第3節 再会
歌川視点
王国に着くと、初めて来た時と変わらず和気あいあいとしている。
近くの村にあんなことがあったのに、吞気なものだと思った。
「おい! 坊主なにしてんだ!」
声の方を見ると、兵士が男の子を持ち上げている。
「離して」
クレアくんが持ち上げられて、ジタバタとしている。
「クレアくん?!」
兵士に「知り合いです」、と説明して彼を離してもらう。兵士は「母親なら自分で見とけ」、と捨て台詞を吐いて荷物運びに戻った。
違うし、と思いながらも胸にしまってクレアくんを見る。彼の髪や服には布の切れ端や糸が付いている。布の箱に入っていたのが一見してわかった。
「なんでここにいるの?」
かがんで、クレアくんの身体に着いた布の破片を取る。
「歌川が一人で行くからついてきた」
「遊びに行くわけじゃないんだよ」
「わかってる」
真剣な眼差しで、クレアくんは私を見ている。
「だとしても、セシル達が心配するでしょ」
「手紙置いといたから、大丈夫」
「大丈夫なわけないでしょお!」
クレアくんの髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
──今までのクレアくんだったら、こんな無茶なことしないのに変わったな。
「今からどうするの?」
髪を手でときながら、クレアくんは聞いた。
「王様のところ行くよ。大人しく…できるか」
この子は、年頃の子どもより大人びているから、大丈夫かなぁ
「うん」
手をつなぎながら歩いていると、クレアくんは私の顔見て言った。
「尾崎見つかるかな」
「見つける。絶対に」
「…痛い」
「ごめん!痛かったよねぇ」
無意識に手を強く握ってしまっていた。クレアくんの手をさすり、セシルから食事をもらったことを思い出した。
「ご飯食べよ!」
「うん」
クレアくんに塩おにぎりを渡して、一緒に食べながら歩く。
塩加減がちょうど良くて美味しい。
「クレアくんは、私達が帰ったら寂しい?」
うなずいて「寂しい」、と答えた。
「尾崎と江藤を見つけたら、帰るの?」
「残り日数次第かな。ジェームスから聞いたところあまり日数ないらしいし」
私達以外の転移者ね、と付け足す。
「もっと、遊びたい。なんで、歌川達にあんなことしたんだろう…」
クレアくんは顔を下に向けた。
私達を憎んだこと。学校に火をつけたことを後悔しているのだろう。
「さっさと、アミ達見つけていっぱい遊ぶ時間作ればいいよ!」
クレアくんに微笑みかけると、嬉しそうに笑った。
「ここ最近部族の動きが活発になってるらしいぞ」
すれ違った男性2人が、話し声が聞えた。
「なんだか、怖いねぇ」
「うん」
また、クレアくんは顔をうつむいた。
──アミ達が不安だ。無事でいるといいのだけれど。
「あ!」
クレアくんは、ビックリした表情で私を見た。
「どうしたの?」
「トガウにお礼の品渡すの忘れてた…。でも、アミが渡してるかなぁ」
「トガウ?」
「私が王国から村に帰ってくるまでの間、お世話になった人だよ」
「ふぅん」、とどうでも良さそうに言った。
「今でも、部族が嫌い?」
「…うん。まだ好きになれない」
「そっか」
返答に困り、端的に答えた。ただこの子が部族のことを心底憎んでいるか気になった。
トガウは、まだ知り合ったばかりだし報酬を渡すという条件付きだけど、私達を村まで案内してくれた。だから、部族の中にも良い人はいるはずだ。
「憎んじゃダメなのかな」
「んー」
返答が難しかった。
憎しみなんて抱いたことはないから困った。漫画みたいに憎しみからは何も生まれない、と言うのが正解だろうけど、なんでかはわからない。安直に答えるべきではないと思った。
「憎んでもいいんだよ。人間だしね」
「そうなの?」
クレアくんからおにぎりの包み紙を、受け取り続ける。
「でも、むやみやたらに憎んじゃダメだと思うよ。必要ない人まで傷つけちゃうからね」
「わかった」
クレアくんは、お母さんに、お使いを頼まれた時の子どもみたいに、うなずいた。
肩を掴まれた。
「痛っ」
「久しぶりだなぁ」
後ろを見ると、黒髪をオールバックにした男が立っていた。
この前王国に来た時に。絵の道具屋でスリしてきた男!
「またスリでもするんですか?」
「しねぇよ。面かせ」
背中に、鋭く硬い感覚がした。
「わかりました」




