第11節 亀裂
アミ視点
クロノさんがうだうだこの国の言葉を言っているのは、わかる。
──ただ黒板に書かれてる文字がなんも読めない。
『 』
──わかんない。日本語で頼むって。トーテム翻訳して
──『うんちぶりぶり』
心の中で、適当に自分の中で翻訳した文字を、あくびしながら見る。
「ありがとうございした」「さよなら」「またね」、と隣の部屋から聞こえてくる。
一応土の壁で、騒音対策みたいなのはしてるけど、ガキ共の声がうるさすぎて貫通してくるな。ところどころ布で遮っているだけってのもあるからだろうけど。
「元気だね」
クロノさんが苦笑いして「それじゃあ」、と続ける。
「今教えた物語の内容とおもしろい点を隣の人に、教えてあげて」
教室中が、何個も椅子を引きずる音が鳴り響いた。
適当に、教室の中を歩いてうちと同世代くらいの子が本の内容と面白かったところを説明している。
──セシルはどうしてんだろ。
教室を見渡して、紫色の髪を肩まで伸ばした奴を見つけてそこまで動く。
セシルは背筋をピンとして相手に話の内容を伝えている。
「うちにも、内容聞かせてよ」
「もう終盤なんですけど」
相手に「もう一度最初から話していい」、と言われてセシルは話す。
「これは、王国建国が至った経緯をおとぎ話みたいにした物語です」
うちは、黙ってうなずいた。
「アンダルシア王国記ってものです」
「へぇ、聞いたことないや」
続きを促すと、セシルは話し出した。
「アンダルシアという男は食事をするのにも、毎日必死にゴミ箱を漁って食べるしかないくらい貧乏でした」
「ですが、彼は自分の幸福よりも他人の幸せを優先して、ケガの治療などを行いました。そんな彼を気味が悪いと、村を追放されてしまうんですよ
山奥で、生活していると獣みたいな人間と出会いました。
こう言われました『食料を出さなければ、お前を殺す。出せば、お前の言うことを何でも聞く』、と。
それで、アンダルシアは自分の右腕を、獣の人間に食べさせるんですよ」
「ちょっと待って! グロすぎだろ!」
「話を遮らないでください。ここからがおもしろい点なんですよ」
「あ、はい」
セシルは咳払いをして話を続けた。
「獣の人は、アンダルシアの右腕を食べた変わりに、彼に魔法を教えてあげました。教わった魔法を使って、アンダルシアは様々な村の人を助けてあげました。
そんな彼に、色々な人がついていき小さな村ができて、そして国にまでなりました」
「へぇ、そうやってこの国作られたんだな」
「だから、人の話を遮らないでください…」
セシルの隣の席の男の子が笑った。魚屋の息子だったはず。肌が焼けて黒くて、髪の毛は黒色だ。そいつが笑い終えて言った。
「セシルって意外と話すんだな」
「いえ」
セシルは恥ずかしそうに否定した。
「照れんなよぉー」
ひじで、セシルのことを突っつくと
「叩きますよ」、とにらまれた。
手を叩く音がして、振り向くと
「じゃあ、時間だから次に進むね」
クロノさんが黒板に文字を書いていく。
「アミさんのせいで、最後までできなかったじゃないですか…」
「ごめんって」真面目だなぁ。
教室の後ろに行って、授業を聞いた。
クロノさんは思っていたより丁寧に説明していて、わかりやすい。
授業を聞いてる子は、寝ている子はいない。勉強できるのが、貴重だからか緊張しているからかもわからないけど、みんなちゃんと聞いていた。
授業が終わり、机と椅子を片づけていると、セシルが近づいて「手伝います」、と言った。
「如月さん来ませんでしたね」
「それな。あいつしばくわ」
「たぶん、ナミタと一緒に遊んでいて時間の経過を忘れてしまっていたのでしょうね」
机をセシルと一緒に、一個ずつ持ち運びながら
「王国の話教えて」
と、授業中に聞いた話を聞いてみた。
「アンダルシアが腕を食べられてからでしたね」
そそ、と相槌をうつ。
「魔法でアンダルシア王国は、発展していきましたが、いつまでも上手くいくわけではないんですよね。獣の人が、悪魔だと村の人から悪魔だと揶揄されてしまうんですよ」
「へぇ、なんで?」
「王様の腕を食べたって話が広まって、魔法を教えたのも彼ですからね」
セシルは、机を持ち直して話を続ける。
「アンダルシアは、獣の人は悪魔ではないと弁明しましたけど、誰も信用してくれませんでした。
アンダルシアはそんな国民に激怒して、自分の国を魔法で潰そうとしました。5人の勇敢な家来達が、アンダルシアと獣の人を倒して、平和が訪れました」
「で?」
「おしまいですよ」
「バットエンドじゃん!」
うちが置いた机の上に、セシルは持ってきた机を乗せて一息吐いた。
「あまりよろしくはない終わり方ですけど、アンダルシアと獣の人の関係が素敵だと思うんですよね」
あまり共感できなかったけど、なるほど、相槌をうって
「でも、なんで国の名前変わらないんだ? 国を裏切った奴の名前じゃん」
「5人の家来が、国王に仕えていたのもありまして、慈愛に満ちた行動を称えるというのも含めまして、国名を変えてないらしいです」
「意外と、国の歴史っておもしろいんだな」
日本のことは興味ないのにな、と付け足す。
セシルは、一か所に集められた机と椅子を見ながらため息をついた。
「あと少しですので、がんばりますか」
「えー。てか、なんで片づけなきゃいけねぇんだよー」
「子ども達の遊び場にもなってますし、そのまま放置ってのも、見栄え悪くないですか」
「わかったよ…」
机と椅子の整頓を終えて、家に戻ると玄関まで慌ただしい足音と声が聞こえてきた。
「ただいまー。どうしたんだよ」
「如月が返ってきてないの」
歌川が焦った様子で言った。
「まだ、あいつ帰ってきてないのかよ」
もう外は、日が落ちてきて暗くなっていたから少し心配だけど。
「もし何かあったらどうしよ。私探しに行ってくる」
歌川が走りだした。腕を掴んで止める。
「待てよ、みんなで探そうぜ」
「そうだね」、と落ちつくためか深呼吸をした。
「如月くんの居場所に心当たりがある人いるかい?」
クロノさんがみんなに声をかけるが、ほとんどが首を横に振った。
「ナミタ探しに行ったんじゃなかったっけ」
うちが、そう言ったとたんに玄関から「ただいま」、声が聞こえた。
みんなで玄関まで行くと、いたのは如月じゃなくてナミタだった。
「ナミタかよぉ」
「なに? 勝手に。死んで」
クロノさんがナミタの肩を掴んで
「如月くんの居場所知っているかい?」
と、いつもより真剣に言った。
ナミタは、目を見開いた。
「あいつまだ帰ってきてないの?」
「ああ、ナミタ何か知らないかい」
「昼にあいつが学校戻るって言ってたけど」
「どこらへんだ」
「わたしがいつも描いてるとこだけど」
クロノさんはそれを聞いて、走って外へ出た。
「クロノさん!」
歌川もクロノさんの後を追いかけて、出ていった。
「うちらも探すか」
子ども達と一緒に、村の人にも如月をみていないか、聞いてまわったけど、見つからない。唯一あるのが、ナミタの証言だけだ。
「あいつどこ行ったんだよ。ナミタ他には知らねえのかよ」
「わたしが知るわけないでしょ」
「あいつなら、勝手に戻ってくるべ」
ため息をつきながら、言った。
「なんですか、それ」
「え?」
セシルがうちをにらんでいた。
「だから、友達がいなくなったのになんでそんなに、能天気でいられるんですか」
「心配だけど、あいつのことだからどうせ道に迷ったとかそんな感じだろ」
「ここは、異世界なんですよ。あなた達がいた日本って場所じゃないんです」
「なんだよ。じゃあ、居場所わかんのかよ。必死に探せよ。異世界なんだから、魔法で解決してくれよ。なぁ」
「探しますよ! あなたも探してよ」
「どこを? 何時間探したよ、もう2,3時間探したろうが」
「それでも探しなよ! 見落としているかもしれないじゃない!」
「どこをだよ! 言ってみろよ!」
「だいたいあなたは、歌川さんが刺された時も能天気だったけど、そこまで大切に思っていないんですか」
「大切に思ってるに決まってんだろ。あと話関係ねぇだろ」
「なんで探さないんですか、もしかしたら部族がさらったのかもしれないのに。大切なら、歌川さんが刺された時ももっと」
「探すって。なんでうちらがこんなところに来て、こんなめに合わなきゃいけないんだよ。早く元の世界に帰りたいって。みんな大切に──」
言ってから気づいた。言ってはいけないことを。
セシルの顔を見ると、目を大きく開けてショックを受けていた。
そして、涙をこぼして手で顔を隠した。
「ちょっと」
ナミタがうちの服を引っ張った。
「な、なんだよ」
「落ち着きなさいよ、他の子も怖がってる」
周りを見ると、子ども達が怖がっている。
「ごめ、」
セシルに言おうとしたら、走って去っていた。
──こんなこと思っていなかったのに。なにやってんだよ。
かがんで、ため息をついた。




