第13節 二次関数
歌川視点
「セシルとアミ、ケンカした?」
青空教室の机を一緒に運んでいるクレアくんに小声で聞いてみる。
私達はクロノさんに頼まれて青空教室の片付けをしている。
「してた」
「なにで?」
「この前如月がいなくなった時に、如月を探すかどうかみたいなので、ケンカしてた」
──もう3日も前じゃん。
いい加減仲直りしてほしいな、と内心ため息をついた。
「なるほどねー。あながち、能天気なアミに対してセシルが怒った感じだろうね」
「たぶんそう?」
「私がアミの相談のってあげるから、クレアくんはセシルのこと頼んでもいい?」
「うん」
「良い子すぎぃ! あとで、お風呂一緒に入ってあげよっか」
「それはいい」
10歳の子は、さすがに女子とお風呂嫌か。私が男の子だったら、嬉しいけど。
机を置いて、クレアくんとハイタッチをした。
「これで、おしまいだ。ありがとう!」
「うん、セシルのことは任せて」
クレアくんと別れて、家に戻って私達の寝室に入ると、如月はずっと同じ場所を歩いて回っている。
アミは、本を読んでいる。
──アミが、本を読んでいる!?
「どうしたの、2人とも人格入れ替わった?」
「ちげーよ、こいついつも授業前落ちつきがないんだよ」
アミは本を閉じて、如月の足をひっかける、如月は足がひっかかってドッタン、と大きな音をたてて転んだ。
「痛い! なにすんの」
「落ちつけって、どうせガキ共の前に出て話すだけだろ」
「だとしても、ある程度スムーズに授業進められるようにイメトレしないとじゃん」
「歩き回っているだけじゃなんもなんないだろ。本読んで、内容復習しとけって」
「そ、そうね。アミに諭されるとなんかイラつく」
「うちも、せいちょーしてんの」
アミはまた、寝っころがって本を読み始める。
「セシルとケンカしたってほんと?」
「は、なんでそのこと」
如月も「ケンカしたの?」、と大きく反応をした。
「女子の情報網なめないでいただきたいね」
「キメぇ…」
アミも女子だからね(あと、キメぇはひどい)、と心の底で言うのをぐっとこらえた。
「セシルと仲直りしなよぉ」
「いや、あいつがうちと話そうとしないんだよ。うちが話かけようとしたら離れてさ」
「セシルに今は問題ありって感じかー。で、何が原因なの」
「如月を探すかどうかってなって、うちは如月なら勝手に戻ってくると思ってさ。
セシルが、うちの態度が気にくわないって怒って。それでうちが『こんなとこ早く出て行きたい』って言っちゃったんよ…」
私はそれを聞いて、ため息をついた。
「それは、言わないようにって私達が一番気にしてたことじゃん」
言っちゃったことはもうどうにもならないから、仲直りの方法を決めないと。
「とりあえず、青空教室終わったらセシルと話す時間つくるから、仲直りしな」
「おっけ、ごめんな」
私達は青空教室に向かった。
今日は如月と私が、低学年組をみる。アミが高学年組をみるから、セシルと話す機会が多くなるはずだ。
「まさか、アミとセシルがケンカするとはねー」
如月は、ガレキにもたれかかって、地面に絵を描きながら言った。
「え、そう?」
「あの2人仲良いでしょ」
「仲良いけど、性格真逆だからいつか衝突しそうって思ったけどね」
「確かに真逆よねー」
セシルと一番仲良いのはアミじゃない、と如月は付け足した。
「如月×セシルのきさセシの方が王道カプだと思うけど」
「変なカップリングつくるのやめて。オタクっていつもそんなの考えてんの」
「は? オタクではないが、まずなにをもってオタクと定義しているか教えていただきたい」
「そういうとこでしょ…。私とセシル確かに仲良いけどさ、ほんとカップリングみたいよね」
「つまり、そういうこと!?」
小指を立てると、如月は私の小指を払って
「たまに、自分と違うタイプの人と付きあう人がいるでしょ。あれと同じってこと」
ダルたらしく言った。
私はそれを見て、バーのママみたいだな、と連想した。
「違うタイプの人と付きあいたい的な?」
「そそ、刺激を求めて付きあうみたいな。それで趣味だったり、互いのこうなりたいって部分を吸収しあっていく関係に似てる」
私は笑って
「それ仲良いっていう? 共生関係じゃない」
我ながら失礼だな、と思いながら言った。
「それも一種の関係性でしょ。利害関係も友達つくるうえでは、大切でしょ」
確かに、とぼやいた。
如月はやっぱりドライなとこあるけど、結局は利害関係とか無視して私達みたいなアホと付きあってくれるから、温情に深いんだよなぁ。
「もうすぐ私達の番だし、行こうか」
「そうね」
如月は地面に描いたよくわからないキャラを、足で削り消した。
ガレキの山のを過ぎて、教室を見ると子ども達はボールで遊んでいた。
「たった10分の休み時間にああやって、遊ぼうと思えるのすごいよね」
「体力オバケね」
如月と一緒に教室に入る、と子ども達は私達を見て大きな声を出した。
きたー、だの。早く、だの。めんどくさい、だの。ごちゃごちゃ言ってうるさい。
教師はこんなの毎回聞いていたのか…。担任の木原先生ごめんなさい。
「これから授業始めるよ」
如月が自前の教科書を手に、教卓に立った。私は教室の後ろから眺める。
子ども達に算数を教える如月の姿は、様になっている。子どもの対応、教えるのに慣れていて堂々としている。
「如月わかんなーい」
各自練習問題を解いていると、青髪の男の子が手を挙げた。
「どれどれ? 指で数えてみよっか」、と淡々と説明している。如月がひとり教え終わると、また声がかかり、手際よく子どもの問題を教えてあげていた。
──私いる意味なくね。
誰も私に手を挙げないし、質問もこない。同じ家の子ども達は、セシルから元から読み書きは教わっていたから、そこまで苦戦している様子はない。
クレアくんに、「質問はない?」、と念を送ると彼は気づいたのか、手を挙げた。
「如月わかんない」
「私じゃないんかーい」、と小声で言う。
「わかんない」
小声で誰かが言った気がする。
ヨハネちゃんが、私の方を見ながら言った。
「どうしたのぉ? 私が教えて あ・げ・る」
「ここがわかんない」
──やはり私は頼りになる人物だったか。あと、クレアくん後でしばく。
ヨハネちゃんの教科書を見ると、私は驚いた。
「二次関数…。なんで」
──この子10歳なのに、なんで解いてんの???
「ナミタは、結構数字に強いみたいだから、中学卒業レベル解かせてるの」
如月は、私の横に来て小声で言った。
「こんなの!」
「大丈夫、ヨハネちゃんは良い子だから授業もちゃんと聞いて、問題解いてから、自分だけの問題解いてるの」
「こんなの! 私に解けるわけないじゃん」
二次関数なんていつぶりに見たんだろう。理系科目苦手過ぎて、文理選択は文系を選んだ私に対する、試練かなにかか?
「中学生からやり直してきな…」
アミは、私のことをさげすむように言った。




