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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
第3章  ハイジャック・サマー
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第10節 ジャンヌダルク


歌川視点



「連れてきましたよ」

 ジェームスは、王室の扉を乱暴に開けた。

 王様は、私達をにらみつけた。


「小娘! お前の友達とやらはやってくれたな!」

「……」

 私は答えに戸惑った。私の友達の発言で、戦争に発展するかもしれないという恐怖からだ。もし、如月が死刑になったらと思うと更に口が開けなくなる。


「もしかしたら、洗脳されているかもしれませんよ」

 ジェームスが口を開く。

「そうかもしれんが、これは痛い一手を突かれたぞ」

 王様は、あごひげを触りながら言った。

「転移者ってのを利用して仲間集めと反乱は思ってもなかったですね」

「ああ。転移者が別々の場所に召喚されることはなかったからな。一番恐れていたことが起きたな」


「どういうこと?」

 ジェームスの耳元で(ささや)く。

「転移者ってのは、この世界では『世界を変える者』として語り継がれているんだ。そんな伝説みたいな人が王国潰すって言ったんだから、ぶちあがるだろ」

「なんで、如月があんなこと言ったんだろ…」

「さーな。テメェの友達と神様しか知らないだろ。それよりも」

 ジェームスが王様に顔を向けて

「別々の場所に飛ばされることは普通はなかったんだな?」


「そうだ。必ず召喚させた者の場所に召喚されるものだ。だが、今回は今までとは違った」

「今までと違うだけで、召喚場所が変わるのかよ」

「精密なのだぞ」

「あれ?」、と呟くとその場の全員が私を見た。

「クレアくんがいない」

 周りを見てもクレアくんがいなかった。ここに向かっている時にはぐれてしまったのかもしれない。


 王様がため息をついた。肘置きで指をずっとノックしながら

「この城の中なら必ず兵士が見つけるから安心しろ。それより其方(そなた)に頼みたいことがあっる」

 と、私を見下ろしてきた。

「はい?」

「相手が転移者で士気を上げたのだ。なら、こちらもしなければな」


「ジャンヌダルクになれってことですか」

 私の中では、旗振り役を任された気でいた。

 王様は首を傾げて

「言っている意味がわからないが、こちらの趣旨(しゅし)が伝わっていればよい。今すぐにでも演説してもらうからな」

「…わかりました」


 正装に着替えながら考えた。演説というと、大勢の前に立つということだ。人の前で話すのは苦手だ…。

 メイドさんに着替えが終わりました、と言われ更衣室から出る。


 ジェームスが廊下の壁に寄りかかりながら

「似合っているぞ、お姫様」

「そうかなぁ。私あまり派手な色の服着たことないから自信ない」

 私の服装は白を基調としたドレスで、差し色として胸の部分やスカートのレース部分が赤色に染まっている。


「どうしたんだ?」

 廊下を歩いていると、ジェームスが話しかけてきた。私がずっとため息をついているから気になったのだろう。

「人前で話すの得意じゃないんだよね」

「ジャガイモだと思え」

「それだけ?」

「オウサマは俺じゃなくてお前を所望したんだから、やるしかないだろ」



 演説する場所に着くと、青空が見えて、街並みを一望できて気持ちが良かった。でも、道中に隙間がないくらい人がズラッと並んでいるせいで、気持ちは最悪だ。

「人がいっぱいだ」

「この国の存亡がかかっている。国中の全員がお前の演説を聞きに来たのだ」

「演説の相談されて、1時間もたってないと思うけど集まるの早すぎ!?」

 王様は、鼻で笑って当たり前だ、と言った。


「演説のカンペとかないんですか?」

「あるわけないだろうに」

「え? なのに頼むんですか?」

「演説は生物なんだ。言葉が貴様の中から出てくる。本当に助けたいのならな」

──いやたらっし。


 内心舌打ちをして、発言を無視する。

 王様は壇上に上がる。すると、大勢の人が「アンダルシア王!」、と大声を出した。

「諸君! 知っていると思うが今我が国は、今までにない存亡の危機にたっている」


 長々と王様は話しているけど、内容が頭に入ってこない。想像以上に緊張しているのが、頭で理解できた。でも、冷静にはなれない。

 深呼吸を何度もして、手に「人」の字を書いて飲む。


「大丈夫か?」

 ジェームスが私の背中を叩いた。

「大丈夫」

──大丈夫、緊張しやすいだけなんだ。今までだってなんとかやり通せたんだ、今回だってやり通せる。

「もう出番だな」

 壇上に立っている王様が私を見て、手招きしている。

「もうか、早いって」

「適当にみんながんばろうって、言えばいい」、とジェームスが耳打ちした。

「う、うん」


 深呼吸をして、壇上に立つ。

 人々の目線が合った気がした。実際は顔がこっちに向いているのはわかるが、目線がどこを見ているかわからない。もしかしたら、私の後ろにある旗を見ているかもしれないし、王様を見ているかもしれない。

 メイドさんが私の前でトーテムを出した。


 これに声を出せばいいのか。

「あ」

 声が反響した。さっきまでは、私の登場で騒いでいた町の人達、兵士達が静かになった。きっと彼らは私からありがたいお言葉をいただけるとおもっているのだろう。


「み、皆さんこんにちは」

 こんにちは、と声が帰ってくるわけでもなく静かになった。

──落ち着け。とりあえず、兵士の人達を元気づけるのと、如月を連れ戻すのをお願いすればいいだけだ。


「兵士の皆さん集まってくださり、その。ありがとうございます。まさかここまで集まるとは、思ってもいませんでした」

「当たり前だ!」「俺達に任せろ!」「部族は俺らが殺してやる!」

 意思表明の声がバラバラと聞こえてくる。

 反応が良くてよかった。


「私の友達が、部族を士気しています。どうか、彼女を止めてほしいんです」

『任せろ!』、と大きな返事が返ってきた。でも、その後が聞いていてしんどかった。

「殺してやるからよ!」「首持ってきてやるぜ!」

──なんで。すぐに殺すって発想がでてくるの。


「ち、違います。殺してほしいわけじゃなくて、助けてほしいんです。彼女は洗脳されているかもしれませんし、脅されているかもしれないので…」

 場が静まり返った。

 全員の視線が冷たく感じる。

 頭に衝撃がきた。手で当たった部分を拭うと血が付いていた。


「え」

「なに甘えたこと言ってんだよ!」「子どもが殺されたのよ!」「仲間を返せ!」「お前は敵なのか!」「転移者なら、俺らを導け!」「部族は殺すしかない!」

 罵詈雑言しか聞こえない。


「なんで」


 私は思わず、呟いた。

 冷静になると、怒る理由がわかった。彼ら彼女らにとっては、部族は親族や仲間を殺した悪しき生物なんだ。なのに、そいつらの肩をもつような発言をしてしまった


「お願いします。彼女を助けてください。部族と争わないでください」

 私は頭を下げて話し続けた。

 石が足元や頭に飛んでくる。私には、同じセリフを繰り返して頭を下げるしかなかった。

 腕を引っ張られた。腕の先を見るとジェームスが悲しそうな表情をしていた。


「もういい。後は俺に任せろ」

 メイドさんに連れられて、壇上から逃げるように城内に入った。壇上の端からジェームスは意気揚々と話していて、誰も彼に石を投げていない。

「何がしたいのだ。貴様は」

 王様はジェームスがいる方向を見ながら、小さな声で言った。


「貴様の友達をできる限り助けるようにする。もう其方は表舞台に立つな、ジェームスに全て任せる。女だから多少役に立つと思ったがとんだ計算違いだった」

 何も言い返せなかった。下唇を噛みしめて、気配を隠して歩いた。


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