第12節 猫の手を借りる
歌川視点
「如月ぁ!」
クロノさんと一緒に叫んでも、如月の返事がいっこうに返ってこない。
草むらと壊れた民家だらけで、人がいる気配すらない。
「どこ行ったんだ?」
「待って」
クロノさんが腕を私の前においた。
「どうしたんですか?」
クロノさんはかがんで
「トーテムが貼られている」
地面に落ちていたトーテムを拾った。
「これって如月のですか」
「じゃないね。土のトーテムだ。たぶんこれは、僕がナミタにあげたやつかな」
クロノさんは、使い終わったら捨てるんじゃないよ、とポケットにしまいながら愚痴をこぼした。
「じゃあ、このへんにいるってことですよね」
「そうだと、思う。奥に行ってなきゃいいけど」
「奥に何があるんですか?」
「防衛用のトーテムが置いてあるんだ。トーテムに触れたら火が出るんだ」
「え、それってやばくないですか」
「彼女のことだから、奥まで行かないと思うけど。心配だ」
「ニャー」
あのミケ猫だ。学校の火事があった際に、クレアくんの場所を教えてくれたり色々なことをしてくれた猫、だと思う。柄が似ている。
「意識あるの?」
「ニャー」
「返事くらいちゃんとしてよ!」
クロノさんは、私の顔を不思議そうにのぞいてきた。
「どうしたんだい?」
──私が猫に話かけるヤバい奴みたいじゃん…。
「この猫、実は、ってどこいくの」
ミケ猫はいつの間にか、私達の前を進んでいた。私達を待つみたいに、止まっている。
「とりあえず、こいつについて行けばもしかしたら如月に会えると思います」
クロノさんと一緒に、猫の後をついていく。草が茂っていて、肌にかすれて気持ち悪い。
ミケ猫は止まって、私達を見て鳴いた。
「ニャー」
「見つけたのかな、何もないけど」
周りを見ても草と木だけで、自然が豊かだとしか思えない。いくら如月が方向音痴だからってこんなとこにいるわけ…あるな。新宿で遊ぶって約束して新宿駅に集合したら、如月だけ新宿駅じゃなくて何故か小田原駅にいたってことがあったくらいだ。
「如月―!」
叫んでみると、微かに声が聞こえた。
「どこ?!」
前から聞こえた。そんな気がするから、草を手で払って、前に進む。
「ここ!」
如月の声が下から聞こえ、下を見ると落とし穴にはまった如月がいた。そこまで深くはなさそうだ。成人男性一人分くらいの深さで、広さは男性が二人入れるくらいだ。
「今助ける!」
クロノさんと一緒に、如月を穴から引きずり上げる。
服が汚れているけど、ケガをしていなさそうだった(本人もどこも痛くないと言ってる)。
「本当に心配した」
如月を抱きしめる。
「ごめん、心配させて」
如月も私を抱きしめかえしてくれた。
「どうして、そこにいたの?」
「ナミタと別れて、ムルラックくん? の友達のチャラそうな子とたまたま会って、近道を教わっていたんだけどさ、道に迷っちゃって」
「それで、落とし穴に落ちたんだ。気をつけてよね、炎のトーテム置いてあるらしいから、踏んだら死んでたかもしれないよ」
「え、危な!」
無事で良かった、とため息をついた。クロノさんを見ると、指をあごに組んで、考えごとをしていた。
「どうしたんですか」
「落とし穴なんて、ここにあるなんて聞いてなかったんだよ」
「え、じゃあ誰かが仕掛けたんですかね」
「たぶんね、でも、ここに置く意味がわからない」
ここらへんの警備を強化しておく、とクロノさんが真剣な顔つきで言った。
「本当に心配したんだからね、如月くん。家のみんなも探したんだよ」
「ごめんなさい」
「今度から家の誰かと一緒に行動しなさい。優花くんもね」
「私もですか!?」
「もちろんだよ、君にも何かあったら嫌だからね」
「わかりました…」
特に怪しいことはないけど、ここまで制限されると困る。
「そういえば、あの猫いませんね」
「だね、あの猫のおかげでわかったのに」
「猫?」
「如月が嫌いなミケ猫だよ」
如月の顔が引きつった。
「あいつのおかげで、もしかして助かった感じなの」
「今度会ったら感謝しなよ」
いくら自分の胸のことをバカにされたとしても、命の恩人なんだから…




