第21節 逃走
「なんか急すぎてビックリしたね」
「そうだな。なんつーか、バイトに出たら休みの日だったみたいな感じだよなぁ」
ナミタは、国王の絵を描き終えた後に、私とアミは国王と自分達の世界について話したけど、ジェームスの言っていたとおりすぐに終わった。
「ジェームスは国で適当に過ごすって、言ってたけど私達はどうする?」
「まぁ、学校のことやろうぜ。うちらは最初から学校作れって言われたし、やれることはやるべきだべ」
「そうだね」
馬車の荷台で、揺られながら私は自分がやることについて考えた。荷台は、アミとナミタが話す音と、周囲に走っている兵士の馬車の音達が聞こえる。その中で一番雨音が心地いい。
クロノさんの言うとおり、学校のこと、この世界のことはやらないとして、ただグータラ過ごすのも魅力的だと思った。
「アミだったら、学校作らなくて良いとしたら何する?」
「結局今までどおり家事手伝って、適当に過ごしてそうだなぁ」
「あんたら、何するかで悩んでんの?」
ナミタが行きと同様に、絵を描いている。
「学校の手伝いしようかなぁとは、思ってるよ」
「あんたら、必要なくない?」
「え?」
「は?」
アミは少しイラついた表情をしていた。
「だって今もこうして、あなたらいない間に誰かが学校まわしてるわけじゃない。なら、あんたらいなくても、まわるんだから、好き勝手にしてれば」
「そんなこと言われてもさぁ。責任ていうか」
「勝手にこっちの世界来たんだから、勝手にしてればいいのよ。学校のことだって、クロノが頼んだことで、それはもう達成しているんだから」
「ナミタが珍しくタメになること言ってる」
アミを見ると、あっけらかんとした顔だった。
「死ね。一生ここで奴隷として働け」
「うらを返すと、一緒に居たいってことか?」
「馬鹿! 勘違いキモイ!」
クロノさんの声が外から聞こえた。
「ケンカしないの」
「はーい。雨大丈夫ですか?」
「少し強くなってきたね。休みながらゆっくり帰ろう」
独り言みたいに最後は言った。
数十分前より雨の音が強くなっている。
慣れない馬車での移動だから心配っていうのもあるけど、荷台の中がさっきからゴトゴトと強く揺れている。
「あとどれくらいで着きますかね」
「あと少しだよ。半分は走ったんじゃないかな」
「長すぎませんかねぇ!」
「駄々こねないの」
私は席に戻って、寝ようとした。
爆発音が前からした!
椅子にしがみついて、姿勢を低くする。
「ナミタ、アミ大丈夫?」
「うちとナミタは大丈夫」
アミはナミタを抱きかかえていた。
私は立ち上がって、クロノさんに声をかける。
「何があったんですか!?」
「モノに捕まりなさい!」
声からクロノさんの焦りようがわかった。
馬車はとても揺れている。さっきよりスピードが出ているのが、揺れで判断できた。
「な、何が起きたの?」
ナミタが震えた声で言った。
アミはナミタを抱きしめながら、言う。
「大丈夫だ。クロノさんがどうにかしてくれる」
急に馬車が止まった──。
周りが騒がしい。一緒に村に向かっている兵士の声が聞こえる。
「クロノさん、だい」
「絶対に外に出るな!」
「わかりました」
私が話している途中で、クロノさんが今までにない大声で言われて、怖気づいてしまう。
今の状況が飲みこめないからか、クロノさんに怒鳴られたのが怖かったのかわからないけど、足の震えが止まらない。
「歌川、とりあえず一か所に集まろうぜ」
「うん」
アミ達と壁沿いに、身を寄せ合った。
兵士の叫び声、金属音、泥が跳ねる音が外から聞こえる・
荷台のドアが急に開いた。
「お前ら下がってろ」
アミの後ろに、ナミタを抱きかかえて隠れる。
「僕だ。今のうちに逃げよう」
「でも、兵士の皆さんが」
「彼らなら大丈夫だ」
クロノさんに手を引かれて、私達は荷台から出て、雨の中走った。
「何があったんですか?」
「部族に襲われている」
「え? 部族ですか」
クロノさんが話そうとした時にナミタが、立ち止まった。
「ナミタ、走らないと」
「なんで…。なんでまた、部族に追われなきゃいけないのよ」
ナミタは念仏を唱えるみたいに言っている。
たぶん、今ので、過去の嫌な思い出がフラッシュバックしたのかもしれない。
「ナミタ、大丈夫だ。今は走ろう」
クロノさんは、ナミタの肩を抱いた。ナミタは、正気に戻ったのか立ち上がって、クロノさんの手を握りながら走り始めた。
「部族って本当にいたんだ」
ナミタ達に聞こえないように、アミに話かける。
「だな。正直うちらがずっと間違われてただけだったから、都市伝説みたいなものかと思ったわ」
「なんで、襲われたんだろうね」
「金とろうと、してたんだろ」
叫び声が聞こえた。獣みたいな声だ。
「熊?」
「違う! 早く急げ」
クロノさんが、私達の背中を押す。
後ろから、ドラムロールみたいな音が聞こえる。
「後ろを振り向くな! 走ることに集中しろ」
横っ腹が痛い。山の中だからか、酸素が薄い。
「 」
会話みたいな声が聞こえた
聞き取れない。外国人同士が話している時みたいなメロディだ。
隣からアミの荒い呼吸が聞こえる。
「アミ。大丈夫?」
「大丈夫。お前こそ大丈夫か?」
「…大丈夫」
さすがに、慣れない山道を走るのはしんどい。
前を走っているクロノさんが、振り向いて止まった。
「クロノさん…?」
「真っ直ぐ走りなさい。村のどこかには着くから」
「は? 足止めする気かよ。うちも」
「君たちは!」
クロノさんが、大声でアミの発言を止めた。
「君たちは、元の世界に帰るんだ。早く行きなさい」
振り向いて、笑った。
「クロノ、一緒に逃げようよ。ねぇ」
ナミタがクロノさんに歩み寄ろうとしていた。私は抱きしめて
「ナミタ行こう」
と、なるべく優しい口調で言った。
「クロノさん、絶対村に帰ってきてくださいね」
「もちろんだよ。僕は村長だよ? セシルにまだ譲る気はないさ」
私達は、クロノさんをおいて走った。
無言で、ただ真っ直ぐ走った。
話すと、クロノさんのことが気になってしまうから、みんな話さないようにしていたのかもしれない。
──なにあれ。
目の前に、マントをかぶった人が立っていた。背丈としては、クレアくんやヨハネちゃんと同じ小学生くらいだ。
「部族…」
ナミタがポツリ、と言った。




