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路地裏の圏外 ~操り糸の役者~

作者: サッソウ

「映画の撮影? なんで俺たちが駆り出されて……」

 魔法が使える少年、シェイは現場に着いてから文句を言っていた。

「そんなこと言わずに、お手伝いをお願いします」

 シェイに対して腰を低くお願いするのは熊沢である。彼は熊になる前は人間であり、芸人であった。シェイが詳細を聞かずに現場に来たのは、同じく魔法が使え、紅色の頭巾を被った少女、フロールからの誘いだったから。もともとは、撮影見学と聞いていた。

「映画って、どんな映画かな?」

 フロールはファンタジーやアクションといった有名な作品のシーンを思い浮かべている。

「アクション映画ですね。映画と言っても、劇場上映ではなく動画サイトにアップするそうですが」

「動画サイト?」

「若い監督さんで、1時間半前後の映画作品を何本も作っているそうです。今は動画サイトに投稿していて、いつかは自分の手で劇場公開できる作品に携わりたいという夢を追い続けている真っ最中ですね」

 プロになる前の監督さんのようだ。熊沢から聞くところによると、栗鼠山から話を聞いて、我々が協力できないかと、1人で先走ったらしい。

「こんにちは」

 と、その監督が元気に挨拶にきた。背丈はシェイやフロールと同じぐらい。キャップを逆に被っており、野球少年のような印象を受けたが、ボーイッシュなファッションをしているだけで、18歳の格好いい少女だった。

「ボジュラ・ユーマ。将来監督になるから、よろしく」

 志は高く、明るい性格である。フロールは早速自己紹介をして、2人で仲良く打ち解け合う。シェイも短く名乗って、周囲を見渡しながら

「ところで他のスタッフは?」

「いないよ。基本、ボク1人だけど」

「なら、キャストは?」

 スタッフがいなくとも、出演者はいるはずだ。アクション映画ならばスタントマンのような演者が必要だろう。

「それが……、熱が出て来られないって。今日がクランクインの予定だったものの、場所は今日しか借りられないし……。それで、困ったていたときに、リスが現れて」

 リスとは栗鼠山のことだろう。栗鼠山が話を聞き、それから熊沢に話が流れて、シェイとフロールが選ばれたようだ。

「お嬢ちゃんと、シェイ君。若き監督のお力添えをお願いします」

 熊沢が頭を下げ、それを見たボジュラ監督も帽子を外して、頭を下げた。「どうかお願いします」

 もう断れない状況なのは分かっている。フロールは乗り気のようで、判断はシェイに任されそうだ。

「顔出しは、親の許可なしでできないだろうが、どう撮るんだ?」

 フロールを出演するには、親の許可が必要だろう。シェイ本人は、出ても出なくてもどちらでもと、投げやりのようだ。

「顔が映らないように出ればいいのかな?」

 フロールは顔さえ映らなければ大丈夫だと思っているようだが

「そういう意味で言った訳じゃ無くて……」

「魔法でなんとかならないですかね?」

 熊沢が魔法を便利な手法のように提案すると、シェイは

「どうやって?」

「魔法で自分の見た目を変えるとか」

「それ良いかも」

 フロールは熊沢のアイデアに賛同したが、ボジュラ監督は表情を曇らせ

「それは厳しいと思う。もしもその姿が世界のどこかにいる誰かに偶然似ていたとしたら、問題になるかもしれない。映像作品だからこそ、リスクは負いたくない」

「俺もそう思う。もしも知らないところで自分に似た人がいて、それが悪役だったらどう思う? それが素の姿であれば、似た人がいるんだなって考えるだろうが、作り上げたとなれば面倒なことになりかねない」

「そんなの偶然だと言えば……。いえ、軽率でした」

 熊沢は反論せずに、2人の考えに理解を示した。熊沢も芸人としてメディアに出ていた。権利関係は間違えば命取りになる。仮に、偶然似ていた人がどこかの国や街で有名な人や政治家、犯罪者だったらどうだろうか。自分の肖像権を主張してくるおそれがある。考えすぎかもしれないが、世界の誰もが見ることの出来るインターネットで公開するということは、余計なリスクは背負いたくない。ただ単純に、フィクションの映像作品として見て欲しいだけなのに、意図せぬ事に巻き込まれることもある。

「かと言ってオリジナルキャラクターも、類似がないか確認しないといけないですし……。二次創作やパロディならまだしも」

 熊沢は別の策を考えつつ、シェイは方針変更について

「前提として、大幅なキャスト変更は脚本が崩壊する……。もともとはどういった作品を?」

「世界中に公開する上で、字幕翻訳は設定しつつもなるべく最小限の台詞で撮影するために、脚本よりも絵コンテに近いかな。それとロングテイクの一発撮りをしているけど、今日は役者が休みの段階で考えてない」

「ロングテイク?」

 フロールが首を傾げ、熊沢が分かりやすく解説する。

「ドラマや映画の撮影技法のひとつで、長回しですね。最初から最後まで演技を続けて、カットせずにカメラで長時間撮影を続けることです。場面転換や目線を変えて、カットすることが一般的ですから」

「人形でも成り立つのなら、真っ黒な人影でやるのもひとつか……」

「そんなことが可能なんですか?」

「魔法で人形を出して、操ればなんとか」

 シェイは魔法で黒い人形を数体作り出す。フロールもそれを見よう見まねで作り出してみる。なんとなくで出来てしまうフロールに、シェイに続いて操り糸を出す。

「シェイ君の出した人形、どこかで見覚えがあるんですけど」

「分からないようにしたつもりだけど、まだ面影があるか……」

「いえ、絶妙に似てないからこそ思い出せないのかなと思います」

「熊沢、それは褒め言葉なのか?」

 シェイが腕を振ると人形についた操り糸がピンを張る。すると、人形が立ち上がり、糸が次第に見えなくなる。シェイが出した人形は、顔の凹凸を減らしているが、熊沢がなんとなく雰囲気で察したようだ。

「アクション映画って話だから、動ける人で考えたら、思い浮かんだが……それだけ」

 シェイが思い浮かべたのは、(つるぎ)使いのケンとアキラ、ヤイバ、ハガネ、4人の少年だった。かつて協力した異国もしくは異世界の仲間たち。

「糸は切るとコントロールを失うから見えなくしただけで、繋がってはいる。だから」

 シェイはフロールに、操りの糸は切らないようにと忠告しようとしたが……

「シェイ君。どうしよう……切っちゃった」

「切った……?」

「うん……」

 すると、フロールの出した4体の人形がカタカタと動き始める。フロールはシェイが糸を消したことに気付かず、切ったと誤解したようだ。

「シェイ君。あれ、どうなるんですか?」

 熊沢はフロールに聞こえないように、シェイの耳元で聞くと

「操られたことを根に持って、召喚者へ襲いかかってくる」

 人形が一斉にフロールの方へと走り出す。熊沢は身の危険を察知して、周囲を見渡す。撮影現場は山奥の採石場。格安で購入や譲り受けた野外セットを組んでおり、エキストラはいない。この場にいるのは自分達だけ。大通りのセットで暴走する人形との戦いが始まった。

「手っ取り早い方法は、人形を壊す」

 シェイは炎の魔法で人形を焼き払おうとするが、人形はそれを予測していたかのように避ける。

「セットは壊しても構わない!」

 ボジュラ監督は急いでカメラを回す。シェイやフロールが映らないように考えながら、人形をアップにする。

 シェイはボジュラ監督がカメラを回したことに気付き、

「熊沢は監督を守ってくれ。本当はフロールがサポートできればいいんだが、狙いがフロールだからな……」

「無茶だけはしないでくださいね」

「相手が相手だけに、約束できないな……」

 フロールの魔力がどこまで注がれているか分からない。シェイは、自分が出した4体の人形へ指示を送る。

 人形はそれぞれ剱を持つ。動きはシェイから見た4人それぞれの特徴が出ており、フロールの出した4体の人形へそれぞれ立ち向かう。

「モデルは?」

 フロールに聞くと、首を横に振った。想像した人物のようだ。ならば、仮で名前を振る。Doll(ドール)の綴りからディー、オー、エル、エルツーの4体。

「先に説明しておくべきだった……」

「シェイ君、ごめん」

「いや、俺もリスクを承知で安易に出すべきじゃなかった」

「どうすればいい?」

「方法は壊すか、もう一回操りの糸を張るか。どっちも一筋縄には……」

 フロールとシェイは気合いを入れ直し、一呼吸。

「まずは1体を集中攻撃する! 残りの3体は、彼らに任せるぞ」

「フレイム!」

 フロールのが炎の魔法を唱え、一番手前の1体、ディーを狙って火柱が上がる。シェイは燃えるネットを展開し、フロールの攻撃が全てヒットするように束縛する。

 一方、ケンとアキラは2人同時にオーへ攻撃を仕掛ける。大きく腕を振って剱で斬りかかると、オーは体を捻り、回し蹴りをケンへ喰らわせる。アキラの振った剱は、命中しオーの右腕を落とす。

 ハガネが戦うエルは、魔法を使って針を繰り出す。無数の針がハガネを襲うが、ものともせずに突き進み、片足を斬る。

 ヤイバは霹靂神(はたたがみ)の宝玉を剱に填め込むような仕草をして、全身を電撃が覆う。本来はライトニングソードから、小さな雷のような火花が出るぐらいで、全身から電撃が覆うレベルの使用は行っていない。シェイの解釈によるものか、リスクを顧みない人形だからなのかは不明。とはいえ、これにより剱が届かなくても、憑依した雷がカバーして、大幅に攻撃範囲を広げることとなる。ヤイバは短期決戦を仕掛け、雷撃を受けたエルツーは痺れて攻撃や防御の行動が鈍くなる。

 モデルとなった4人の連携が上手く刺さったのは想像以上だった。もしかすると、ケン達がいずれか1体以上を倒すかもしれない。もし倒せなくても、非常に良い時間稼ぎになっており、シェイとフロールはディーへの攻撃に専念する。

 ディーは炎の網を両手で引きちぎると、燃えたままこちらに向かってくる。

「炎が効かないのか……?」

 フロールが無意識に作り上げたとはいえ、何かのモデルがいるはず。単体では無く混ざり合ったことも考えられる。映画や漫画の登場人物の特性を持ち合わせていることも考えられるが……。

 シェイとフロールは、水や風といった魔法を繰り出すも人形は止まらない。マズいと感じたシェイは、操りの糸でケンとアキラに指示を飛ばす。ケンとアキラは、オーへの攻撃を中断してディーの背後から攻撃を仕掛ける。しかし、フリーになったオーがケンの頭へ跳び蹴りからの回し蹴りを与える。ケンは諸に攻撃を受けて、地面に転ぶ。さらにオーの攻撃が続き、ターゲットはケンに対してではなく、ケンとシェイを繋ぐ操りの糸を目がけて攻撃する。

 シェイは、目の前にまで近づいてきたディーの対処に必死で、ケンに対するフォローが間に合わない。アキラはシェイの指示に従って、剱を下から上に振り、ディーの両腕を切り裂く。

 人形とはいえども、シェイとフロールは人形に対して部分破壊や切り落とすといった攻撃に躊躇し、バラバラにすることなく止めようとしていた。

 アキラは攻撃を継続し、ディーを背後から切り裂きバラバラに。地面に人形の部品が転がると、次第に消えていく。

「斬るしかないか……」

 シェイがそう呟いたが、人型を斬るには抵抗がある。まるで人を斬るようで、怖い。人形が人形を斬るのは平気だが、自分の手で切り裂くことができない。

 ディーを倒したのを確認したあと、シェイはケンに対する操りの糸が切られたことに遅れて気付いた。エルツーはヤイバが雷撃でとどめを刺すところで、エルはハガネが捨て身の攻撃で相討ちだった。ハガネが消え、ヤイバは短期決戦で消耗が激しく残りの活動時間は限られている。残る敵はオーのみだが、糸の切れたケンが敵側に回るだろう。つまり、2対2の構図になる。

 ヤイバとアキラがオーの正面と背後から同時に攻撃を仕掛けると、オーはしゃがんで攻撃を躱し、機敏に動く。これまでの動きを見るに、まるで格闘家のようだ。(かわ)されたことでヤイバとアキラの剱が交錯し、雷撃がアキラに当たってしまう。

 フロールは、魔法で蜘蛛の巣のような粘着性のある網でオーの機敏な動きを抑制させる。攻撃する絶好のチャンスではあるが、ヤイバの動きが鈍くなり、アキラは雷撃ですぐには動けない。

 シェイは2人の体力がもう残っていないことを理解してはいるが、自分の手で斬れないため2人に命じるしかない。

 自分が出来ないことをフロールに押しつけるわけにも行かず、オーが網から脱出して、ヤイバへ右手で突きと蹴りを入れ、とどめを刺す。さらに、そのままアキラの方へ。シェイは、操りの糸をケンのように切られるリスクがありつつも、新たに人形を出すか悩みつつ、手を(こまね)く。

 オーは空手のように構えをして、アキラの方へ走り出す。アキラはようやく動けるようになったが、動きが鈍い。このままオーの攻撃が直撃すれば、アキラもやられるかもしれない。どうすべきか考えてはいるが、焦って考えが纏まらない。

 アキラの方へ向かったオーが、突然その場に転んだ。オーは起き上がる前に、転んだ原因である足元を見ると、ケンが足を掴んでいた。ケンの持つ剱が輝いている。ヤイバと同じように宝玉を填めてパワーアップした状態だ。

 ケンは声は出なくとも、僅かながら口元が動き、半輪白雷斬(はんりんはくらいざん)を繰り出す。剱の先端から、半月状の白い刃が、白い雷を纏ってオーを真っ二つに斬った。

 ケンは最後の一撃に全力を振り絞ったようで、オーを斬ったあとはその場に倒れて消えていく。倒されたオーも消えると、それを見届けたアキラも限界に達して、消えていった。全ての人形が消え、騒動が終わりを迎えた。

 シェイとフロールは、状況を飲み込むまで少し時間がかかった。暴走すると思われたケンが、シェイを襲わずにオーを斬って限界に達した。

「これは、モデルに助かったな……」

 シェイは、ケンの人柄が人形にも現れたのかもしれないと思った。シェイから見て、仲間を想い行動していた印象があり、そう思うことにした。

 ボジュラ監督は最後までカメラを回しきり、

「一時はどうなるかと心配したけれど、面白いものが撮れたな」

「さっきの使うんですか?」

「編集して演出を足せば、さらに良い映像になると思うな。ノンフィクションだからこそ、フィクションに見せないと……」

 事故を撮影したとなれば、それはそれで問題になる。今回の件は扱いに注意しつつ、映画に盛り込むようだ。

「でも、脚本からかなりかけ離れて……」

「そこは上手くやるよ。危なくない程度で、撮影をしたいんだが頼めるかな?」

「また同じ事にならないように、フロールとそれぞれ1体ずつにしようか」

 シェイはそう言って、先程よりも少ない魔力で人形を作り出す。

 その後の撮影は問題なく進み、翌週には本来の演者がクランクインを果たし、撮影が続いたそうだ。

 撮影は始まったばかりであり、撮影映像を編集して、実際に動画サイトへアップされるのはかなり先の話である……


To be continued…


4年目の『路地裏の圏外』は短編。当日書き上げてなんとか間に合いました。

本人以外で同名のキャラが出るパターンはあまりないので、紅頭巾の世界に黒雲の剱のキャラを出演させる形で考えた結果、映画撮影になりました。

フロールとシェイが人形を斬れなかったのは、人を斬るような気がしてできなかったようです。フロールとシェイが容赦なく斬るイメージは確かにないし、そんな子には育って欲しくないな……。黒雲の剱キャラは、斬らねばやられる世界なので環境が違いますね。

ちなみに、レドランが登場していないのは作者が忘れていたためです。すまぬ。

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