第10節 青空教室 開催
歌川視点
「如月の奴どこ行ったんだよ」
アミは右往左往したり、貧乏ゆすりをしている。教室の壁として棒と棒の間の紐で吊るされた無地の白い布もそれに呼応してせわしなく揺れている。控室には、私とアミしかいないからって、落ち着きがないのは良くはない。
「遅いね、この後の授業如月がやるのに」
「歌川やれば?」
「え? 嫌だよ、私人前出るの苦手だし」
「だって、うちは高学年組の授業の手伝いしなきゃだし。お前しかいねぇだろ」
「えー、嫌だ嫌だ嫌だ!」
「駄々こねんなよ、さっさと行くぞ」
アミは、高学年組の仕切りをまたいで、姿が見えなくなった。
──本当に私がやらなきゃいけないのぉ。
だって、人前出ると声とか手が震えるし、あがり症だから如月に算数の説明お願いしたのにさぁ。
「優花ちゃん」
「どうしたの? ヨハネちゃん」
仕切りをくぐって、小走りに10歳の女の子がきた。かがんで、ヨハネちゃんと目線を合わせる。
要件はなんだろうか。呼び出しではなければいいのだけれど…
「みんな待ってるよ?」
「う。イマカライキマス」
低学年組の仕切りをまたぐと、子ども達の目線が私に向いた。
「どうも~…」
後ろかた背中をつつかれて、振り向くとヨハネちゃんが「がんばって」と小声で言った。自分の席まで小走りで移動した。
深呼吸をして
「皆さん。こんにちは」
「こんにちは」
子ども達が緊張しているのが、声と様子でわかった。
ヨハネちゃんと目が合って「が・ん・ば・れ」、と口を動かした、気がする。
──自分より年下の子に励まされてどうすんだよ。
ほっぺたを叩いて
「みんな~。声が小さいなぁ! こんにちは!」
とさっきより大きな声で、はっきりと言う。
「こんにちは!」
何人が返事したか、わからないくらい返事が返ってきた。
「私の名前は、う・た・が・わ・ゆ・う・か、です。
よろしくお願いします!」
黒板に名前をアンダルシア語で書く。セシルから教わった、簡単な文字を書いて、自己紹介を済ませる。
「知ってるー」
服をパツパツに着ている少年が言った。
知っているも何もこの子は同じ家だろうが。
「カガミは、同じ家だからね」
「知ってるよー、市場で会うよね」
何人かの子ども達が言う。彼ら彼女らが言う通り市場で挨拶を交わしたり、買い出しをした際に会う。
「そうだね、じゃあ」
パチン、と手を叩いて
「今から算数の授業をしたいと思います!」
子ども達は、ポカンと動きを止めて、静かになった。
「手はどこかなー?」
子ども達が膝の上に置いたのを、確認して声かけをする。
「これから、算数の授業をします!よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
大きな声で返事が返ってきた。
ここからは、順調だった。子ども達に数の数え方を教えて、私の担当は終わった。
「みんな、がんばったね! これで今日はおしまいにします! ありがとうございました!」
子ども達は、私の前に一列になって、スタンプカードを持って並ぶ。それにミニキャラとサインを描いて、お別れの言葉を言っていく。
──如月戻って来なかったな。大丈夫かな。




