第16節 アンダルシア兵 ジェームス
王国に着くと、さっきまでの荷台の中の臭さと、うって変わって美味しそうな食事の匂い、砂ぼこりの臭さすら感じない。
地面は石でずっしりと、敷き詰められている。
「着いたー!」
「着いたな…」
アミは口元をぬぐいながら苦しそうに言った。
私は、アミの背中をさすりながら「大丈夫?」、と問いかける。アミは苦しそうな顔をして、うなずいた。
ナミタは目をキラキラさせて、建物や王国を歩く変わった服装、髪の人を見て口を開けている。
「優花くん」
クロノさんに呼びかけられて、振り向く。一緒にここまで来た兵士達が荷台から忙しそうに、荷物を降ろしている。
「僕は入国の手続きとかするから、ナミタと一緒に歩いてきな」
「いいんですか!?」
「ああ、少し時間かかると思う。ここに戻ってきてね」
「はーい。アミはどうする?」
首を横に振られた。
「アミくんは僕が見ておくよ。2人で絶対に行動するんだよ?」
「わかりました。ナミタ行こ」
「うん」
イムル村よりも大通りは人が多くにぎわっている。老若男女、様々な髪色、服装の人物が歩いていて、私達は首をずっと動かして歩いた。
「歌川! カメが売られてる!」
ナミタが、屋台に向かって走っていた。私が止まるよう言っても聞こえていないのか、走っている。
「ちょっとナミタ! 離れちゃだめだよ」
「歌川! 見て見て」
ナミタは水槽から、カメを取り出して笑った。
「どうせ、買わないんだから取り出さないの」
ナミタからカメを取りあげて、水槽に戻した。手を握って、この場を後にする。
「ちょっと! なにすんの!」
「楽しいんのぉ? 都会に来れて」
私が微笑むと
「楽しくない!さっさと違う店見るわよ」
ナミタは手を振りほどいて、闊歩する。
彼女は自分が思っていた以上に、テンションがあがっていたのに今となって、気づいたようで、可愛らしかった。
横並びになって歩いていると、トーテムが売られている屋台が目にはいった。
「ちょっと見てみてもいい?」
「トーテム? そんなのどうでもいいでしょ。絵の道具見たい」
「トーテム見たいのぉ! お願いお願い!」
私が地団駄を踏むと、ナミタは引いていた。
「キモ…。トーテムからでいいよ」
──私の勝ちだ。
トーテムが売られている屋台を見ると、見たことない柄のトーテムがいっぱい置かれていた。
「これはなに?」
「それは、氷のトーテム」
「これは?」
「それは、光を出すトーテム」
「これは? これは?」
「それは、瞬間移動できるっぽい、高ぇ。そっちのは通信できるやつ」
ナミタは、私の質問をどんどんめんどくさそうに、言っていく。
視線を感じて、前を見ると
「お嬢ちゃん。字読めねぇのかい?」
──話はできても、字はまだほとんど習ってないからしょうがねぇだろ!
ナミタが私をニタァ、と見て
「この子、『学』がないのでぇ。字が読めないんですよぉ」
店主に答えていた。
「お前ぇ!」
「そんなお嬢ちゃんに、これやるよ」
店主は私に、トーテムを渡してきた。
「これは、どういうやつですか?」
「自分で、字の勉強をして調べな」
ナミタに聞こうとしたら、いやらしく笑っていた。
「お金払いますよ。頭が悪いですけど!」
むきになって、財布を取り出すと店主に手を抑えられた。
「ただでやるって言ってんだ。言葉もわかんないねぇのか?」
失礼な店主から謎のトーテムを無料で受け取り、何も買わずに立ち去った。
画材が売られている店に向かった。
さっきの失礼な店主が言うには、ここらへんで品揃えが良くてコスパも良いらしい。
店に着くと、店の中から絵の具特有の臭さが店頭で、鼻にきた。
「結構大きいね」
「王国っていうか金持ちの間で、絵画が流行っているから金があるんでしょうね」
ナミタはずかずか、と中に入っていき、その後ろをついていく。
店内は見たこともない色の画材に、布、横にでかい筆とか絵を描くために使うだろう物が置かれていた。
「ナミタは何買うの?」
「家で使うものとか、王様の前で使う絵の具を足しとく」
「金あんのー?」
「わたしは、あんたと違って金がいっぱいあるの」
「腹たつー」
ドン、と後ろから押された。
「邪魔だよ」
服装が整っていなくて、無精ヒゲの男が私の後ろに立っていた。
「ごめんなさい」
「気をつけろよ」
男が立ち去ろうとした時に、金髪の男性が男の手を掴んだ。ストレートに伸びた金髪が目元まで伸びている。
「お前彼女の財布とっただろ」
「あ? 証拠は?」
「犯人と女は証拠を要求するな」
金髪の男性は、やれやれという感じで話していた。
「てめぇなんだよ」
「財布を返したら、お前は床とキスするのを回避できるけどどうする?」
「さっきからなんなんだよ」
男は大きく拳を振り下ろした。
「速い」
金髪の人の左手が、鼻に当たっていたのが見えた。構えや雰囲気からして、実戦なれしているのがわかった。
うめき声と鼻血を出しながら、男は拳を振り下ろすのをやめた。
「くっそ」
男は鼻を抑えて、私の財布を床に捨てた。
「私の財布?!」
ポケットを確認すると、財布がなかった。
私が財布を拾おうとすると、金髪の男性が先に財布を拾った。
「ちゃんと自分の持ち物は管理して持っておけよ」
「はい」
見た目の爽やかさと、相反してぶっきらぼうな人だと印象が変わった。
金髪の男性から財布を受け取って
「ありがとうございます。すみません」
反射的に言い慣れたことを言うと、金髪の男性は笑った。
「謝ってばっかりだな
」
「すみま、あ」
笑いながら、彼は私に手を差しだした。
「俺はジェームス。王国で兵士として勤めている」
「私は歌川優花です。イムル村から来ました」
ジェームスは、質素な服装で兵士の仕事の休日だろうな、と思った。彼の手を握って、顔を見ると、驚いていた。
「お前まさか」
「ジェームス!どこだ!」
店の外から大声が聞こえた。
「やべ。またいつか会おう。歌川優花」
ジェームスは足早に店から出ていった。
「素敵…」
ナミタが顔をポーっと赤くして、小声で呟いた。
「え、ああいうのがいいの?」
「は? うっさい!ばか!」
ナミタはそう言うと、また店内の商品を見直した。
──素直じゃないなぁ。




