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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
第3章  ハイジャック・サマー
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第12節 アンバラヤキイィンス


セシル視点



「まだなの?」

「アト少し」

 トガウさんの後を、ゆっくり馬車を進ませます。自分自身馬車の扱いはなれていないので山道だから不安です。


「まだなの!?」

 ナミタがまた大きな声を出しました。

 山道のため馬車が進むにも、大きな道をトガウさんが選んで、くれますが時間がかかります。

「もう少しの辛抱ですよ」

 雨で気分が最悪だからか、ナミタの機嫌がみるみるうちに悪くなっていきます。


「ついてくるんじゃなかった…」

「如月さん達が心配なんですね」

「そんなことないでしょ!クロノの方が心配よ!」

「優しいのですね」

「うっさい! セシルもあいつらみたいでキモイ!」

「乱暴な言葉遣いはやめてください。傷つく人もいるんですよ」


 自分自身、彼女が本心から言っているわけではないのはわかりますが、一度ナミタが村に来たばかりの時に、ヨハネに対して乱暴な言葉を言ってしまって泣かせたことがあったので、トガウさん、その家族に対して失礼な態度をするのではないかと危惧(きぐ)してます。


「わかったって…」

「あれだ」

 トガウさんが指さした先には、テントが張られていました。テントには、草木が人の手で載せられたみたいに、綺麗(きれい)に彩られていました。


「素敵な家ですね」

「ギサウ族は、シゼンと一緒にクラス。シゼンを家に乗っける」

「そういえば」、とナミタが周りを荷台から顔を出していいました。

「家は一軒しかないけど」

 彼女の言う通り、周りを見ても家らしい家がありません。


「サギウ族はバラバラでスゴス。たまに、他のイエと一緒にコウドウする」

「珍しいですね。部族は団体で行動すると聞いていたので」

「バラバラだけど、じゃない。この山にイッパイ仲間いる。山を家にしてる」

 トガウさんの家の横に馬車を置いて、荷物を家の中に入れていきます。遠くから見た時と違って、テントは見上げるほど大きく、中も人が6人入っても余裕がありそうでした。


「すみません。おじゃまします」

「    」

 老婆(トガウさんのおばあちゃん?)がにこやかにいいました。態度からして好感をもたれているのがわかりました。

 家の方はトガウさんと同様にウサギの耳が頭部についています。何かを料理しているお母さんと思わしき方も、干物を入念に見ているお父さんと思わしき方にもついていました。


 荷物を室内に粗方入れ終わり、呆然と立っていると

「    」

 おばあちゃんが手をこまねくいていました。

 自分とナミタは横に座りました。おばあちゃんは手をこんもり盛られた土の山に手を当てています。


「なにやってんの」

 ナミタが耳打ちしました。自分にもわからず首を横に振りました。

 トガウさんが横に座り、自分とナミタにトーテムを渡しました。触ると

「これは。暖土(だんど)。火のトーテムを土の中に入れてその上に土を盛って暖まものだ」

「あんたの族の言葉?」

 ナミタはトーテムを不思議そうに見ながら言いました。


「ああ。たまにアンダルシア王国の兵士が遭難するから、その時に渡してるやつだ」

「そういえば、ご挨拶がまだでしたね。マルクビヴィー・セシルと申します。もう1人がナミタと申します。急に押しかけてしまい申し訳ありません」

 家にいたトガウさんの家族に頭を下げました。自分に続いて、ナミタも頭を下げました。


「気にしないでぇ。それより濡れて寒いでしょ、トガウ着替え持ってきてあげな」

「そうだね。こっちで着替えよう」

 トガウさんの後をついて、家を出て、家を廻ると小さな小屋が2つありました。そのうちの1つに入り

「父がいるから、ここで着替えてくれ。オレのお下がりだけど」

 トガウさんは棚の中にある服を探しながら言いました。


 小屋の中には、壁一面に棚がありました。その中に服や敷物がたくさん入っています。

 服を受け取り着替え終えると、ナミタが

「似合ってるかな」

 と、聞いてきました。

「ええ、似合っていますよ」


 自分と同じで素材は絹というより動物の皮で縫われた素材で丈夫です。茶色の皮に、白色で字が書かれています。

「なんか獣臭い」

 ナミタが服をクンクンと嗅ぎながら言いました。

「まぁ、少しだけしますけど慣れますよ」

「熊の毛皮だからな、少し匂いが強いんだ」

 トガウさんが自分達が脱いだ服を両手に持って言いました。


「着替えありがとうございます。持ちますよ」

 服を半分受け取り、小屋を出ました。

「2つ小屋がありますけど、何か意味があるんですか?」

「さっきのが服が入っていて、もう1つが食材の貯蓄庫だ」

 服に匂いが移らないようにしていると、付け足した。

 家の中に入ると、暖土を囲うように食材が置かれています。

「ご飯にしましょ」、とトガウのお母さんが言いました。

 トガウさんの隣に、自分とナミタが座るとトガウさんのお父さんから食器を渡されました。


「ゲっ」

 ナミタが変な声を出して、自分の顔を見てきました。

「どうしたんですか?」

「ご飯見てみて…」

 食器の中に、虫が入っていました。

「これは、ちょっと」

「それじゃあ、いただきますか」

 トガウさんのお母さんが言うと、トガウさんの家族は手を合掌して食器に入った虫を食べました。


「ええぇ」

 ナミタと自分は虫を見つめるしかできませんでした。食べる気が出ません。

「そうか。君たち昆虫を食べる文化がないのか。食べれるから食べてみるといい」

 トガウさんのお父さんが言いました。彼は引き続き昆虫を食べました。

 自分とナミタは、顔を合わせて「どうする」、と目線で伝えあいました。


「食器の中の全部食べなくていいから、一匹だけ食べろ」

 トガウさんが言うと、ナミタが「なんで」、と聞きました。

「ギサウ族では、虫のおかげで動物や野菜が食べれていると考えている。それで、昆虫を食べて感謝とこれからも一緒に生きていくという表明だ」

「そうなんですね」


 乾燥した虫の目を見ながら自分は食べるか悩みました。トガウさんの話を聞いて食べるべきだと思い、口の中に入れました。

「セシル!?」

 ビックリした様子でナミタが自分の顔を見てきました。


 食感と風味は、豆に似ていました。ただ食感が硬すぎて嚙んでも嚙んでも飲みこむ気にはなりません…。


「何か言ってよ。まずいの? うまいの?」

 自分とナミタの様子を見て、トガウさんのお父さん達はにこやかに笑っていました。反感をかっていないようで良かったです。

 なんとか飲みこみ終えて

「豆に近いですね。ただ、噛むのが大変です」

 歯に昆虫の足が挟まって気分は最悪です…。


「ええ。食べる気失せるんだけ、うぉお?!」

 隣に座っていたトガウさんがナミタさんの口に昆虫を投げ入れました。

 ナミタは顔色をコロコロと変えながら、無言で咀嚼(そしゃく)して飲みこみ終えてから

「ちょっと入れないでよ!それにしても不味いなぁ。あ、失礼か」


 トガウさんは笑って話しました。

「オレ達も不味いと思ってるから、気にしなくていい。食べてくれればいいさ」

 ナミタと自分の分の昆虫が入った食器をさげて「無理やり食わせてすまんな」、と言いました。


「こっちは美味しいわよ」

 ナミタのお母さんは微笑みながら、野菜がたくさん入ったスープを渡してくれました。

「ありがとうございます」

 スープを食べると、あっさりとしていて美味しかった。冷えた体が温まる。


「そういえば、この服の文字ってなんですか?」

 袖や腹回りに似たような字が刺繡(ししゅう)されていたので、裾を指さして聞きました。

「『アンバラヤキイィンス』って書かれている。意味は自然に感謝しているという意味だ」

「へぇ、おしゃれね」

 ナミタが服の隅々まで見ながら言いました。


「そっちの村の文化はどうなんだ?」

「こっちは食事は至って普通です。文化と言われると難しいですね」

 こちらとしては、普段通り過ごしているわけですし村に寄る兵士の方々も、物珍しそうにはしていません。

「服が変なガラだったが、あれは意味あるのか?」

「あれは、特に意味はなかったと思います。村でよく『コカピパラス』、という熱の温度で色が変わる木の実がありまして、木の実を入れたお湯に服を入れて自然に色づけているだけです」


 それから、自分達は互いの村のこと住んでいる人について話し合いました。最初こそナミタは会話に入りませんでしたが、途中から進んで会話に入っていって、楽しそうに会話していました。


「お前らのこと知れて良かったよ」

 トガウさんが、ジャパの葉からこした、香りが上品なお茶を飲みながらいいました。

「自分もです。正直部族は全て良くないと勝手に決めつけていました」

 ナミタの方を見ると、うつむいていました。彼女自身もそれはわかっていても、部族への信用ができないのでしょう。


「別に部族の中にも、悪い人達もいる。オレらの族にもな。耳なし、お前らみたいな人間を下に見て、殺している奴がいるから、それはお前らが人のことを見分けていくかねぇよ」

「なんで、わたし達に親切にしたの? もしかしたら、人探ししているって噓ついて、騙しているかもしれないのに」


 ナミタは、膝に顔をうずめながら、言いました。

 トガウは、ナミタを一瞬ジッと見て、笑いだしました。

「噓だとしたら、上手すぎるな。お前らの様子から見て本当だと思ったんだ」


「でも、わたしあなたの耳を…」

「耳くらいどうでもいいさ。なくても生きてけてるしな」

 トガウさんのおばあちゃんは、微笑みかけました。トガウさんと同じく左耳がありませんでした。

 食器を片づけながら、トガウさんはこっちを見ました。

「よし、腹も満たした夕方だしもう寝て、早朝に出発しよう」

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