていた。
「大丈夫?」
「傷? 大丈夫だよ」
頭に巻かれた包帯を触って、微笑みかける。
「違う。疲れた顔してる」
「そんなに酷い顔?」
薄っすらと笑って、再び床を眺めた。
「私なにもできなかった」
「そんなことない、まだ戦ってないから止めれる」
また、薄ら笑いをしてしまった。
──自分より年下の子に慰められるなんて情けない。
如月やアミなら、上手く立ち回れたかなと思ってしまう。緊張はまだしも、誰も私の言うことに耳を向けてくれなかった。
私にもっと、説得力があれば。
太ももを握りこぶしで叩く。
「そんなに自分を責めないで」
「ごめんね。今ちょっとしんどいから、1人にしてほしいな」
「やだ」
クレアくんの顔を思わず見てしまった。彼は怒っているように見えた。普段から顔色を変えないからわかりにくいけど、私をにらみつけている。
「1人にしてほしいの。クレアくんに八つ当たりしそうだからさぁ」
自分の前髪掴み上げて、床に視線を戻す、
「僕も歌川に酷いことをした時、初めて会った時に1人でいるの邪魔された」
「いいから出てってよ!」
床を踏みつけて怒鳴り声をあげる。
それでも、クレアくんは出ていく気配がなかった。
「悔しさ、悲しさ、僕にもわかる。さっきまで僕も何もできなかったから。でも、次やらないとそのまま。だから、僕は歌川のために次は、助ける」
本当に情けない。自分より年下で、弟みたいな存在の子にここまで言われるなんて。
私はため息をついた。
「ごめんね。声を荒げちゃって」
「いい。歌川でもあんな大きな声出すんだね」
「私だって、人間だからね。怒るよ」
椅子から立ち上がって、クレアくんの頭に手を置いた。
「あと、今のかっこよかったよ。男って感じだった」
* * * * *
セシル視点
トガウさんの家に置いた荷物を、馬車に戻している時にナミタが木箱の中を覗いていた。
「どうしたんですか」
「いや、これ持ってきちゃったからさ」
ナミタが両手で綺麗に畳まれた布を持っていました。色合いとしては、白の生地に蝶々の羽や花が描かれていました。
「それは」
「学校の旗よ。あいつらに頼まれて作ったの」
「あれもう完成していたのですね」
「まぁ、ほぼほぼ完成してたけどあんなことがあったから」
ナミタの表情が暗くなりました。おそらく彼女なりに完成させたかったのがわかりました。
「アミさんと歌川さん、如月さん3人が合流した時に見せてあげましょう」
喜ぶかもしれません、と付けたしました。
ナミタは納得したのか、木箱に戻して
「そうね、わたしに依頼したんだからちゃんと見てほしい」
トガウさんが、ナミタの後ろからゆっくり近づいていました。彼女に話しかけようとしたら、人差し指を立てて口元に当てていました。
自分は、彼女の意図を察して何も声かけませんでした。
ナミタが振り返ったと同時に、彼女に昆虫を投げました。
「しまったし行こ。きゃあああああぁあ!」
昆虫はナミタの顔にくっついていました。彼女は走り回っていました。
「なにこれ!動いてる!気持ち悪い!」
頬についた昆虫はナミタが手で払われて、飛んでいきました。
「そんな驚くなよ」
「驚くに決まってるじゃない!」
トガウさんは、ナミタの頭に手を置いて「もう行くぞ」、と言いました。
「準備できたんですか?」
「ああ、特に準備するものもないしな」
「わかりました、すぐ終わるので少し待っててください」
荷物を荷台につめて、トガウさんの家から出発しました。
「匂いは、コネ族の方に続いてるな」
トーテムを持ってからか、トガウさんは頻繁に自分から話しかけます。彼女は案外おしゃべりさんなのかもしれませんね。
「じゃあ、コネ族がお父さんを」
「断言はできないな。まず、マントを被っていた時点で特定をしにくい」
「そうなんですか?」
「部族でほぼ統一しているんだ。耳なし、耳がない人間の村を襲う時に意趣返しされないようにな」
「それじゃあ特定できないじゃない」
ナミタが荷台から顔を出して、トガウの服を掴んで揺らします。トガウさんは笑いながらやめろといいます。2人は年齢が近いらしく姉妹のように仲良くしています。
「とりあえず、匂いの場所まで行こう。何かわかるかもしれない」
トガウさんは、馬車を停めました。
「なにかありましたか?」
「ああ、ここらで匂いが薄まっている」
自分たちは馬車から降りて、馬車周辺に何かないか探します。柔らかい土と生い茂った草のせいで探すのが難しいですを
「これはどうだ?」
トガウさんが土まみれになったら銀色のペンダントを、片手に持っていました。
「これはお父さんのです」
「これがあるってことは、周りに何かあるかもしれないよね」
ナミタのいうとおり、このペンダントはお父さんが首にぶら下げていたものです。なので、誰かが無作為に引っ張ったりお父さんが何かに大きく引っかかったりしないと取れないはずです。
「だとしても、この環境じゃなぁ。昨日雨が降ってなきゃもう少し頼りになるものがあったかもしれない」
「そうですね」
自分たちは沈黙しました。恐らく2人は自分のことを気遣って、言葉を選んでいるのかもしれません。
「コネ族に向かってみるか」
「そうね、何かわかるかもしれないしクロノが捕まっているかもしれないもの」
2人は明るく言ってくれました。とても心強いです。
「はい、行ってみましょう」




