第4節 飛び道具
クレアくんの手を握って、男の言う通り道を歩く。
辺りには、人影なんてなくて日が全然差し込まない路地裏だ。
後ろを見ると、一直線の道になっていて、ゴミ箱やら何かの箱が狭い路地にぎゅうぎゅうに置かれている。
背中の鋭い何かが当たる感覚がなくなって、すぐに男から離れる。
クレアくんを抱きかかえ、男をにらみつける。
「お前の顔どっかで見たことあるなって、最初から思ってたんだよ」
ナイフを手でパチパチと叩きながら笑っている。
「そんな私有名人なの?」
「ああ、結構前まで有名人だったぜ。兵士を襲った極悪犯だってな」
男は、ポケットから紙を取り出して私達に見せつけた。
紙には、私に似た絵が書かれている。
「え? 何もしてないんですけど」
クレアくんは私をジッと、見つめている。
「ホントだよ?」私を疑わないでよ…
「あ? お前頭悪ぃのか」
「失礼すぎませんか」
服の端を引っ張られ、下を向くとクレアくんが首を横に振った。
「手配書に、やったこと書かれてる」
言葉は翻訳できても、字がわからない弊害がここでもおきたか。
「坊主の言う通りだぜ」
男は手配書を見ながら
「この女、アンダルシア王国に反する者。イムル村付近の森にて、兵士に危害を加えた。この者を見つけたら、捉えるか兵士に連絡せよってよ」
「私達誰も危害加えてないですし、あっちが危害加えたきたんだから制服の弁償してほしいくらい」
「そんなのは、どうでもいい。お前を差し出せば金貨がもらえる。俺の言う通りに行動してもらうぜ」
手配書を地面に投げ捨てて、ナイフを再びこっちに向けた。
「王国行きましたけど、何も言われなかったので手違いだと思いますよ」
「そんな出まかせやめろ。何もなかったにしろ、俺がお前らに危害を加えられたと言えば信じてもらえるさ」
「善良な市民ぶっても、無駄ですよ」
「うるせ、まずは服を脱げ! でないと、そこのガキを殺す」
一歩近づいて、男は大声を出した。
「クレアくんは関係ないですよね」
「服を脱いだら、考えてやるよ」
黄色い歯を薄っすらと見せて笑った。
クレアくんが、私の前に立った。足が震えている。彼の肩に手を置いて囁いた。
「ありがとうね」
男をにらんで
「…わかりました」
上に羽織っていたイムル村の刺繡がされた服を脱いで、地面に置く。
「なんだ? その下着見たことねぇぞ」
私の青と白の水玉模様のブラのことだ。
「答えてあげたら、私達を逃がしてくれますか?」
「んな、わけねぇだろ。さっさと下のも脱げ」
私がスカートに手をかけた時、上から柔らかい感触がした。確認すると、白いタオルだった。
「お前もっと自分大切にしろよ。そんなファッキン野郎に見せるものじゃないぜ」
頭上を見ると、屋根から私達を見下ろしたジェームスがいた。
「なんでいるの?!」
「それは、こっちのセリフだ」
ジェームスは、家の壁を蹴りながら降りてきた。
「おい、お前この前もこいつに突っかかってたよな」
「テメェこの前の」
男は、ナイフの先をジェームスに向けて、歯ぎしりをしながら言った。
男の話に耳を向けていない様子で、丸まった手配書を広げて
「これは、もう取り消しになったぞ」
「それは残念だが、お前を殺して。あの女で遊ぶから別にいい」
「またボコボコにされたいか?」、とボクシングポーズをとった。
「今回は仲間がいるんだぜ。出てこい」
男の後ろと前の壁がめくれて、3人男が出てきた。金髪を肩まで伸ばした男、スキンヘッドの男、ピンク髪を短く切りそろえた男が、ナイフの男に寄る。
めくれた壁の後ろには、道が見えた。
金髪を肩まで伸ばした男が、ナイフを持った男の肩に肘をおきながら
「おい、ワンダ。テメェ何1人で楽しもうとしてんだよ」
「俺が最初に見つけたオモチャなんだから、いいだろうが」
ナイフを持った男は、肘を払って、ジェームスをにらみつけた。
ジェームスの後ろに、クレアくんをひいて隠れる。ジェームスの耳元で話す。
「4対1だけど、勝てるの?」
「お前らもいるから、4対3だろ。いけるいける」
「もっと頼りになること言ってよ」
地面に落ちた服を拾い着る。
「さすがに、ボクシングをかじった程度のケンカ初心者の俺じゃあきついな」
「王様からトーテム支給されてないの?」
「されてるわけねぇだろ。あいつ魔法はそんな好きじゃないんだ」
「使えないなぁ…」
「おい」
ナイフを向けて大声で言った。
「いつまで話してんだよ」
「困ったな」
ジェームスは、頭をかきながら言った。
「さっさと、殺して女で遊ぼうぜ」
ピンク髪の男が、近寄ってきた。
「それ以上近づくと、俺の右手が火を噴くぞ」
「は? 何言ってんだよ」
ピンク髪の男は。笑いながら近づいた。
BANG──。
「は?」
ピンク髪の腹から血が出ている。男は、大声でわめき腹部に手を当てて下がった。
ジェームスの手には、拳銃が握られている。リボルバー式ではなくて、上の部分が前後に動くタイプのスマートな銃だ。
「拳銃?」
「本物だ。日本人だから、見るのは初めてか」
私の顔を見て微笑んだ。
「おい、フォーム!クソ!なんだよそれ」
ナイフを持ってた男が、撃たれたピンク髪の男を見た後、ジェームスが持っている拳銃を恐れた表情で見つめた。
「魔法なんかより、人を簡単に殺せる道具だ」
男達は、路地を出ようとしている。
「待てよ」
進行方向に、弾丸の跡が壁についた。
「金置いてけ。そしたら命だけはとらねぇよ」
男達の表情は、強ばった。すぐさま、財布をジェームスの近くに投げて路地から出ていった。
「とりあえず、助けてくれてありがとう」
ジェームスは、財布を漁りながら
「いいよ。同じ世界出身だからな」
「銃なんて持ってたんだね」
「銃ってなに?」
クレアくんが私を盾にするみたいにして、聞いてきた。
「持ってみるか?」
銃をクレアくんに渡した。
「重い」
「だろ。トーテムと違ってちゃんと命の重さがあるんだ」
銃を受け取り、ズボンすぐさまにしまった。
「歌川、村が燃えたって聞いたけど平気なのか」
「一応大丈夫。ケガをした人は出たらしいけど、死んだ人はいない…と思う」
行方不明になっている人がいるらしいから、なんとも断言しにくかった。
ジェームスは、神妙な顔つきをして「そうか」、と言った後に
「それで、なんで来たんだよ」
私はことの経緯を話した。話を聞いている時の彼は、適度に相槌をうって聞き終えた時には、ため息をついた。
「俺より大変だな。とりあえず、王様のとこ行くか」
「そうだね」
路地裏を出ると、さっきの出来事は噓みたいに賑わっている。あんな凄い銃声がしたのに。誰も気にしていなかったのだろう。
城下町はいつも通り色々な人がいて、楽しそうにしている。誰かが明るいところを見ると、少しは気分がまぎれた。
「なんで、あそこにいたの?」
屋根の上にいたのも気になったが、人通りがいない場所にいるのが気になった。
「買物に来てたんだ。そしたら、お前に似たやつがいてよ。路地裏にいくもんだから後をおったら、脅されてたから高みの見物してたんだ」
「私が路地裏に行った時点で助けてよ…」
ははは、と笑った。
「歌川が刃物で刺されてたかもしれない」
クレアくんが、ジェームスをにらんでいる。
眉を寄せて、ジェームスは厭らしく笑いながら
「その時は、刺される前に銃で撃ってたぜ。ボーヤは、何もできなかったんだから、俺に八つ当たりするなよ」
「僕はすぐに庇うことできた」
「脱がされた時点で、男なら行動すべきだぜ」
クレアくんの顔が中心に集まるくらい、皺を寄せている。後ろから彼の体を抱いて、力こぶしを手でそっと抑える。
「クレアくんも庇ってくれたからね、立派な男の子だよ。年上なんだから、言い方気をつけてよ」
「わかったよ」
ジェームスは、やれやれ、といった表情で言った。
クレアくんとジェームスの間に、歩いているが急に静かになって気まずさを感じる。
──まさか、銃を持ってるなんて。でも、王様に世界の技術は伝えていないって言ってたはずだけど。
「尾崎は助かる可能性があるけど、江藤はどうするんだ?」
私の顔を見ないで言った。進行方向を無心で見ているみたいだった。
「セシル、イムル村で捜索と王国の兵士にお願いして探してもらおうと思う」
「ま、それが妥当だ。王様が聞いてくれるといいな」




