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月神の矢。

《side ホタテ》



 北も南も敵主力を撃破したあとは各方面にそれぞれ三千の小角が雪崩れ込む。小さく軽い小角と言えどこの数の差があれば問答の必要もなく、一方的な展開に至る。もはや勝ち戦ではあるが、敵の本陣は中央である。少し高い丘を作り、そこにたった二人、カツオノとエボシが立っておる。


 二人だけを立たすのは危険なようだが、実際には二人の周りに立つ方が危険ゆえ、仕方なきこと。


 敵の本陣が視界に入るまでわずかな時間、小角の魔法部隊が敵を押し止めておる。アカがヒャーハーとかいいながら魔法を乱打しておるのは見てやらぬのが優しさであろうか。おそろしや。実はアカが小角一番の戦士かも知れぬのだ。普段はおっとりしたものなのだが。


 そのアカの夫、エボシはカツオノの弟である。最近までふてくされ仕事をしていなかったカツオノを支えていたのはなにも兄弟だからゆえではない。それもあろうが、エボシにとってはカツオノは今だ英雄であるのだ。


 かつては二人の合技にて敵を一掃し、戦を勝利に導いたこともある。その戦のおり、カツオノは味方を殺してしまい引きこもるようになったのだが、それでもエボシにとってはカツオノは偉大なる兄であったようだ。


 我々やカツオノがカツオノエボシ砲と呼ぶ技も、エボシだけは月神の矢と、敵側の呼称で呼んでおるのがエボシのカツオノへの憧れの現れであろう。カツオノはこれより一人敵陣に飛び込むゆえに。


 エボシの授かった御技は投げたものが必ず思うところに当たるという技だ。後ろに投げるとさすがに当たらぬが敵に向かい投げれば、視認範囲なら確実に当てる。


 これにより兄、カツオノを敵に投げつける。これが合技、カツオノエボシ砲。


 カツオノの御技は月狩(がっかり)、その身を中心として広範囲の物質を打ち砕きチリに変える魔技とも呼ぶべき技よ。崖などを抉れば本人さえ危ないことがあるのだ。その技を発揮しておるうちは身動きが取れず、技を切れば敵の魔法や弓矢にさらされる。そのカツオノを敵陣に投げ込むのだ。弟のエボシにしては恐怖の技であろう。しかしカツオノ自身はそれが最も自分の御技を安全に使用する方法だと心得ておる。


 ゆえにカツオノは英雄なのだ。百年ただの無職だったが、あの戦を知る者はからかいはしても責めてはおらん。本人に立ち直るきっかけさえあれば良かったのだ。ゆえにユーミには感謝しておるのだ。カツオノにきっかけを与えてくれたゆえに。


 中央の間道に敵が押し寄せてきた。敵側にはこちらの切り札の情報は伝わっておらぬようだ。むしろ伝わっていても動かねばならぬ理由があるのかも知れんな。戦は無情よ。戦場(いくさば)に出てきた以上、しとめねばならぬ。


 ちらりと遠目にカツオノたちをみやれば、どうやら覚悟を決めたようだ。エボシも泣きそうな(つら)で歯を食いしばっておるな。


 風を集め音を拾えば、カツオノの声が聞こえる。


「小角族を襲おうとはふてえやつらだ。ちーと痛い目見せてやろうぜ、エボシ!」


「兄者……無理ならば兄者のみ行くことはない」


「無理なんか全然ねえよ! これが俺の一番の戦い方だろ! 頼んだぜ、兄弟!」


「分かった。……覚悟はいいな、兄者」


「おうよ、カツオノ」


「エボシ砲」


「発射!!」


 うおう、という叫びと共にエボシの御技、的当(てきとう)が唸り、カツオノの軽くはない体が敵陣に飛んでいく。敵に当たる直前に展開したカツオノの月狩の結界は触れるものをたちまちチリに変えていく。


 エボシの的当は遮るものを無視し、敵の本陣のみを狙い打つ。その狭間にあるものの不運よ。魔法も鎧もスキルも、問答無用。すべては月神の力によりチリとなる。


 戦争はこの一撃で終わりであろう。あとはカツオノを拾いにいってやらぬとな。


 あとの始末はユーミたちがつけてくれるであろう。では、現場上空のユーミさーん! ……こういえと言われたのだ。あとで遊んでもらう約束ゆえに。た、戦いのあとは休息が必要なのである。





 うわー、エグい。上空から噂のカツオノエボシ砲を見てみようと待機していたんだけど、聞いていた以上に凄まじい技だ。間道に集まった兵どころか間道脇にある木も岩も土もすべてチリになっていく。怖いぞこれ。敵の本陣まで一人も残さず死んでいった……。声すら発せず、痛みすら感じる間もなかっただろう。


 ……カツオノさんがニートになった気持ちがわかるな。理不尽すぎる強さだ。下手をすればその力が味方にも及ぶとなれば怖くなるのも仕方がない。


 それでも小角族を恒久的に守るために、カツオノさんは自らを鬼に変えた。おそらくはラグラ男爵領の人たちにカツオノさんは恨まれ続けるだろう。そしてそれを覚悟の上でカツオノさんはあの技を使ったのだ。


 ……なに、カツオノさんだけを悪者にしやしないよ。このために準備してきたからね。


 私は【セット:飛行スキル】により、ラグラ男爵領へと飛ぶ。


 ラグラ男爵の城の上空から拡声してその周辺の人々に伝える。


「ラグラ男爵領の皆さん、こんにちは。こちらはユーミ・カワハラ。ユーミ帝国女皇帝です。今からラグラ男爵の館は跡形もなく消滅します。三十分以内に避難してください。逃げ遅れた場合の責任は一切負いません。死んでもらいます」


 人を殺すのは嫌だねえ。でもカツオノさんはやったよ。小角族のために自分を悪者にしたんだ。私のやることなんてぬるいもんだ。こうやって警告してるんだから。


 【セット:永遠落下スキル】で溶岩の塊を加速していく。熱量は収納と取り出しを繰り返して維持しつつ、溶岩の塊は音速をはるかに超えていく。見えてる人の八割は逃げ出し、二割は上空二百メートルを飛んでいる私に矢や魔法を放ってきている。無駄だけどね。届かないし届いても収納する。早く逃げてくれないかな。一人も殺したくはないんだ。でもカツオノさんへの注目を少しでも減らしてあげたいからね。


「警告はしたよ。死んだら自分たちを恨むんだね。もう少しでその城、屋敷はこの世から消えてなくなる」


 もう一度警告するとさすがに残った兵は逃げ出した。一人だけこちらに飛んできてる奴がいるな。


 白い髪に褐色の肌、頭の横から羊のような巻き角が生えている。……魔人族だ。私の目当てのやつかわからないけど、来てくれるなら有り難い。収納、と。


 それを見て兵は一人残らずいなくなった。残ってる人、いませんように。


 超高速の溶岩の塊が落ちる。【セット:ミーティア】発動。






ユーミ「どーん、てってーれ、てってれれって、てってれれって、てってれれ」


ホタテ「なにか盆が回っている幻視が」


リンヤ「この作者このネタ好きよね」


アジ「カツオノ、後ろ後ろ」


カツオノ「金だらいが襲いかかってくるのなんでだよ!?」


ユーミ「セット:金盥スキル。金だらいを精製してタイミングよくぶつける」


カツオノ「意味わかんねえー!」


ユーミ「六時だけど全員集合してるね!」




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