序
花が開いた。
朝露に濡れそぼった花びらが、ゆっくりと顔をあげる。
「ほら、マルンだよ」
姉の声が聞こえた気がした。
優しくて勇ましい、私の憧れ。’太陽’というのは少し言い過ぎだけれど、私の大好きなひと。
なんだっけ。私はなんでこんな所にいるんだっけ。
私はここで何をしているんだっけ。
おぼろげな意識の中で過ぎ行く毎日。
起床、通勤、電車に揺られ、パソコンの前へ。ご飯、パソコン、電車、ご飯、SNS、就寝。
毎日毎日繰り返し。
地縛霊というのは一ところに対して強い執念を持っているからこそ生まれるらしい。
強い執着があるからこそ一つの場所に拘束されているのだという。
私も一ところに縛られている。そういう意味では私は地縛霊だ。
けれど、私は『それ』に執着などない。
ただ過ぎ行くために留まっている。
何もなく過ごすために、動かないでいる。
違う
動けないのだ。
指一本、動かせないのだ。
なぜだろう。
なぜ。
……
「……」
「怖かった、のかな…」
薄れゆく意識の中、そう呟いた。…気がした。
冷たい深海、私を取り巻く綺麗な魚たち。
これを天国だというのなら、そうなのかもしれない。
地獄だというのなら、それも否めない。
正直どちらでもよかった。
どっちであろうと構わない。
だって
だって、私にとってそれは……