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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
第3章  ハイジャック・サマー
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第11節 エギル


クレア視点



 廊下に色々な鎧、絵が置いてある。床に引かれているマットもスベスベなのが、靴で歩いていても、感触でわかる。


 尾崎が大変なことをしたから、みんなが慌てて王様のところ行ったけど、みんな僕なんかより走るのが速くて置いてかれてしまった。

 兵士さんに頼んで、連れて行ってもらおうとしたけど、見当たらない。みんな忙しいのかな。


「ねぇ、そこのあなた」

 後ろから話しかけられた。振り向くと、絵本とぬいぐるみを持っている僕より小さな女の子が立っていた。しわがない服で、キラキラとしている。

「どうしたの?」

 女の子は、首を傾げた。肩まである栗毛が横に揺れた。


「歌川。友達探してる」

「歌川? 知らないわ。それより絵本を読んで欲しいの」

「え。でも」

 女の子は、僕の手を掴んで

「この城の中にいるのでしょう?なら、兵が見つけてくれるわ」

 僕が黙っていると、女の子は僕を引っ張って強引に部屋へと入れようとしていた。足に力を入れて踏ん張っていると、彼女はこっちを優しい眼差しで見た。


「大丈夫よ。それより本を読んで欲しいの」

「いいけど、僕そこまで難しい本は読めない」

「わたくしも、読めないわ」

「え。そうなの?」

 お姫様みたいな格好をしているのに、学がなくてビックリした。

「わたくし生まれつき言葉が苦手なの。特に読むのが」

「そうなんだ」


 女の子は、大きな椅子に座って横を叩いて

「ほら早く」

「わかった」

 横に座ると、本を僕に渡してきた。右手には、黒い手の跡がついていた。

「それって」

「これ最近ついたの。早く早く」

 女の子に急がされるように、本を開く。

「読めばいいの?」

「そうよ。お願いできるかしら、児童向けの絵本だから読めると思うのだけれど」

 女の子の言う通り、字は子ども向けで僕でも読めた。小さい時何度も読んだ絵本だから、内容もわかっていた。


「アンダルシア王国には、2人の偉人がいました。家づくりが得意なヴォルター。刀を作るのが得意なムラマサ。2人は年齢や種族は違いますが、仲良く互いに物を作っていました。

 彼らが王国のために働いていましたが、ある日部族が襲ってきました」

「どうなるの?」

 僕の服を引っ張って女の子は、本を見た。

「頭が邪魔で読めない」

「ごめんなさい…。次読んで」


 女の子は、顔をどけてくれた。

「ムラマサは、自分の刀で戦い。ヴォルターは、丈夫な家に入り身を守ります。ですが、ヴォルターが作った家は部族に焼かれてしまい、逃げるしかないです。ムラマサは、刀を作れても戦うことはできません。2人とも大変です!

 王様が危ない2人を見て、魔法を送りました。

 ムラマサは、王様から魔法で力をもらって部族を倒しました!

 ヴォルターは、魔法の結界で兵士と自分を守りました!

 王様と協力して、2人は部族を倒してまた家づくりと刀作りをして過ごしました。

 おしまい」


「読んでくれて、ありがとう!」

 本を閉じると、女の子は笑顔で拍手していた。

 本の内容からして、5歳くらいの子が読むものだと思った。でも、この子は5歳というには、体が大きい。


「君は何歳なの?」

「わたくしは、9歳よ。あなたは?」

「僕は10歳だよ」

「まあ! お兄さんなのね。わたくしエギル・フォン・アンダルシアね。よろしくお願いします」

「僕はカンガネル・クレア。よろしく」

 エギルの手を握る。


──やっぱり王女様だったんだ。

 アンダルシア王が生んだ一人娘がいるっていうのはお母さんとお父さん、クロノさん達大人から聞いていたけど、元気いっぱいで驚いた。一度も顔を出したことないって聞いていたから、てっきり病気だと思ってた。


「ねぇ、クレアはなんでここに来たの?」

「友達を助けに来たんだけど、今大変なことになった」

「何があったの」

 僕はエギルに全て話した。歌川のことも江藤のことも尾崎のことも、全部話した。


「そうだったのね。わたくしになにかできることがあれば」

 エギルは、辛そうに咳をした。

「大丈夫?」

「ええ。ちょっとだけ体が弱いの。久しぶりに同じくらいの子と話せて嬉しくなっちゃった」

 僕は、椅子から立ち上がってエギルを横にした。彼女の右腕の黒い手跡が気になった。


「ありがとう。優しいのね」

「そんなことない。その手の跡どうしたの?」

 指をさして聞くと、エギルは悲しそうに笑った。

「お父様がわたくしのお母様を生き返らせようとしててね」

「そんなことできるわけない。魔法は何でもできるわけじゃないって、クロノが言ってた」

「そうね」

 エギルは力なくうなずいた。


「でも、異世界の技術ならお父様はできると思っていたの」

「歌川達の世界の技術?」

「うん。でも、実際はあちらの世界にもそんな危ないことをしない、できなかったのよね」

「エギルのお母様ってどんな人なの?」

「わたくしを産んで死んでしまったらしいわ。肖像画しか見たことないけれど、とても綺麗なの」、と嬉しそうに笑った。


「ごめんね、嫌なこと聞いて」

「気にしなくていいわ」

 エギルは首を横に振って、話を続けた。

「お父様は転移者を呼ぼうとしたのけど、自分じゃ呼び出せなかったの」

「もしかして、()()()()()()()()?」

 彼女は静かにうなずいて

「わたくしは体が弱かったし、魔力も扱えなかったから完璧な転移じゃなかったらしいの。1人しかその場に来なかったの…。申し訳ないことしたわ」

──体力もない女の子に負担をかけてやるなんて、許せない。

「そんなことない。歌川達も僕のところ来た、僕の村に学校を作ってくれたんだ」


 エギルは泣いていた。

「嬉しいわ。そんなことを言ってもらえて。何もわたくしにはできないと思っていたのだから」

「僕も何もできない。君と違って歌川達を呼べたわけじゃない」

「そんなことないわ。わたくしが今現にあなたの発言が嬉しかったもの。自分を責めないで」

「君だって優しいよ」


 エギルは口元を隠して笑った。

「ふふ、わたくし達なんか似ているわね」

「そうかな」

「そうよ。何かお話をしてくれると嬉しいわ、明るい話を聞きたい」

「わかった。異世界で、日本っていう国があるんだ。そこにはね、折り紙があって」


 机の上に置いてあった、紙を折っておにぎりを作って、見せる。

「まぁ、紙でご飯を作ったのね」

「そう、他にも色々なの折れるよ」

 エギルが横になっている椅子の足元で座って、鶴や箱とか歌川から教わった折り紙を作った。

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