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サマー・HSS・マタステイシス  作者: 川上アオイ
第3章  ハイジャック・サマー
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第4節 飛び道具

クレアくんの手を握って、男の言う通り道を歩く。

 辺りには、人影なんてなくて日が全然差し込まない路地裏だ。

 後ろを見ると、一直線の道になっていて、ゴミ箱やら何かの箱が狭い路地にぎゅうぎゅうに置かれている。

 背中の鋭い何かが当たる感覚がなくなって、すぐに男から離れる。


 クレアくんを抱きかかえ、男をにらみつける。

「お前の顔どっかで見たことあるなって、最初から思ってたんだよ」

 ナイフを手でパチパチと叩きながら笑っている。

「そんな私有名人なの?」

「ああ、結構前まで有名人だったぜ。兵士を襲った極悪犯だってな」

 男は、ポケットから紙を取り出して私達に見せつけた。


 紙には、私に似た絵が書かれている。

「え? 何もしてないんですけど」

 クレアくんは私をジッと、見つめている。

「ホントだよ?」私を疑わないでよ…


「あ? お前頭悪ぃのか」

「失礼すぎませんか」

 服の端を引っ張られ、下を向くとクレアくんが首を横に振った。

「手配書に、やったこと書かれてる」

 言葉は翻訳できても、字がわからない弊害(へいがい)がここでもおきたか。


「坊主の言う通りだぜ」

 男は手配書を見ながら

「この女、アンダルシア王国に反する者。イムル村付近の森にて、兵士に危害を加えた。この者を見つけたら、捉えるか兵士に連絡せよってよ」

「私達誰も危害加えてないですし、あっちが危害加えたきたんだから制服の弁償してほしいくらい」

「そんなのは、どうでもいい。お前を差し出せば金貨がもらえる。俺の言う通りに行動してもらうぜ」


 手配書を地面に投げ捨てて、ナイフを再びこっちに向けた。

「王国行きましたけど、何も言われなかったので手違いだと思いますよ」

「そんな出まかせやめろ。何もなかったにしろ、俺がお前らに危害を加えられたと言えば信じてもらえるさ」

「善良な市民ぶっても、無駄ですよ」

「うるせ、まずは服を脱げ! でないと、そこのガキを殺す」

 一歩近づいて、男は大声を出した。


「クレアくんは関係ないですよね」

「服を脱いだら、考えてやるよ」

 黄色い歯を薄っすらと見せて笑った。

 クレアくんが、私の前に立った。足が震えている。彼の肩に手を置いて(ささや)いた。

「ありがとうね」

 男をにらんで

「…わかりました」

 上に羽織っていたイムル村の刺繡がされた服を脱いで、地面に置く。


「なんだ? その下着見たことねぇぞ」

 私の青と白の水玉模様のブラのことだ。

「答えてあげたら、私達を逃がしてくれますか?」

「んな、わけねぇだろ。さっさと下のも脱げ」


 私がスカートに手をかけた時、上から柔らかい感触がした。確認すると、白いタオルだった。

「お前もっと自分大切にしろよ。そんなファッキン野郎に見せるものじゃないぜ」

 頭上を見ると、屋根から私達を見下ろしたジェームスがいた。


「なんでいるの?!」

「それは、こっちのセリフだ」

 ジェームスは、家の壁を蹴りながら降りてきた。


「おい、お前この前もこいつに突っかかってたよな」

「テメェこの前の」

 男は、ナイフの先をジェームスに向けて、歯ぎしりをしながら言った。

 男の話に耳を向けていない様子で、丸まった手配書を広げて

「これは、もう取り消しになったぞ」

「それは残念だが、お前を殺して。あの女で遊ぶから別にいい」

「またボコボコにされたいか?」、とボクシングポーズをとった。

「今回は仲間がいるんだぜ。出てこい」


 男の後ろと前の壁がめくれて、3人男が出てきた。金髪を肩まで伸ばした男、スキンヘッドの男、ピンク髪を短く切りそろえた男が、ナイフの男に寄る。

 めくれた壁の後ろには、道が見えた。


 金髪を肩まで伸ばした男が、ナイフを持った男の肩に肘をおきながら

「おい、ワンダ。テメェ何1人で楽しもうとしてんだよ」

「俺が最初に見つけたオモチャなんだから、いいだろうが」

 ナイフを持った男は、肘を払って、ジェームスをにらみつけた。


 ジェームスの後ろに、クレアくんをひいて隠れる。ジェームスの耳元で話す。

「4対1だけど、勝てるの?」

「お前らもいるから、4対3だろ。いけるいける」

「もっと頼りになること言ってよ」

 地面に落ちた服を拾い着る。

「さすがに、ボクシングをかじった程度のケンカ初心者の俺じゃあきついな」

「王様からトーテム支給されてないの?」

「されてるわけねぇだろ。あいつ魔法はそんな好きじゃないんだ」

「使えないなぁ…」


「おい」

 ナイフを向けて大声で言った。

「いつまで話してんだよ」

「困ったな」

 ジェームスは、頭をかきながら言った。


「さっさと、殺して女で遊ぼうぜ」

 ピンク髪の男が、近寄ってきた。

「それ以上近づくと、俺の右手が火を噴くぞ」

「は? 何言ってんだよ」

 ピンク髪の男は。笑いながら近づいた。


 BANG──。


「は?」

 ピンク髪の腹から血が出ている。男は、大声でわめき腹部に手を当てて下がった。

 ジェームスの手には、拳銃が握られている。リボルバー式ではなくて、上の部分が前後に動くタイプのスマートな銃だ。

「拳銃?」

「本物だ。日本人だから、見るのは初めてか」

 私の顔を見て微笑んだ。


「おい、フォーム!クソ!なんだよそれ」

 ナイフを持ってた男が、撃たれたピンク髪の男を見た後、ジェームスが持っている拳銃を恐れた表情で見つめた。

「魔法なんかより、人を簡単に殺せる道具だ」

 男達は、路地を出ようとしている。


「待てよ」

 進行方向に、弾丸の跡が壁についた。

「金置いてけ。そしたら命だけはとらねぇよ」

 男達の表情は、強ばった。すぐさま、財布をジェームスの近くに投げて路地から出ていった。


「とりあえず、助けてくれてありがとう」

 ジェームスは、財布を漁りながら

「いいよ。同じ世界出身だからな」

「銃なんて持ってたんだね」

「銃ってなに?」

 クレアくんが私を盾にするみたいにして、聞いてきた。

「持ってみるか?」

 銃をクレアくんに渡した。

「重い」

「だろ。トーテムと違ってちゃんと命の重さがあるんだ」

 銃を受け取り、ズボンすぐさまにしまった。


「歌川、村が燃えたって聞いたけど平気なのか」

「一応大丈夫。ケガをした人は出たらしいけど、死んだ人はいない…と思う」

 行方不明になっている人がいるらしいから、なんとも断言しにくかった。

 ジェームスは、神妙な顔つきをして「そうか」、と言った後に

「それで、なんで来たんだよ」

 私はことの経緯を話した。話を聞いている時の彼は、適度に相槌(あいづち)をうって聞き終えた時には、ため息をついた。


「俺より大変だな。とりあえず、王様のとこ行くか」

「そうだね」


 路地裏を出ると、さっきの出来事は噓みたいに賑わっている。あんな凄い銃声がしたのに。誰も気にしていなかったのだろう。

 城下町はいつも通り色々な人がいて、楽しそうにしている。誰かが明るいところを見ると、少しは気分がまぎれた。


「なんで、あそこにいたの?」

 屋根の上にいたのも気になったが、人通りがいない場所にいるのが気になった。

「買物に来てたんだ。そしたら、お前に似たやつがいてよ。路地裏にいくもんだから後をおったら、脅されてたから高みの見物してたんだ」

「私が路地裏に行った時点で助けてよ…」

 ははは、と笑った。

「歌川が刃物で刺されてたかもしれない」

 クレアくんが、ジェームスをにらんでいる。


 眉を寄せて、ジェームスは(いや)らしく笑いながら

「その時は、刺される前に銃で撃ってたぜ。ボーヤは、何もできなかったんだから、俺に八つ当たりするなよ」

「僕はすぐに(かば)うことできた」

「脱がされた時点で、男なら行動すべきだぜ」


 クレアくんの顔が中心に集まるくらい、(しわ)を寄せている。後ろから彼の体を抱いて、力こぶしを手でそっと抑える。


「クレアくんも庇ってくれたからね、立派な男の子だよ。年上なんだから、言い方気をつけてよ」

「わかったよ」

 ジェームスは、やれやれ、といった表情で言った。

 クレアくんとジェームスの間に、歩いているが急に静かになって気まずさを感じる。


 ──まさか、()()()()()()()()()。でも、王様に世界の技術は伝えていないって言ってたはずだけど。


「尾崎は助かる可能性があるけど、江藤はどうするんだ?」

 私の顔を見ないで言った。進行方向を無心で見ているみたいだった。

「セシル、イムル村で捜索と王国の兵士にお願いして探してもらおうと思う」

「ま、それが妥当だ。王様が聞いてくれるといいな」

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