デート。
ユーミ暦は58日に。夏真っ盛りだね。ヒガンにきたよー。うん、農家さんとかいなくて良かった。畑の移動とかめんどくさいしね。少し離れた丘陵にはブドウ畑や梨園、リンゴ園なんかがあるみたいだね。シードルとかあるかなー?
ヒガンはアキハルくんが栄えさせた国だけあって和風なものも多いようで、清酒や味噌醤油も買えるらしい。納豆はなかった。アキハルくん納豆嫌いかな?
あと小説とか漫画もあったりする。アキハルくんオタクだしそっちから改革したみたいだね。リバーシとかもアキハルくんが始めたらしい。そっちは私も手を出すつもりなかったから助かる。
お金持ちになったアキハルくんは貴族嫌いだったので議会制も導入しているようだ。王族や神様の権力はそのままあるみたいだけどね。立憲君主制って言うのかな? 昔の王族の人がアキハルくんに上手く取り入ったんだろうか。
町ではアキハルくんに文句をいう人もいるみたいだけどどう見てもマーティスやイーモンに比べるとヒガンは豊かだ。逆に言えば豊かゆえに文句を言ってられるんだよね。ハグリットなんてみんなひたすらに労働して文句も言えない環境だったからすごい静かだったもん。
そんなこの国の情勢を酒場でリンヤと飲みながら語っている。いやね、ハグリットで一人でいたら想像以上に寂しかったんだよね。ユーミ帝国とか言ってたくさん人を集めて毎日のように宴会してたせいで一人でいるのが寂しくなってしまった。私は不自由に、弱くなっていく。
その分あったかいのが嬉しい。野生を取り戻すべき? わかんないな。
爺ちゃんや婆ちゃん、父さんや母さんが生きてた時だって実はそんなに一人では行動してないんだよなあ。サバイバルの良さは一人じゃないことの良さを知ることにもあるのかもしれないね。
今はリンヤと飲もう。
「はあ、リンヤやホタテさんといるのが一番好きかもしれない」
「それは愛ね!」
「家族愛だね」
「まあそれでいいけど。せっかくワインの美味しいヒガンに来たんだから飲みましょう!」
「鰹っぽい魚のタタキが美味しいよね。赤ワインが意外と合う」
「肉っぽいからかもね。魚は白ワインが定説だけど赤身の魚は赤ワインが美味しいのよ」
「あー、それはなんかわかるね。なんでだろ?」
白身魚は白ワイン、赤身魚は赤ワイン。白身魚はタンパクで赤身魚は脂味が強い。白ワインは甘くて赤ワインは香りが高い。うーん。正しい組み合わせな気もするね。味を楽しむのか風味を楽しむのかってことだろうか?
まあ普通に美味しい組み合わせを選べばいいんだけどね。
「なんでヒガンの話がワインの話になったんだっけ」
「酔ってきたからよ」
「間違いないね!」
まあヒガンは日本に近いけど異世界だから荒くて、でも神様がいるから安定してる国、という感じかな。アキハルくんはあんまり仕事してないみたいだけど、逆に言えば神様なのに不自由なのがおかしいわ。私も好きにやってる。しゃしゃり出すぎたらみんな動けなくなるしね。
自由を妨害されたくないよね。私一人の責任とか義務なんてとっくに支払ってると思うんだけど。借金してそのお金で賭け事をしてるとかなら批判は受け付けるけど。人も殺してないしな~。不思議なくらい殺してないよね。私としてはこちらを殺しに来る相手を殺すことに忌避感なんかないはずなんだけど、やっぱり強すぎるからね。
相手を殺さないと言っていいのは相手を殺さなくても抑えられる人間だけだと思う。そうでなければ仲間から死ぬことになるからね。仲間が強いならいいけど、仲間は普通に負担になるよねえ。
自分の考えは語るのはいいけど、押し付けるのは意味が違うよね。だから好きにのんびりやればいいんだ。弱ければ現実を飲み込んで強くなっていくしかない。手助けはしても身代わりなんてあり得ない。例え苦しむのが他人でもそこは許せないね。自分のために最低限は生きないと。
私は好きにやる、できることをできるだけやる。したいことをしたいだけやるんだ。
今回はリンヤとヒガンでデートです! 飲んでるだけだけどね。場所が変わってるだけでいつも飲んでるな。あとは土を掘ってるか釣りしてるか。
たまにはクーラー抜きで戦ってみるのもいいかもね。ヒガンにダンジョンあるのかね。まあ時間かかるからダンジョン好きじゃないんだけど。一週間とか? その時間で山でも掘るわ。
「空き時間に山を掘る女皇帝がここにいる」
「光栄に思うがいい、山よ!」
「そのうちマグマに当たりそう」
「当たっても平気なんだなこれが」
「チートめ。そういえばホタテさんがユーミにもらったオリハルコンを指輪に加工したとかで、くれた」
「私はもらってないが?」
「つけるの?!」
「いや、指輪はつけたことないわ。金属がなんか苦手だし釣りに邪魔だし泳ぐし」
「野生児め」
「女皇帝です!」
「野生の女皇帝?」
「それは絵本のやつみたいで嫌だ!」
リンヤがもらった指輪はオリハルコンに自動防御結界とかをブリ婆ちゃんがつけた優れものらしい。八百才だけあってブリ婆ちゃんの錬金術は不可能がないレベルだわ。彼女は伝説に残るような人物なんじゃなかろうか。
ヒガンはお祭りでもやってるみたいに賑やかだ。まあ都会的と言っていいけど、さすがに日本とは比べられない。と、いうかアキハルくんが中世風を無理やり残そうとしたような、歴史的な観光地的な色合いを感じる。
新しい石積の建物が並ぶ町並みをリンヤと歩いた。屋台が並んでいる。こういう屋台の多いとこはご飯食べてから通らないと買い食いでお金使いすぎるんだよね。気にしないほど持ってるけど。
やっぱりイーモン伯爵もお金くれたし。イーモン領は地力が高くて私の協力はそんなに要らなかったのは間違いないね。
さて、リンヤと話しながら散歩してヒガンの中心地、アキハル神殿に来た。アキハルくんの実家である。……実家……。
中は荘厳な雰囲気だけどアキハルくんはそこじゃなく奥に穴を掘ってダンジョンにしてそこで引きこもっているらしい。私と変わらないよね。私は城だけど。釣りができます。
アキハルくんと話すとすればアニメの話とかだし、退屈だろうからリンヤは帰そうかと思ったんだけど、リンヤ自身が神と私の対話を見てみたいそうだ。リンヤは冒険者だからエルフのわりに好奇心が強いね。普通のエルフは世界樹の森に引きこもってるらしい。
門衛にアキハルくんが話を通してくれていたみたいで、私は女皇帝である!とか偉そうに言ったのに通してくれた。私が不審者扱いされない程度に教育されてる。優秀だなあ。こういう変な駆け引きばっかり最近は覚えるな、私は。
さて、くねくねした廊下を通り何本もあるエレベーター!を使って、なんか暗号まで打ち込んで、どこの不可能な任務やねん!とか心の中で突っ込みつつ、私たちは神、アキハルくんの部屋に来た。
ユーミ「リンヤとデート、リンヤとデート、ふっふ~ん♪」
リンヤ「ふっふ~ん♪」
ホタテ「…………(ジト目)」
ユーミ「こ、これは違うんだホタテさんっ! じゃなくてホタテさんもお持ち帰りしようかな」
ホタテ「それはどうかと思うのだ」
リンヤ「浮気がバレたおっさんか! あと節操ないな!」
ルル「…………」
メイレン「…………」
ハーチア「…………や、焼き魚は嫌ですよ?」
ユーミ「モテモテ過ぎてつらい」
リッタ「…………はぁ」