第7節 ヤクソク
セシル視点
如月さん達が村から出ていってから、2日近く経ちました。
村には、兵士が出入りしなくなり住人だけで火事の後始末をするよう、指示されました。
あの頃と違って、村に活気はなく皆さんなあなあで、燃えた家財を整理しているようでした。
「セシルさん」
私より年上のお兄さんが言いました。彼は困った表情をしていました。
自分は今は父の代わりに村長として務めています。
お父さんの生死が不明なため、みんなは村長代理に仕事を任せていましたがこんな現状を1人で賄いきれるわけもなく、心身の疲労は目に見えました。そこで、私が名乗りをあげて、村長の業務を手伝うことになりました。
「歌川さんと、江藤さんとナミタを探しているという人物が」
「2人に何かあったのですか?」
自分が食い気味に言うと、お兄さんはどもった。
「いや、借りがあるから。呼べと部族が」
お兄さんに案内されて、移動すると人だかりができていました。怒っている方、困惑している方が両極端にいました。
「どうかしましたか」
集団に声をかけると、波が引くみたいに道ができてその先には、薄汚れたマントを羽織った子どもがいました。
「歌川、江藤、ナミタ、ヤクソク。金と食事ヨコス」
声色は、高くざらついていた。声からして女の子だとわかりました。
彼女は革製のカバンから、何かを探しています。カバンから手を出すと、書類を握っていました。
「ヤクソクした。歌川ゼッタイ渡す」
彼女から渡された書類を見ると、『トガウに金か食べ物を渡します。数日経っても来なかったら、イムル村のセシルに私達の名前を伝えてください』と子どもが書く字体で書かれていました。
「もしかして、あなたが優花さんをここまで案内してくれた部族ですか?」
彼女はうなづいた。
「そんな恩人に、失礼ですし狭いところですが、室内で話しましょう」
* * * * *
集会所の村長室に、彼女を招きいれてお茶と菓子を出しました。非常食や毛布で溢れかえっていますが、ここくらいしか静かに話せる場所がありません。
「すみません、こんなところで」
「イイ。村タイヘンだったんダロ」
「ええ、そうです」
「そういえば、挨拶がまだでしたね。私はセシル・マルクヴィーです」
「トガウだ。ギサウ族のシュッシンだ」
互いに黙っていると、部屋の扉が叩かれました。
どうぞ、と声をかけると開かれてナミタがいました。
「お前あの時の」
開口一番に、トガウを嫌そうな目で見つめて言いました。トガウは、気にしていない様子でした。
「ヤクソク守れ。金と食事ダセ」
「私じゃなくて、セシルに言ってよ」
自分の隣の席に座って、ナミタはため息をつきました。
トガウは、自分を見つめてきました。
「申し訳ありませんが、金銭の類は今全くないのです…。もちろん、後日出しますけど」
トガウは、舌打ちをした。
「アイツラどこ?」
「村を出て、友達を探しに行きました」
言ってたな、とカタコトながらも彼女は言いました。そして、立ち上がりました。
「もう行くのですか」
「ココジャナニモナイ。アイツラ追う。責任トッテもらう」
「どこにいるかわかるんですか?」
「ココラノ山は誰よりもクワシイ。誰がドコなのかワカル」
ナミタは、机から身を乗り出して
「じゃあ、赤髪の女もわかるってこと?」
「ワカル。トクチョウと匂いガアル物ダセ」
「わかった」、とナミタは席から立ち上がりました。
彼女の手を掴んで
「まさか彼女に任せるつもりですか?これ以上はさすがに申し訳ないですよ」
「もしかしたら、クロノさんも見つけてくれるかもよ」
ナミタの言う通りもしかしたら、お父さんを見つけてくれるかもしれません。
「ですが…」
「手がかりになるのは、これしかないじゃない。行こうよ」
ナミタは私の手を触れて、見つめてきました。
「申し訳ありませんが、自分の父と友人を探してもらうのを手伝ってもらえませんか?」
頭を下げて、トガウに心の底からお願いをしました。
──お父さんを見つけられなかったとしても、せめて友達である如月さん達だけでも、無事見つけて元の世界に返してあげたい。
「ワカッタ。見つけられないトシテモ報酬出す。ヤクソク」
トガウさんがの口元が上がったのが見えた。
「はい…」
自分は書面に、彼女との約束を書いて渡しました。




