四話
ーーーーーーーーー
名:なし
性:女×3
種族:グレイドッグ
身体能力
戦闘能力:5
100m走:6.53秒(平均値)
固有スキル:なし
キル数
人間種:合計2
亜人種:0
動物種:各約5000匹
ーーーーーーーーーー
ーー頭噛まれるまで5秒前
やべぇ。このワンちゃん達、人殺してんじゃん。じゃあ人間の味覚えてんじゃん。つまり食われんじゃん。ウンチになるじゃん。汚ねぇ。Q.E.D。証明終了。
ていうかキル数というのはこう表示されるのか。参考になった。
そうすると、キル数に人間種が出ているヤツがいたら全力で逃げれば良いというわけか。オーケー理解。アイムアンダストゥッド。アイアムパーフェクトヒューマン。
ーー頭噛まれるまで4秒前
しかしあれだ。私は常々自分のことを不幸な人間だと思って生きてきた。
何をやってもうまくいったことはないし、私が生きていた環境に『良い人』というのはおよそ見当たらなかった。
だから多分、自分は不幸の星の下に生まれ、決して逃れられない運命なんだろうなと薄ぼんやり思っていた。
それが今確信に変わったよ。
だって転生初日に人食い犬に襲われるとか何よソレ。
しかもこちとら100m走1時間以上かかるゴミクソ雑魚雑魚赤ちゃんやぞ。とれる手段といったら天使の笑みで骨抜きにするか鳴き声で攻撃力下げるしかねぇぞ。どっちも効きそうにねぇぞ。
果てはピンチすぎて時間がゆっくり流れる現象に陥っている始末やぞ。
なんだお前こら。口をぱっくり開けながらゆるゆると宙に浮いてきやがって。純度100%の凶暴さがゆっくりと眼前に迫ってきやがって。おらコラ。コンニャロばかやろう。こんにゃろめが。オラオラ。
…なんだこの現象。めっちゃ怖ぇ。
ーー頭噛まれるまで3秒前
こんだけ時間がゆっくりだと走馬灯も捗るってもんだね。
どうせなんだし前世の私のことについて少しだけ話しておこう。
私はどこにでもいる女の子だった。
どこにでもある都内のどこにでもいる核家族のどこにでもいる長女として育てられ、これまたどこにでもいるワガママな弟の世話に追われてきた。
父も母も良き社会人ではあったかもしれないが、良き親とは言い難かった。基本的に放任主義で重要な場面においても特に手助けをしてくれない。そのくせ小さなことにこだわって、理不尽な理由で叱られることもしばしば。
世間体を気にするくせにそれを表立っては出さない。ただ無言の圧力で分からせられる。
私はそんな中途半端なプレッシャーの中で育てられてきた。
ーー頭噛まれるまで2秒前
小さい頃は比較的私の方を気にかけてくれていた。と思う。
けれど私が名門中学受験に失敗すると、二人の興味は俄然弟に向かっていった。
それは弟が名門中学に入り、名門高校に入り、超難関大学に入るまで続いた。その後もずっと続いたと思う。多分、私が死ぬまで続いた。
子供にとって最大の幸福は親に愛されることだ。
子供にとって最大の不幸は親に興味を持たれないことだ。
何をやっても、何を話しても、適当に相槌を打つだけ。冷めた表情、合わない目、淡々とした声のトーン。それが毎日。毎日毎日、同じ対応。応答。
自分に関心を持っていないことなど、気づくための証拠は有り余る。
ある日を境に、私は自分を滅するようになった。
頑張っても苦しいだけなら、頑張らなければ良い。
たったそれだけの話だった。
ーー頭噛まれるまで1秒前
でもそれは、きっと普通のことなのだろう。
どこの家でもある、ごくごく普通の日常なのだろう。
教育を全く放棄されたわけではなかった。一応、一般的な家族のふれあいというものもありはした。だから全然マシな方。全然普通の一般家庭程度の日常だ。
そうだ。私がただ人一倍傷つきやすかったというだけなのだ。
他人よりも大人ではなかったと、そういうだけの話なのだろう。
両親に対してこんな醜い感情を抱くのは、きっと私の心が醜いからなのだろう。
でも、そうだとしても。
ーー0.5秒前
そんな感情は理不尽なのだとわかっていても。
ーー0.2秒前
それでも私は
ーー0.1秒前
憎んでしまうほどに、二人から愛されたかった。
『ガブッ!!』
っっっあ゛痛っっだぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あああああ゛!!!!!????